078 これ、どうしたらいいと思う?
私たち二人は伯爵家の3人から宥めすかされながら領都にある大公爵邸に引きずるように連れていかれた。
お父様の仰るには。伯爵家の3人は大公爵の治療のため大公爵邸を訪問する途中の大通りで偶然にオリビアそっくりの私を見つけて継母が私に突撃したということらしい。
……なんて運とタイミングが悪いんだろう。犬の糞を踏んだような気分になってしまった。
そしていま私は大公爵邸に連れ込まれた後、大公爵家の家族、使用人の全員が大騒ぎになってお迎えされて平身低頭、大公爵の治療をしてほしいと全員から土下座されてお願いされている。
「……アリス。これ、どうしたらいいと思う?」
「オリビアのしたいようにしたらいいと思うけど。僕としては、オリビアから削除した欠陥スキル『治癒』ってほんと厄介だなーって思ってる」
「ふーん。そうなの?」
「だってねえ。自分の命を削って『治癒』を発動する欠陥スキルを世界に組み込むなんてさ、この世界を作った神は意地悪な神様だなって思うよ」
「そっか、そうかもね。ガーベラだって治癒の力を持ってるって調子に乗って第一王子の婚約者に納まったところで。いざとなったら国王の王命で治癒の行使を指示されたら逃げられないからね。結局は私とおんなじなんだよね。話を聞いてざまーみろとは思ったけどさ」
「僕としては欠陥スキル『治癒』をこの世界から消し去りたいけど僕の力では無理なんだよね。せいぜいガーベラのスキルを消してあげることくらいしかできないな、このスキルを消せば無理やり『治癒』を使わされることは無くなるからね……。
だけど、今後もこの世界では欠陥スキル『治癒』を持つ人が生まれつづける。この世界のありようというか、仕様なのでどうしようもない。残念だけど」
「なるほどね。アリスの言ってること、なんかわかる気がする」
「ふふっ。ありがとう、僕もこうやってお話しできるオリビアが居てくれて嬉しいよ。んで、どうする? オリビアはこの人たちに復讐はしないって言ったけど助けてあげる義理も無いとはおもうけど?」
「んーと、実はね、自分でも不思議なんだけど、この人たちに対する恨みってそこまで感じなくなっちゃってるのよ。アリスのとんでもない奇跡の魔法とかに触れつづけて私の価値観? 変わっちゃったみたい。
それに今の私は幸せで。アリスと一緒に面白おかしく、のんびりと暮らしているけどハッキリ言ってこの世のどんな王侯貴族よりも満ち足りて良い生活、幸せな生活を送れていると思うのよ。
だから、いまさらこの人たちがどうなろうと心はあんまり動かないんだと思うのよね。
その一方で苦しんでいる人たち、不幸な人たちを見捨てて放置するのは気分が悪いでしょ? かなり上からの意見だけどさ。
だから、ちょっと助けてやってもいいかな、とは思ってるのよ」
「うんうん。その気持ちわかるよ。やっぱ、多くの人が笑って暮らせる世界がいいよねえ。
苦しんでいる人や不幸な人を放置できないというオリビアの気持ちはよく分かるよ。そんなオリビアも大好き。優しいってことだからね」
アリスは私の右手をそっと握りながら優しく頭を撫でてくれた。アリスの言葉に胸があったかくなるとともに顔も少々赤くなってしまった。
アリスは光の精霊だけど、本来は男でも女でもないんだって。だけど人間の身体を作るにあたっては私のお兄ちゃん設定が使えるよう私に似た男性型になってくれた。アリスが言うには子供を作ることも出来るんだって。
……あら、どうしよう。兄妹設定ってだけで全くの他人なんだから夫婦にもなれるってことだよね?
♢
その後、私は大公爵を「治癒」を使って治療してあげた。アリスからの加護で貰った「治癒」はその効果も強力で大公爵の病を完全に治して健康体に完治させてしまった。
いちおう、大公爵には私が治療をしたことは口止めをした。バラしたら二度と治療してあげないよって言ったら激しく頷いてくれた。
第一王子については大公爵を通じて「私の名誉回復をするなら治療してあげる」と伝えたらそれでいいから治療してくれってことで、伯爵家一同に紛れて王宮を訪問して治療してあげた。
私の治療の結果、第一王子は全快して完全健康体になった。彼のヤバい性格は直ってないと思うけど。
ガーベラには、失った命、寿命を元に回復することは出来るけど代償として「治癒」スキルは失ってしまう。どうしたい? って聞いたら寿命を元に戻してほしいということだったのでアリスに頼んでガーベラの寿命を元に回復、「治癒」スキルを削除してもらった。
これからは治癒スキルに頼ることなく地道に生きてください。
♢♢♢♢
その後も私たち二人は北の森の家の中にある「精霊の世界」にある住居で暮らしながら日中は森の家の庭でお茶を飲んだり、果樹の世話や眷属達と遊んだりして過ごした。
眷属はあんまり可愛くない白い鳥しかいなかったのでアリスに頼んで犬と猫の眷属を増やしてもらった。可愛い。
四阿でお茶を飲みながらアリスに聞いてみる。
「前に聞いたんだけどさ、もう一回聞いていい? アリスって、どうして私を助けてくれたの? なにか目的とかあるのかな? やりたいこととか?」
「何回でも聞いてもらっていいよ~ オリビアを助けたのはオリビアを気に入ったからだよ。
僕がおもったとおり、オリビアが大好きになっちゃった。オリビア、一緒にいてくれてありがとうね」
ふふふ! うれしいなあ! アリスは思っていることを口に出してくれるからほんと嬉しい。心がほっこりと暖かくなって幸せな気持ちになってくる。私ってやっぱり凄く幸せだ。
「目的とか、やりたいことはこの世界で穏やかに、楽しく過ごすこと。たまには人の街に繰り出して買い物とか、お食事とかしたり、旅行してもいいかも。
それとあの厄介な欠陥スキルの『治癒』。これをもって生まれる人が居たら見つけ次第、スキルを削除してオリビアが持ってるのと同じ本当の『治癒』を加護として与えてあげようと思ってる。
ま、この世界も広いからできる範囲でしてあげようとおもってるから無理はしないけどね」
「アリス、この世界の人のことを考えてくれてありがとう。私もアリスを手伝わせてね。アリスと一緒にいると私は凄く幸せなんだ」
「僕もだよ。一度オリビアの寿命を元に戻したから分かってると思うけど、寿命は何回でも戻せるから。先は長いけど末永くよろしくね、オリビア?」
「こちらこそ! アリス、よろしくね!」
以上で「婚約破棄された令嬢編」は終了。
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