01-85.獣道
こんばんは
久しぶりにこの時間です。
今後ともよろしくお願いします。
ベッドの上で目覚める。
この街に来てからずっと
泊まっている宿だ。
値段はそこそこで、
特段良いってワケではない。
部屋から出て、
顔を洗い、少し剣を振る。
いつも同じ作業をして、
だんだん目が覚めてくる。
昨日は頭使ったナー。
でも、何か解決したってことでもない。
昨日会ったのは、ヌアクさん
白髪頭の良くしゃべるジイサンだ。
ジイサンは、この街の冒険者ギルド の
公認スキル鑑定士の一人。
ヘルミオネさんに紹介されて行ってみた。
そこで分かったこと。
・早く転職しろ
・そのうち良くなる。
・がんばれ
だった気がする。
もっと色々引っ掛かったこととか
あった気がしたんだが、
寝て起きてみると、
スッカリ吹っ飛んでる。
頭使った気がするもんなー。
ヘルミオネさんと何話したか、
ほとんど覚えてないや。
ヌアクじいさんのアドバイスは、
何か良く聞いたアドバイスに似ているなぁ。
そんなに辛いなら転職したら?
忙しいのは今だけだ。その内良くなる。
若いうちは死ぬ気でがんばれ。
異世界でも同じアドバイスかぁ。
オレ、頑張ってるように見えないのかなぁ?
ってかガンバレってなんだよ。
何をするんだよ。
あー。
腹が立つのは、
お腹が空いているからなかな。
朝ごはんを食べに行こう。
いつもの食堂に向かう間も考えてしまう。
なんだよ。
全然前に進んでないじゃないか。
────
「いらっしゃいー。
お。今日もいつものでいいかい?」
いつもの食堂は、
恰幅のいい(最近覚えた褒め言葉)女性が、
にこやかに言う。
「お願いしまーす。」
空いているカウンター席に座り、
料理が出るのを待つ。
周りには肉体労働系のオッサンたちが
ガハガハ笑いながら飯を食ってる。
この食堂は、朝からボリューミーな料理を
出してくれるので、
オレたちみたいな肉体労働者に
とても優しい。
ドンッ!
と、肉の大盛りとパン、
温かいスープが出てくる。
「はいよ。たくさんお食べ。」
このふくよかな女将さんの料理は、
豪快で野性味あふれる味だ。
最初は、朝から
こんなに食えるか心配だったけど、
全然ペロリといけてしまう。
たまにおかわりもしちゃう。
ドンッ
「辛気臭い顔だね。
それでも食べて元気をお出し。」
追加で焼き魚・・・
って言っても兜焼きって言うの?
デカイ魚の頭の部分を焼いたのが出てくる。
当然食べる。ウマイ。
もちろん無料じゃないけど、
こう言うの、何か嬉しい。
とりあえず何かウダウダ考えるのは
止めて、まずは腹ごしらえをしてしまう。
────
この時間、冒険者ギルドに顔を出すと、
朝のラッシュが始まっている。
パーティー向けの依頼掲示板には、
たくさんの人が集まり、
押し合い圧し合いしている。
その横では、
「魔法使いは居ないかー?
属性、宗派は問わないぞー。」
「斥候いないかー?
迷いの森中層で、
グリズリー狩れるヤツー」
と、臨時パーティーの募集をやっている。
オレは、現在とある事情で、
勝手にクエストを受けられないから、
全く関係ないんだけど、
事情が無くても呼ばれないな。
素人だもんな。
中級冒険者になるには、
転職が必要なんだ。
やり方が分からないから、
またヘルミオネさんに相談しようと思う。
それにどんな職業になれるのか、
職業を選べるのかどうかも分からない。
地元じゃ皆、辺境伯のお抱え騎士団以外は
職業なんてなかったもんな。
そう言う意味では、変わったなぁ。
田舎から出てきたときは、
あんなガッツリ朝ごはんなんか
食べなかったし。
魔法なんか使えなかったし。
追われてもいなかったし。
呪われてもいなかった。
あれ?
良いこと少なくない?
我慢して田舎にいて、
親や団長の言うことを黙って
聞いてりゃ良かったのかな?
掲示板に群がる人たちを
遠巻きで見ながらぼぅーっとしていると、
ツンッ
「ぐはぁ」
脇腹をつつかれ、変な声が出る。
後ろを振り返ると、
「おっはよー。アータルくん。
トイレを我慢するような顔して
どーしたの?」
笑顔で現れたのは、
メガネ系小悪魔女子、
この冒険者ギルドの受付嬢、
ヘルミオネさんだった。
「何?
