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月蝕覚醒1

要塞都市でのジャバウォック焼失、巨大兵器との交戦。

惑星グロリアでのトーナメント戦と巨大ドラゴンの暴走。

そして、その鎮圧での一連の英雄たちの共闘。

戦闘データは集まった。

無力感も積み上げた。

もうやられるのは沢山だ。

こんな仕打ちをする世界には、真っ赤な復讐を。

ジャンク屋グリムシェイドの調達部隊リーダー、アリス・ピルグリム・ヴェンデッタは、その口元を歪めて嘲笑った。


ーーー


空間転移門ゲートが現れた事件『スカイフォール』から数十年が経った時期、エグザマクスの登場が地球での近代戦争を一変させた。

そして2XXX年末。再び出現した空間転移門よりやってきた惑星バイロン人は地球への侵攻を開始。紛争を続けていた地球側の各国も地球連合を結成しこれに対抗。

かくして地球連合軍とバイロン軍とのエグザマクスを主軸とした全面戦争が勃発した。


EXAMACS(Extended Armament & Module Assemble & Combine System 拡張型武装及びモジュール組立結合システム)。地球連合とバイロンが使用するマシーン、モジュール構造でパーツによる変更により多用途での変更拡充を可能とする。

これらは各地の国家、団体、武装勢力が広く使用するようになった兵器である。

当然、正規軍があれば、非正規軍もあり、その規模や行動も様々。

操縦する兵器である以上、無人化されていなければ、当然操縦席にはなまものが乗る。

アリス・ピルグリム・ヴェンデッタは、そのなまものだった。

名前なきなまものであった頃、アリスはアリスなどという名前ではなく、親を失って家を失って自分を失ってもまだ死にたくなかった。

だから要らない事を忘れたことにして、戦闘用の機械として振る舞った。

あとに残ったのは、戦闘機械であるための技術や知識と、僅かな人間性だけだった。

過ぎ去った悲劇は巻き戻らず、アリスが覚えていることは少ない。

同じようななまものが沢山いて、死んでいった。

顔も声も名前も知らない。

ただただ戦った。戦って死んでいった。

アリスは運が良かった。

アリスには優れた技量があった。

死にたくない想いと、灯火のように残った復讐心が、アリスを生かした。

破壊された機体から助けだされた時に、アリスはなまものから再び人に戻った。

それから、灯火は燃料を得た焚き火のごとく燃え上がった。

アリス・望月という新しい名前には、馴染めなかった。

望月重工の保護施設から治安維持部隊を経て、ジャンク屋グリムシェイドに転がり込み、そこでジャンク屋の調達部隊を半ば勝手に立ち上げた。

全ては力無きゆえに失わないため。

全ては理不尽へ復讐するため。

ジャンク屋の隅に転がされ寂れたアルトの操縦桿を握りしめた。

こうして暴虐無法のジャンク屋は誕生したのだ。


ーーー


グリムシェイド社、開発格納庫。

夕暮れの点検歩廊にて。

定時ブリーフィングを終えたあと、アリスは最近の日課となった新機体の観察をしていた。

進捗は順調で、完成はそう遠くなく、いつになくご機嫌。

その横顔は血の気が無いように見えるほど白く、その代わりのように漆黒に染まるショートヘアがざんばらに揺れる。

格納庫をぬける風を受けつつ、新機体をつぶさに観察する瞳は、夕暮れの陽のように紅い。

しばらくすると、ブーツが縞鋼板を叩く音がした。

「クラリス、なんか用か?」

眼前に佇む白い巨獣から目をそらすことなく、アリスはややトーンの低い返事を返す。

歩廊の階段を登りきったのは、クラリス・望月・ハンマーヘッド。

青みがかったプラチナブロンドの少女は、アリスのチームメイトであり、可憐な見た目とは裏腹に苛烈な切込み隊長である。

「アリス、また開発中の機体眺めてるの?」

「私の機体だからな。あとアリスって呼ぶんじゃねぇ」

二人は望月重工の児童保護施設からの馴染みで、これは挨拶みたいなものだった。

