01-92.やけ酒
久しぶりに時間内。
そんな拍子抜け回です。
冒険者ギルドの、
いつもの奥の部屋にいる。
目の前にはヘルミオネさんが
座っている。
オレは一言も口をきかず、
ただ座っていた。
「アータルくん。
まずはおめでとう。
勝ったね。」
オレは何て返したら良いか
分からなくなって、
ヘルミオネさんを
じっと見てしまう。
「・・・嬉しくないの?」
そう言われて、
自分の気持ちを確かめるように
胸に手を当てる。
「何て言うか・・・
全然実感がないんですよね。」
「圧勝だったからね。
大人2人を相手に、
真っ正面からやりやって
勝っちゃうんだもん。
お姉さんびっくりしちゃったー。」
後半は取って付けたような感じ。
知ってるぞ。ヘルミオネさん。
オレにだいぶ賭けてくれていたのを。
ちょっと視線が
ウェットになってしまった。
「ヘルミオネさんは、
オレが勝つと思っていたの?」
そんなつもりはないけど、
上目使いになっているかも。
ヘルミオネさんが珍しく
動揺しているようにも見える。
「私は、アータルくんが勝つと
思っていたよ。
でも、もっと苦戦するかと思ってた。
さすがに相手は大人2人だったし。」
「で、いくら儲けたんですか?」
「やだなぁ。
あとでアータルくんにも
お・す・そ・わ・け
するよ!」
「お手柔らかにお願いします。」
オレはもう一度考える。
確かに運は良かった。
槍のヤツへの、
あの一撃は余計だった。
膠着した状況に焦れて、
手を出しちゃうのは分かる。
オレも冷静に考えると、
勢いで突っ込んでた。
運・・・運なのかな。
たまたま上手くいった。
それだけ?
変に成功してしまうと、
振り返りが上手くいかない。
成功は何で成功したか、
理由がはっきりしない。
でも、失敗の原因はハッキリする。
今の自分に取っては
失敗の方がありがたかった。
別に失敗したいってワケでは
ないけど。
壁に立て掛けた長剣を見る。
ひしゃげてしまって、鞘に収まらない。
「剣、直さなきゃだね。」
「あぁ。」
ヘルミオネさんのつぶやきに
ぞんざいに答える。
ちょっと1人になった方が良いかも。
おごり高ぶってるわけでもない。
自分の出せるだけの、
ありったけの力を
ぶつけに行こうとした。
それなのに、
奥の手も出すこともなく終わってしまって
欲求不満と言うかなんと言うか。
相手も弱くなかったはずだ。
それなのに!
オレに厄介なシコリを
持たせたるのには成功したぞ!!
この気持ち悪い感触を何とかしようと、
剣でも素振ろうかなって思ったけど、
ひしゃげちゃってるし。
全然落ち着けないオレは、
街の中をブラつくことにした。
「宿に帰ってゆっくり休んだら?」
と、ヘルミオネさんは言ってくれたが、
全然休めそうになかった。
────
剣を修理に出しに行く。
まずはコレやらないと。
カランカラン
ドアベルが鳴る。
今日も人がいない。
いつも通り、
受付でジイサンが
武器を手入れしている。
いつ見ても手際が良くて、
声を掛けるのをためらってしまう。
「お。キミか。
剣の修理か?」
「あ。はい。」
オレは恐る恐る、
隠すように持ってた
長剣を差し出す。
いくら刃がある鈍器と言えども、
剣の横っ腹で叩くなんて
剣としては間違った使い方だったよな。
「見事にひしゃげてるな。」
オレは俯くしかない。
「腕の方はどうだ?」
「腫れる前に回復薬掛けました。」
「そうか。」
ジイサンは、
ひしゃげた剣を掲げて見ていたが、
オレに振り向いて、
「勝ったな。」
眉間にシワが寄ってたし、
てっきり怒られるかと思った。
「見てたんですか?」
思わず聞いてしまう。
「まッ。売った武器がどう使われるか、
興味があったんだ。」
ジイサンは、
オレの長剣に
布を巻き始めた。
「そしたら、
長剣を使ってるじゃないか。」
「そっちかー!」
「対人戦で楔とハンマーで
どう戦うかに気になって
見に行ったが、
いやいや。
良いもの見せてもらったよ。」
「へ?」
「武器は道具だ。
それ以上じゃない。
必要があれば剣で殴る。
その選択は間違ってない。
キミの剣の所作は、
剣を雑に扱うようには見えなかった。
使い馴れてない鉈とハンマーを使わず、
使い慣れた長剣を佩いているのを見ても、
剣を信頼していることがわかった。」
ジイサンは、カウンターに両手をつき、
こっちをじっと見て話す。
「あの場で首も飛ばせたはずだ。
でも、それをせず、剣で殴った。
そりゃ、剣を何て使い方するんだ
とか、
八つ当たりも大概にしろ
とか言うヤツもいるが、
私は思った。
感情に任せて剣を振っても良いだろうと。
葛藤を剣に込めても。
そりゃ、剣術の専門家じゃないからな。」
そしてウィンクする。
「若い内に、牙を研いどけ。
剣はそのためにある。
そしてぶっ壊して持ってこい。
ウチも儲かるからな!」
言ってることは無茶苦茶なんだけど、
何も言えなかった。
ツッコミと言うかなんと言うか、
そんなのもできなかった。
状況のせいかな?