私の顔、何か付いてる?」
「朝のこのクソ忙しい時間に
カウンターから離れていいんですか?」
「大丈夫。
私、今朝は担当じゃないんで。」
胸を張るヘルミオネさん。
うん。健康的。
「アータルくん。
鼻の下伸びてるよ。」
慌てて口許に手をやるけど、
いつも通りだ。
あれ?
オレいつも鼻の下が伸びてる??
「そうそう、アータルくん。
この前の二人組との決闘ね、
三日後に決まったよ。」
色々ありすぎて、すっかり忘れてた。
オレが死に物狂いで戦って狩った
グリズリーを横取りしようとする
オッサン2人組と決闘しなきゃ
いけなかったんだ。
って、
「決闘?」
「あれ。そうだよ。決闘。
街の近くにある、決闘場でやるんだー。」
「あ。それ出るのオレです。」
「知ってるよ。
賭けとかも行われるから、
冒険者ギルド的には、
いい収入になるんだー。」
「それ、冒険者に聞かせて良い話なの?」
「大丈夫。
今回は治癒術士もスゴい人くるしね。
腕の2、3本は大丈夫!」
「腕は二本しかないです。
ヘルミオネさん。」
「知ってるよ。
今から楽しみだなぁ。」
「目がお金になってるよ。
ヘルミオネさんー」
うっとりしているヘルミオネさん。
大丈夫かな。
オレ、この人に相談しようとしてたけど、
人選を誤ったかな。
とりあえず何か薬草採取的なものを受けて、
小銭を確保しつつ、
昨日のことを思いだそう。
オレは何枚かしかない個人用の依頼を掲示板から剥がして、
受付機に持って行く。
うーん。見慣れてくると、
この受付機、後ろで人がやっているのが
何となく分かるな。
でも、面と向かって話さない分、
事務的で効率良く進むかもしれない。
オレの依頼の受注も上手く行ったらしい。
まぁギルドから交付されている依頼なのは
確認しているから、当たり前だけど。
オレは野草採取するときにいつも行く
獣道に向かった。
────
「今日も今日とて薬草採取。」
そう変な調子で歌いながら、
葉っぱを集めている。
今日の集める薬草は、
葉っぱだけ。
この葉っぱは乾燥させて使うので、
比較的採取が楽だ。
だからいつも個人用のクエストが
何枚も出ている。
必要な数を揃えて、周りを見渡す。
さすがに、今日もグリズリーが
出てくることはないだろう。(フラグ)
のどかだ。
今日はいつも朝ごはんを食べる食堂で
お昼も用意してもらってるから、
ちょっとしたピクニック気分だ。
もう少し辺りを探索して、
オッサン薬師用に良いのを採っておこう。
またポーションと交換してくれたり
するかもだし。
と、
シュンッシュンッ
足元と、近くの木に矢が刺さる。
急いで身を伏せる。
矢が飛んできた方を見るが、
何も見つけられない。
木々の間は光が入らず、
今いる明るい獣道からは
状況を知ることができない。
地面に刺さった矢を見る。
明らかにゴブリンが放つ、
"木の枝の先を尖らせて飛ばしました"的な
矢とは違い、
人間が使う武器としての矢だ。
木に刺さった矢の向きは、
お尻(矢じり?)が
まっすぐ横を向いている。
近くから狙って射ったってことだろう。
でも見つからない。
相当な腕前なのか?
と、ガサゴソと派手な音を立てて、
二人組のオッサンが出てきた。
「グリズリーかと思ったら、
この前のガキじゃねーか。」
オッサンの一人がバカにしたように言う。
この前しゃべってなかった方だ。
・・・これは分かっていて
やったヤツだな。
オレはゆっくりと身を起こす。
剣はまだ抜かない。
オッサン二人は、
ニヤニヤ笑いをしたまま
距離を取って近づいてこない。
「どうした?
そんなところに倒れて。
お花摘みかい?」
面倒だなぁ。
ゆっくり考え事もできない。
用語説明:
・兜焼き
魚の頭を焼いたもの
これは魚なのか、魔物なのか。
・属性、宗派
魔法使いには得意属性があるらしい。
宗派は、どの神に力を借りるのか。
ここで言う神は力を持つナニカ
・斥候
索敵技術に長けた職業
・辺境伯のお抱え騎士団
アータルは、その騎士団員の家の出。
・決闘
あれ?もっとこじんまりしていたのを
想像していたんだけど(アータル談)
・オッサン薬師
薬好き(意味深)




