18話 伊世早美優のお礼
俺は、目の前の光景に絶句する。
フォーマルやセミフォーマルのドレス、スカート、ズボン。
皆、思い思いの格好で、最大のおめかしをしたのだろう。
この雰囲気と場には、初々しさと、純粋な楽が混在していた。
「あ!桜ちゃん!」
「井勢谷さん!遅いよ~!」
「もうみんなとっくに始めちゃってるよ。」
「お。
伊世早さん。このシャンパン開けていいか?」
「マジ、うめー。今日来て良かったー。」
そして、その空間にいるのは、第二高校、俺のクラスの同級生たちだった。
訳が分からず、目を泳がせている俺に、伊世早は、両手の指を絡ませながら、言ったのだった。
「鳩谷さん。
いつも、お世話になっています。
今日は、鳩谷さんに楽しんで貰いたくて、私からささやかなプレゼントです。
本当は、私と鳩谷さんの2人でやろうと思っていたのですが、それだと、盛り上がりに欠けるかと思いまして、急遽、予定を変更いたしたんです。」
そんなことを言われる。記憶に思い当たる節がない。
「お嬢様にお礼を言われることなど、何も致しておりませんが.......?」
「いいえ。
私は、日頃から、鳩谷さんの、世間の見方、考え方を聞き、大変ためになっていると感じております。
高校進学も、鳩谷さんの言葉があったからこそ。
今の私があるのも、鳩谷さんのお陰だと、恥ずかしながら、思っております。」
そーいやー、そんなこともあった。
ただ、あれは、自分の本性と素性を隠して、いかに、うまく生きていくのか。
ただただ、息苦しい思いをして、肩身の狭い思いで、俺が我慢する意味もない気がするから、その辺は、バランスを取りながら、密かに、楽しいライフを送りたい。
って言う感じの、俺の願望を大分オブラートに包んで、世間話の1コマに添えただけだったように思うが.......。
返答に、困っている俺を置いて、彼女は、勢いついでに、話を続ける。
「ですので、長年の感謝を込めて、丁度、高校入学と言う節目に、お礼を伝えたかったのです。」
「喜んでい頂けますか?」
それとも、やっぱり、私が....か、からだで..........。
彼女は、なにかモジモジしながら、呟く。
「で、せっかくなら、クラスの親睦も深められたらいいねってことになったんだよね。」
隣で、俺たちのやり取りを見ていた、井勢谷桜は言った。
「そうそう。」
「皆、思い思いの場所で、別々に交流するんなら、いっそのことまとめて、そういった場所を作ろうって。そしたら、伊世早さんが、部屋なら余ってますよ。って。」
伊世早さんありがとう。
そう言いながら、近付いてきたのは、鳴神美琴と仕田原理子だった。
どうやら、もうクラスの中心人物に接近出来たらしい。
というか、伊世早美優は、自分をただの高校生として、接してくれとか言ってたよな?もう既に、高校生の出来るレベル越えてる気がするが.......?
屋敷の大広間借りて、親睦会って、どっかの貴族のパーティーかよ。
そう突っ込みたいが、多分、彼女のなかでは、ただ、クラスメイトを家に呼んだだけってことになってるんだろうな。
「ですから、今日は、鳩谷さんも、使用人ではなく、お客さんとして、くつろいで行って下さいね。」
そうは言っても、クラスの親睦会に、使用人が混ざれと?
今、どう見ても、クラスの親睦会がメインだろ。
どうゆっくりさせたかったんだ?
うーん。よく分からんぞ?
■■■■■
どういう訳か、俺は、鳩谷正也として、俺のクラスの親睦会に居る。
最初は、俺に、お礼をしたいと、始まった計画は、いつしか、主軸が、親睦会にそれてしまったらしい。
今では、なぜ、俺がこの場に居るのか、居る必要があるのか謎だ。
いっそ、用があると抜け出したい。
クラスメイトは、皆、飲んだり、食べたり、話したりと楽しんでいる。
まあ、これで、クラスの仲は深められたんじゃないか?
俺は、行き場をなくし、かつ、一緒に混ざるとか言うがらでもないため、テラスで1人、外の景色を眺める。
はぁ。
こんなにのんびり出来るのなら、せめて家が良かった。
しかも、こんなに時間をもて余すくらいなら、伊世早の来年度の見通しを計画したいものだ。
そんなことを考えながら、ため息を漏らす。
「はぁ。」
「よお。大将。
退屈そうで、なによりだな。」
後ろから、声をかけられた。
中村優だ。
俺は、振り返らずに言う。
「ここで、その呼び方は、まずい。
知り合いってバレたらどうする。」
「ヘイヘイ。使用人さん。」
口調が、どこかチャランポランだ。
優も俺に背を向けた状態で、まるで、1人でいるかのように立ち振る舞う。
俺たちは、お互い、背を向けたまま、話す。
「芸能、経営、高校、これ。
随分と、忙しそうにしてるじゃんか。
お前って、顔いくらあっても足りないのな。
いい格好しいにもほどがあるぞ。
どっかで、肩の力抜かねーと、後で大変になるぞ?」
「ご忠告どうも。優も、学校のキャラが随分と投げやりだな。」
「まあ、高校めんどいなーって。
しっかしなー。
あいつも、同じ学校とか聞いてねーよ。今すぐ、転校したいわ。
毎日会ってるくせに、プライベートは隠すからなー。」
「はぁ。俺もだ。鳴神が居るのは知ってたけど、あいつらまで.......。」
「ああ、妹たちか。
って、は?
お前、あいついんの知ってて、黙ってたのか?」
「当たり前だ。俺は、お気に入りだから。」
「今度、絞めてもらえ。」
顔を見ていなくても、低くなった声から、優の顔が想像出来た。
「生憎、尻には敷かれなれてるから。」
「じゃあ、俺が変わりに......。」
「良いだろ?別に。
優に言ったら、絶対学校変えてただろ?
俺、二人と離れるの嫌だし。」
「ケッ。言ってろ。」
「ヤベ。今の、カットで。」
つい漏れてしまった心の声を慌てて回収しようとしたが遅かった。
「無理。」
マジかー。
そう、心のなかで脱力した。
「お、噂をすれば、なんとやらだ。じゃな。」
そう言うが早いか、優の声は、背後から遠ざかっていった。
その意味が分かる。
「鳩谷さん。
これが、私が通う学校のクラスメイトたちですわ。
高校進学を後押しして下さった、鳩谷さんに、一度、お見せしたかったのです。」
テラスに、伊世早美優が現れた。
「優しそうな人たちばかりのようで、私は嬉しいです。お嬢様は良いクラスメートに恵まれましたね。」
「はい。」
自分のクラスメイトを褒められて、伊世早美優は少し勢いのある返事をした。
「ただ、後2人ほどお声をかける前に帰られたようで、お誘い出来なかったんです。」
そういうことなんだな。
どうやら、彼女は、初めて通う学校のクラスメイトとやらを、見て欲しかったらしい。
俺的には、伊世早美優と2人だけのパーティーが良かったと思うが、これは口が裂けても言わないでおこう。
「あー!
伊世早さんこんなとこに居た!」
「あ、使用人さん。使用人さんもどうですか?」
「いいね!
人数多い方が盛り上がるし!」
なぜか、クラスの女子たちが、俺に近付いてきた。
何事だ。
そう思うと、仕田原理子は言った。
「王さまゲーム!
使用人さんもいかがですか?」




