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白き月蝕のヴェンデッタ  作者: 烏月ハネ
金色の魔犬のエミリオ
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金色の魔犬のエミリオ3

さらに一年がすぎ、アリスはとうとう規律違反をしすぎて除隊。紆余曲折の末、子会社のグリムシェイドに行ってしまった。しばらくして、クラリスも追うようにグリムシェイドへ。

僕は落胆した。

けれども、それまでの指針が変わるわけではなかった。

アリスに振り返ってもらうには、強さが必要だったから。

アリスが戦場にいる限り、強くなければ見てすらもらえないから。

その頃には、二人には及ばないものの、僕は曲がりなりにも部隊内でエースと呼ばれるくらいには強くなった。

まぁ、あくまでも、治安維持部隊の中で、ではあるけれど。

僕は知っている。

もっと強い乗り手や機体はたくさんいるし、巨大な兵器を打ち倒すものだっている。

だからこそ、僕は研鑽を続けた。

敵を恐れていただけの僕はなりを潜め、的確な射撃と思い切りのいい踏み込みと斬撃を身に着けた。

ちなみにアリス移籍後、僕は時折グリムシェイドの視察に同行させてもらっている。数少ないアリスやクラリスと会話できる機会だからだ。

アリスはこのたび、月蝕石(ムーンクォーツ)という機体を建造したらしい。

ジャッカルをモチーフとした真っ白な機体。

一度見せてもらったが、死神とすら形容される、凄まじい機体だった。

……僕とアリスの差は開くばかり。

僕は嘆き、しかし、止まることだけはしなかった。

アリスはいつでも走り続けていた。

僕の知っているアリスは、何かに焦がれ、前しか向いていない。

なら、僕はそれに追いつくように頑張るしか、ない。

願わくば、その隣に並んで、一緒に走ってみたい。

そんなことを、考えていた。



さらに半年が経った。

世の中ではエリシオン事件が騒がれ、それが過ぎ去った頃。

アリスの月蝕石(ムーンクォーツ)が改修され、さらに高みへ行ってしまった事を知った。

煉獄月蝕石(ムーンクォーツ・ヘル)と銘打たれた改修機は、翼を宿した地獄そのものであると噂され、1機で都市さえも落とすのではと囁かれるくらいに強力になったそうだ。

もはや零細ジャンク屋が保有する戦力ではない。

この計画には、実は望月重工が嚙んでいた。

でなければ、開発自体が潰されるか、望月重工に召し上げられていたはずだ。

魔石シリーズと銘打たれた、月蝕石(ムーンクォーツ)を始めとする機体群。これはアリスの引いた基本設計を元にグリムシェイドで思想反映と検討をされ、建造されたものだが、ワンオフである月蝕石(ムーンクォーツ)陽煌石(アルビオナイト)冥天石(レミエライト)は、端から操縦者パーソナライズ済みのピーキーなカスタムをされている。