いつものやり取りのあと、クラリスはアリスの隣に並ぶ。

二人の前にそびえるは、白い巨獣。

仮称としての呼び名はジャッカル。

その頭部のモチーフそのままが技士たちの中での呼び名となっているその機体は、アリスが社長に直談判して新設を決めさせたものだ。

「流石に威圧感があるわね」

「並の機体の倍はあるからな」

ジャッカルは大型機だった。

隣で整備中のアルトと比べると、そのサイズが規格外であるとわかる。

アリスの様々な要望を、技士たちが喜々として詰め込んだ成果だ。

負けないで勝ち続ける機体を求めて、機能を詰め込んだ。

この機体は、ジャンク屋グリムシェイドの技術と経験を凝縮して練り上げられた、ひとふりの剣なのだ。

それが何かを守る聖剣なのか、それとも破壊の限りを尽くす魔剣なのか、まだ誰も知らない。

クラリスには、そのジャッカルの貌が恐ろしく見えた。

それを駆ることになっているアリスは、クラリスの心中など知りもせず、期待感を膨らませていた。

「毎日見ててよく飽きないわねぇ」

「私は技士でもあるからな。単純に組み上がってくのは見てて面白ぇぞ」

望月重工の保護施設から通算で数年。

アリスとクラリスの関係はそれなりに長いが、クラリスにはまだアリスを理解しきれない。

技士として操縦士として尊敬し憧れもしている。性格も把握しているが、時折垣間見える戦闘狂いの様相には、少しだけ、恐怖を感じる事がある。

ジャッカルを見やるアリスは、そういう目をしている時がある。

どこかに、行ってしまいそうな、そんな目を。

そんな時、二人の足元から声がかかった。

「リーダー、クラリス、食事ですわよー」

下を覗き込むと、桃色がかったプラチナをなびかせるお姫様が、床に長い影を落としていた。

「おーう、今行くー」

アリスが返事をし、クラリスは小さく手を振った。

歩廊から降りると、そのお姫様ービアンカ・マギアマキナは言う。

「タツキも呼ぶように言われてるの。途中で電算室に寄りましょう」

格納庫を出て、3人で社屋の別棟へ。

別棟は居住スペースと書庫、電算室などでできており、集合住宅然としている。

スカートをふわふわ揺らしながら先導するビアンカについていくと、すぐに電算室にたどり着いた。

扉を開けると、冷気にまとわりつかれた薄暗い部屋に、茶髪で眼鏡姿の女性がPCにかじりついてぶつくさ言いつつキーボードを叩いている。

「おーい、飯だぞー、竜貴ー、聞こえてっかー」

極度に寒い部屋にアリスは入らずに、カーディガンの背中に言葉を投げるが、どうやら聞こえていないらしい。

仕方なく、クラリスが部屋に入り、肩を叩いてようやく振り向いた。

「ん?クラリスか?みんな揃ってどうした?」

東雲竜貴シノノメ・タツキ

元整備・電算技士であり、今はグリムシェイド調達部隊兼電算技士。

隊の中では最年長だが、それでも技士たちの年齢の半分は行かないくらい。

そんなうら若い乙女が、寝食も忘れて仕事にかまけていたらしい。

「飯だ、飯。そろそろ切りあげろ」

そう言われて、竜貴は時計を見やり、それから立ち上がって伸びをした。

「随分没頭していたみたいだ。呼びに来てくれて助かるよ」

竜貴が行っていたのは、ジャッカルのためのデータ整備だ。

戦闘データが膨大すぎるのと、アリスの要望に合わせた調整に手こずっているらしい。

「だが、だいぶ掴めてきたよ。リーダーの望む機体完成ももうすぐだな」

「頼むぜ、竜貴。だが、長時間の労働は良くねぇな」

「はは。全くだな。あまり根を詰めないように気を付けよう」

アリス、クラリス、ビアンカ、竜貴、以上4名。

このチームがジャンク屋グリムシェイドの調達部隊であり、戦場で恐れられ嫌われるハイエナであると、誰が見るだろうか。

傍目には女子4人組。

かしましい青春にありそうな雰囲気だが、それは一部に過ぎない。

グリムシェイドの代名詞。

これらの真価は、戦禍の鉄火場にて発揮される。

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