カウンターの横の小窓から
暗い室内に光が差しているから?
言葉にならないけど、
その態度が、オレの気持ちを少し
理解してくれたような気がした。
────
店を出たオレは、ギルド前の道を進む。
そしてヌアクさんの家の前を
通り過ぎた。
今日は掃除してないなぁ。
あれ?
あの時もしかして、
待っててくれたのかな?
あのいい加減な、
自分の興味あるところにしか興味ない、
ジイサンの顔が目に浮かぶ。
でも、今日は悔しいから寄っていかない。
用もなく行くとお金も取られちゃうしね。
天気の良い昼下がり。
お昼寝には持ってこいの時間だ。
手にはお酒を持っている。
もちろん自分で飲む気はない。
そんなにたくさんではなく、
コップ半杯くらいだが、
イイお酒にした。
どう考えてもあの身体に
樽一杯のお酒なんて
入りそうにはないから。
向かうのはこの先、
黒猫バステト様のところ。
少し話をしてみたかったんだ。
────
「少年。確かにその選択は悪くない。」
バステト様は、いつもの祭壇にいた。
今日は人通りもそこそこいる。
多くは頭を下げて、
祭壇の前を通っていく。
残りは手を振ったり、挨拶したり。
そんなルールなのかな?
「必要ないと言ってるのだが、
習慣になっているようでな。
そのままにさせている。」
オレが何も言ってないのに
バステト様が答えてくる。
さすが神様。
ナチュラルに心を読んでくる。
皿にちょっとだけ出したお酒を
舐めている姿は、
どっからどう見ても猫なんだけどなぁ。
「まぁ。猫だしの。
そんなに畏まるな。
やりにくい。」
空になった皿を見て、
オレは残りを注ぐ。
「もったいない。
少しずつ注げ。
イイ酒だぞ?
この地の恵みに溢れている。」
やっぱりイイ酒なのか。
また持ってこよう。
「オヌシの懐が痛まん程度にな。
で、なんじゃ?
聞きたいこととは?」
言わずも分かってくれるところが神様だ。
「だが、質問は口に出して言え。
言葉にせねば、
オヌシ自身も理解できん。」
「オレの疑問なのに?」
「そうだ。
自分の外に出して、
他のモノに伝えることで
初めて自分が理解できる。」
含蓄ある言葉だが、
ちょっと理解が追い付かない。
あとで考えよう。
それよりも聞きたいことがある。
「オレがここにいる意味って
あるんでしょうか?」
「無いな。」
即答された。
「いる意味なんてない。
それらは全部後付けだ。
せっかく拾った命、
好きに生きるが良かろう。」
そう言うと、
役目を果たしたと言わんばかりに
丸くなって寝だすバステト様。
猫か!
気まぐれか!
だが、心の中でのツッコミには
応えてはくれなかった。
用語説明:
・ヘルミオネ
「実際どのくらい賭けていたんですか?」
ヘルミオネ「ノーコメントで。」
・武器屋のジイサン
職人ってカンジ(アータル談)
・ヌアク
ギルド公認スキル鑑定士
選り好みが激しい。
・バステト
神様。黒猫の姿をしている。
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次回は10/2の予定




