34話 桜視点
数時間前。
「よろしくお願いしまーす。」
現場に響く彼の声。
表情は、元気な笑顔を見せているが、私には、いつもより、どこか作り物のような、人工的な笑顔に見えた。
今日は、企画の第2弾として、これからこの特集を連載として、続行するかを検討する大事な撮影。
スタッフさんからも、いつもの何倍もの熱量を感じる。
「桜ちゃん。おはよう!」
「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」
私は、いつものスタッフさん達に挨拶してメイクをしてもらう。
「いいねぇ。桜ちゃん、今日も髪がサラサラ。」
「えへへ。ありがとうございます。」
「今度、レギュラーで歌番組の司会になったんだって?」
「はい!
昔から長寿番組なんですけど、最近人気がイマイチで、番組の視聴率を上げるために視聴者のアングルを若い世代向けにしていくそうです。アイドルグループが多く取り上げるから若い人がいいって。」
「良かったじゃん。」
「はい。
私、エスケープって言う男性アイドルグループが結構好きなんです。会えたらいいなぁって思ってます。」
「エスケープかぁ。そいやぁ、家の甥っ子も好きって言ってたっけなぁ。」
「仲良いメンバー達を見てると癒やされます。」
「よっしゃ、メイクバッチリ。
カメラテスト行っておいで。」
「ありがとうございます!」
そう言って、私達の撮影は始まった。
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「今日も、気合い入れて頑張るんで!」
ひときわ元気な声が路地に響く。
カメラマンの茂木さん達に、笑顔を振り撒く彼はやはり、いつもと感じが違った。
それでも、撮影は順調に進んでいった。
「はい。チェック入ります。」
そう言われて、私達モデルは一旦休憩が出来る。
今日は屋外で、一般人の通行の妨げにならないようにと、機材や小物は出来るだけコンパクトになっている。
だからか、腰を下ろせるのは、簡易的な椅子、1つしかなかった。
私の前に、彼の写真チェックをして、彼が先に休憩に入れる。
そのあと、私も休憩だ。
椅子、椅子座ろっかな?
そう思って、目をやると、ぐったりと、体を椅子に預けている彼の姿が目に入った。
正直、ビックリした。
現場に椅子が1つしかないことはよくある。
彼と一緒の現場でも何度か遭遇した。
ただ、私の知る彼は、椅子が1つの時、決まって、
「ほら、ここ座っとけ。今日も遅くまでかかりそうだから。」
「よかったら、椅子余ってるんで、使われませんか?」
と、相手のモデルさんを気遣い、椅子に座って休むよう勧める。
今まで、決して、彼が腰を下ろす所を見たことがなかった。
やっぱり、今日、変だ。
私は、彼に駆け寄る。
「いとせ君。おつかれー。」
すると、彼は、しゃんと、背筋を伸ばし、笑顔を見せた。
「おつかれ。」
嫌だ。多分、彼はムリをしている。
それを感じさせまいと、愛想笑いで取り繕っているんだ。
出来れば、私の前では、本当の彼の姿に戻って欲しい。
私だけのまえでは、弱音だって吐いて欲しい。
これ、独占欲なのかな?
でも、ほんとに、頼って欲しい。
だって、あんなに辛そうな顔してだんだもん。
汗、いっぱいかいてるよ。
大丈夫?
目元も...メイクで分かりずらかったけど、最近、ちゃんと寝てるの?
くま酷いよ。
色々、私のこと気にしてくれるけど、先に自分のこと、心配してよ。
私は、心の中で、言葉にできないことを呟く。
「学校行事の次の日なのに、疲れてないのか?」
そう聞いてくる彼に、私は少しでも元気になって欲しかった。
「昨日の仕事は、さすがに途中で寝ちゃった。」
こん。
私は、自分の頭を叩きながら、てへ。と、舌を少し出した。
普段は、恥ずかしくて、こんなことしない。今日だけの、サービスなんだからね。
彼は、私のその仕草に、少し笑ってくれた。
その後、おでこをくっ付けようとして、避けられる。
やっぱり、体調悪いのかな?
ぐるぐると、色々考えてしまう。
なのに、そんな彼は、自分を元気と偽る。
座っていた椅子から立ちあがり、私に席を譲る。
「いいよー。今日は、そんなに疲れてないよ?」
彼にそのまま、座っていて欲しくて、断る。だけど、彼は、「レディーファースト」
と、椅子に座るようにいってくる。
自分が座りたいくせに。
もう。
そう思ったけど、頑なな、彼の好意を無駄にしないために、結局、私は、椅子に座った。
「ありがとう。」
「ああ。」
彼はまた笑っていた。