これらはそれまでの機体流用のためにすぐに使用されるという理由もあったが、それ以上にエリシオンや富嶽で得たデータの実地試験という側面が強い。

それに対応でき、かつ、望月重工の力が及ぶ場所として、グリムシェイドが選ばれたと言う訳だ。

ゆえに、同時期に、月蝕石(ムーンクォーツ)を基礎設計に利用した魔石シリーズが建造され始めた。

それが一般化機体である魔晶石(ガルムクォーツ)だ。

現在開発中であり、近々僕の元にも配備される予定になっている。

魔石保持者に選ばれたパイロットは、すでに別部隊として再編成され、僕はその新設部隊の隊長に任命された。

相変わらず左遷組だが、新しい機体が手に入るのなら権力はどうでもいい。

新部隊の名前は、魔晶石(ガルムクォーツ)の名前が由来して、魔犬部隊。すでに狗とか猟犬とかで呼ばれているそうだ。

部隊員については、治安維持部隊の中でもエース揃いだった。ただ、アリスやクラリスを超える者は未だにいない。

僕はエースたちの中でも秀でていたが、それでも二人にはまだ届かない。

だから努力を重ねた。

血の滲むような鍛錬を続けた。

テスト機体の稼働訓練も、隊の中の誰よりも長く行った。

あの背中に追いつくためだけに、僕は走り続けていた。

そして機体は正式に配備され、エース仕様と銘打たれたSAS搭載の魔晶石(ガルムクォーツ)を、僕は乗りこなしてみせた。



「その結果が、これか」

父の指令から数日後、新たに配備された機体が届いた。

格納庫には、整備と調整が終わった真新しいシルエットが、静かに稼働を待っていた。

「これが、ナンバーズになるために与えられた僕の機体……」

月蝕魔晶石ガルムクォーツ・フィーリア

魔晶石(ガルムクォーツ)は、アヌビス神をモチーフにしている月蝕石(ムーンクォーツ)の直系系譜で、尖りすぎた性能を削り、使い勝手を良くしたもの。言い換えれば次世代汎用機とも言える。ゆえに、獣を冠した宝石の名称を与えられており、その意味には活力の原石と獣の狩猟が込められている。

この機体は、その形質を踏襲しつつも、原型に近い高機動飛行を与える方向でつくられた。

量産型をベースに僕にパーソナライズされ、さらには換装と設計変更がなされたワンオフ。

小型でも出力の大きいバーニアとブースターを複数装備した、小回りのきく調整だ。

空戦はまだシュミレータでしか経験がないが、訓練はした。

武装面はオールレンジで戦えるように、予備も含めて多めに携行するようにマウントを改造。ちなみに、意外にも僕は近接格闘戦が得意らしいので、ブレードは多めに用意してもらった。

中距離戦を意識した2つのロングレンジビームライフルが主兵装。この点は通常仕様から変わらない。

後はミサイルが火力重視と速度重視で二種類、これは通常仕様にはない。

さらには煉獄月蝕石(ムーンクォーツ・ヘル)に搭載されたSCASをダウングレードしたSASも引き続き搭載されている。

実に僕らしい、安全をみた構成の機体だ。

アリスがみたら笑われそうな心配症。

けれど、それでいてきっちりと火力をだせる。

「ーーーーこれなら、僕も君と飛べるかな?」

流石にアリス機には届かないが、ワンオフの魔石と渡り合うくらいのスペックにはなっている。

あくまでもスペック上では、だが。


あぁ、僕の魔犬(フィーリア)


機体の仕上がりにうっとりとする。

これは僕が機体フェチなのではない、断じて。

詰まるところ、この機体には、何が込められているのか。

それに起因する。

答えは、僕の心なのだ。

自己陶酔も多少はあるが、そこは黙殺する。

昔ならいざ知らず、今の僕は明確にアリスへの恋慕を自覚している。指令とはいえ彼女を監視する事に忌避感が無い訳ではないが、僕はそういう感情の軋轢をある程度は既に黙殺できるようになっているのは、幸か不幸か。

矛盾した恋慕と忌避、義務と無力感。その他色々。

かつて、僕には思い入れのある物語があり、その主人公には愛する者がいた。

何故か家にあった童話。

魔術師と使い魔の恋物語だ。

僕はその使い魔の名を、心として刻んだ。

魔犬にして魔剣、そして魔神、フィーリア・ブラックランタン。

これは僕の一縷の希望であり、掲げる目標。

かつて物語すら取り上げられた出来損ないの僕には、こうしてその名を騙ることくらいしか、反抗できなかった。

まやかしの父の顔が、失望に歪む。

だが、それも黙殺した。

裏腹に、笑みが溢れる。

傍から見て、それがはにかんだようなささやかなものなのか、それとも仄暗い感情からくるものなのか。

格納庫には誰もおらず、その笑みに秘められた意味を知る者はいない。

「あとはアリスに接触して、ナンバーズに加入するだけ、かな」


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