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7話 俺

白いオフショルに、膝丈の、ミディスカートの彼女は、こちらに気づくと、駆け寄ってきた。短い髪だからか、ふわふわと、よく揺れる。




「いとせくーん!

 久しぶりだね!

 今日は、一緒にデート企画出来るって聞いて、楽しみにしてたんだよ?」


 彼女の得意技である、上目遣い。さらに、小首をかしげる。

 そんな、彼女、こと、井勢谷桜は、何のためらいもなく手を振って、近づいてくる。




「おう!久しぶり。」

 俺は、そう、返事をするのであった。



 ここは、東京のある撮影スタジオ。


「では、今日お世話になる方です。まずは、カメラマンの茂木涼太(もぎりょうた)さん。」


「こんちわ。良い写真、バンバン撮らしてもらうんで、よろしく。」


 そう言って、さっきの無精髭を生やしたおじさんは挨拶した。





「次に、アシスタントに入ります......です。」

「よろしくお願いします。」


 スタッフが、今日の撮影に携わる関係者を順に紹介していく。




「次に、今日お世話になる女優の井勢谷桜さんでーす。よろしくお願いしまーす。」


 桜の名前が呼ばれた。

「井勢谷桜です。よろしくお願いします。」

 彼女は、優しく微笑みながら、お辞儀をする。






「次に、前にピンチヒッターでお世話になって、そこからどんどん売れっ子になっていく、モデルの矢々葉絃千(ややはいとせ)くんでーす。よろしくお願いしまーす。」




「矢々葉絃千です。今日は、よろしくお願いします。」

 そして、俺は、紹介されるがままに、頭を下げた。




 そう。


 混乱している人も、いるかもしれないが、俺はモデルをやっている。

 と言うか、やらされているのだ。


 実の母親に。


 ここで、矢々葉絃千が誕生した経緯を説明しようと思う。




 その前に、俺の母親の説明が先だな。



 俺の母親は2人いる。

 1人は、産みの親、もう1人は、育ての親。


 で、俺が説明したいのは、産みの親のほう。


 母の名前は、井勢谷麻莉(いせたにまり)




 日本で、この名前を聞けば、1人しか思い当たらない。

 そんな、誰もが知る超人気カリスマ女優。井勢谷麻莉。


 彼女は、幼少期から女優としての才能を発揮し続け、高校生にして、早くも、ハリウッドスターになった超天才的女優である。



 容姿、スタイル、演技力、何をやらせても申し分ない。

 女優という幅を越え、声優、アナウンサー、ありとあらゆる仕事をこなし、老若男女問わず、世間から認められている。

 そして、MCやバラエティーなどでの立ち回りも上手く、ディレクターなどの業界関係者からの支持も厚い。



 この前の主演をつとめた映画は、自身が持つ、歴代最高の興行収入を大幅に更新。

 先日、始まったばかりのドラマは、いつものように、最高視聴率、90%を越えてみせた。

 衰えることを知らない、右肩上がりの、超エリート級女優である。


 そんな彼女が、俺の産みの親である。

 ここで、あれ?と思った人。

 それは、正解だ。





 週刊誌でも、ネットで検索しても、彼女に息子は存在してないじゃないか、と。

 結婚して、娘が2人いるとは、書いてあるが、どこにも息子は載っていない。

 デタラメ言うのも、大概にしろと。



 俺が、井勢谷麻莉の遺伝子を分けた息子であることは、この世界でも、片手に入る人しか知らない。



 なぜなら、

 俺は、彼女と不倫相手の間に生まれた隠し子であるからだ。






 だから、世間一般においそれと俺の姿を晒すことは、彼女のこれからを汚してしまう。


 少し大げさかもしれないが、今の日本のテレビ業界は、井勢谷麻莉で成り立っているようなものだ。

 彼女の不倫を、隠し子を世間がどう評価するか、考えたくもないが...まあ、そう言うことだ。

 だから、この年まで、極力目立つことは、控えてきたし、元々、裏方作業のほうが、自分の性格にも合っていたから、自分が隠し子で、世間から疎まれる存在であることに何も抵抗は感じなかった。



 そんな俺が、ここでモデルをやらされる羽目になったのは1年前の、1本の電話が始まりだった。






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