金色の魔犬のエミリオ7
アリスがウイルスインジェクターを回収したことで、月蝕魔晶石は再び元気になった。
動力炉をいななかせ、僕はアリスの後に続いて地上へ。
そして僕は、驚愕することとなった。
「時間ぴったしだな」
アリスの声とともに、上空から降ってくるいくつもの影。
まず降り立つのは、翼を携えた純白。
スノウブライド。
続けて、僕らを取り囲むように。
アイオロス。スティグマータにホットグルーム。
ヴェスピナス、オクテット、デクテットに11仕様のエスポジット、グレイドレッド、幻月、スピナティオ・アッシュ、桃染・魔凛、ビートスターにMODE-RED。
総勢15機の数字持ちが次々と現れたのだ。
極めつけは、黒雲を呼び寄せ、雷鳴を轟かす魔鳥サンダーバードまでが上空を旋回している。
地面に着地する重低音が、その荘厳さを肯定する。
ナンバーズ。
全員ではないにしろ、これだけの人数が集まるところを見られるとは。
全員が着地すると、アリスは回線を開く。
「皆、すまん。もう殲滅した」
「終わったならちゃんと連絡しろ。皆にいらない心配をかけるな」
アリスの救援に来てくれたであろうメンバーに謝罪する。
これは2時間と告げてでたアリスが、時間内に通信をしなかったために救難に出たものらしいと、あとで知った。
基地内をサーチしていた十六夜がつぶやく。
「……ん。確かに生命反応はない」
続いて盟主である4が口を開いた。
「無事ならいい。ところで、その機体は?」
そして皆の疑問を代表した。
その機体、すなわち、僕の乗る魔犬は何か、と。
「ーーーこいつはナンバーズに入りたいって此処まで来た私の知り合いでな」
アリスは僕を指して言う。
一体何を言うつもりなのだろう。
「ほぉ?エースの知り合い、ですか。ふぅん?」
値踏みするような視線と声。
他にも多数の注目の的にされて、すごく居心地が悪い。
だけど、そんなものはアリスの言葉が吹き飛ばしてしまう。
「せっかく集まってもらってるし、皆には入団試験の立会人になって欲しいんだわ」
え、なんだって?
一気に不安が湧き上がる。
そんなものがあるなんて、聞いてない。
そんな情報も、なかった。
僕の調べが甘かったのか?
「え、入団試験とかあったっけ……?」
「いえ、ないはずよ。エースちゃん、一体何を?」
いや、5さんや6さんがつぶやいていることからも、アリスの気まぐれっぽい。
なんだ、やっぱりそんなもの無いんじゃないか。
そう考えた時、その試験は、他ならぬ盟主によって認められた。
「……1がそういうのなら、好きにして構わない。試験内容はどうするんだ?」
アリスを見据え、真意をはかるように、4は問いかける。
その問いにたいして、アリスはただ静かにこう告げた。
「機体が動かなくなるまでに、“本気の私”に一撃入れる。シンプルだろ?」
なんてことを、言い出すのか。
本気のアリスと煉獄月蝕石に、一撃を入れるだなんて。
「わかった。では、そこの。名乗りをあげて試験を受けるといい」
しかし、ナンバーズの面々が見ている中で拒否はできない。
これはアリスが僕の覚悟を問うているということなのだろうか。
アリスのように強くなるのなら、確かに本気を見せねばならない。
きっとそういう事なのだろう。
……なんだ、いつもの通り。簡単じゃないか。
覚悟が決まって、僕の中の焦りがなりをひそめる。
「エミリオ・ゴールドスミス。機体は月蝕魔晶石。居場所と強さを求めてナンバーズ加入を希望します。No.77、ラックレスの座を賭けて、僕と戦ってくれますか、ミス・ピルグリム?」
僕は最初から、アリスしか見ていないのだから。
いつも通りに、目的までやりきるんだ。
その宣言を聞いて、ナンバーズ機が距離を取る。
アリスは死神を進ませて、改めて僕に対峙した。
「エミリオ。私はお前の事を弟分だと思ってるが、手加減はなしだ」
「望むところです」
そもそも手加減なんて知らないでしょ。
僕は心の声とともに、気を引き締める。
試合の開始は、盟主のコールとともに。
「……では試験を始める」
言い終えると同時に、アリスはアクセルをベタ踏みした。
「ーーーーSCASバースト!私の全力で!お前を墜とす!!」
時限コマンドからの高速思考処理。
早打ちガンマンの如くマウントのダブルライフルを抜くと、トリガーを引いた。
アサルトライフル、レーザーライフル、加えて魔砲杖からはホーミングビームが千々と舞い、ミサイルポッドからはやや弾速の遅いミサイルが牙をむく。
死神は僕を殺す勢いで猛チャージ。
ここまでほとんど一息。
僕も同時に動いている。
「SASバースト!出し惜しみはしない!後悔、したくない……!!」
同じく時限コマンドによる高速思考。
ダウングレード版でも、やるしかない。
ロングレンジビームライフルではだめだ、即座に切り捨ててブレードを抜く。
腰マウントにセットしたミサイルとバックパックのミサイルを放つ。
手数が足りないので、ブレードを投擲、火力を相殺するとともに、予備のブレードを2本使用。
チャージしてくるアリスと交錯するが、ブレードに手応えはなく、逆に弾丸が装甲を叩き、レーザーが一部を貫く衝撃が走った。
こんな攻防、今まで一度たりともなかった。
アリスから発せられる殺気は本物だ。
今だって僕を蜂の巣にするつもりだった。
真後ろにターンする。
強烈なGが身体を襲うが、ナノマシン溶液が密度を操作し、僕を保護、僕は補助による締め付けの痛みも気にせずに魔犬を前へ!
モニターにはすでにターンを終えてこちらに迫るアリスの姿。
ブレードを構え、最初と同じミサイルと光弾を引き連れての2ターン目。
「引いて、たまるかっーーー!!!」
意地と根性で魔犬をトップスピードへ。
焼け付くほどにブーストをかけて、僕はさらに加速する。
火器はいらない!
装甲とともに全てをパージし、ブースターとブレードのみの姿に変わると、僕は地を這うひとふりの剣と化した。
限界だ。
SASバーストの残り時間、数秒。
これで!決める!!
二度目の交錯。
白と黒がお互いに色を引く、美しいシンメトリ。
静寂は一瞬だった。
“SAS Burst Locked...”
モニターのアラート表示はひび割れている。
ビームとブレードを食らった装甲なしの魔犬が、オリジナルの攻撃を耐えられるはずもなかった。
明滅するモニターが、ぐらついて地面を映す。
届かなかった。
僕の意識は、その想いを最後に、闇に沈んでいった。