01-84.解像度
宣言通り週末です!
何とか。ギリギリ。セーフ目のアウト。
────
オッサンたちが話す話です。どうぞ。
ゴッキュッゴッキュッ
プハー
ヌアクさんとほぼ同じタイミングで
コップから水を飲む。
コンッ
コップを置くと、
同じタイミングでポットに手を伸ばす。
オレは右手、ヌアクじいさんは左手だ。
ポットの取っ手付近で手が触れあう。
ガシッ
ポットは客人であるオレの近くにあった。
先にポットを掴む。
触れ合う指先にドキドキして
恋が始まる・・・とかは
まったく無かった。良かった。
そっちのフラグは
早めにへし折らないと。
オレはコップに水を入れて、
ポットを置く。
「アータル、どうしたい?」
ヌアクさんは、
ポットから水を注ぎながら言う。
「どうしたい?」
漠然としていて、なんとも答えにくい。
ドポドポドポドポ
水がコップに注がれていくのを
見ながら考えてみる。
一攫千金で金持ちになって、
ウハウハ ハーレムで
ただれた 暮らしをしたい
なのに、オレがやってるのは何だ?
ずいぶん遠回りしてないか?
ウハウハになるスキルとか、
ハーレムを作るスキルとか、
そーゆーのが必要なんじゃないか?
そんなのを持っていそうな人
のところに行って、
しばらく観察すれば、
手に入るかもしれない。
ゴトッ
ヌアクさんはポットを置く。
「アータル、お前のユニークスキルは、
確かに強力だ。
何たって安全に使えるスキルを
得ることができるんだから。
世の中にはスキルの欠片も無いヤツが
ごまんといる。」
ヌアクさんは、さっきまでの
少しおどけた感じと違って、
ちょっと真剣だ。
確かに。
たまたま、このユニークスキルを手に入れた。
使い方さえ間違わなければ、
ウッハウハのウハウハのなれるかも。
「俺の知ってるコピースキルや、
ロブスキルを持つヤツは
ロクでもないクズか、
考えナシのお調子者だった。」
オレはなにも言えず、ヌアクさんが
コップを傾けるのをただ見ていた。
「アータル、お前の"蛮族の好奇心"は、
万能ではない。
たとえスキルをコピーできても、
オリジナルと同じくらいに
使えるようになるには、修練が必要だ。
それこそオリジナルを使うヤツが
そのスキルを体得したくらいには、な。」
そうだよな。
そんな虫の良い話はない。
あれ?待てよ。なにかが引っ掛かる。
だけど上手く言葉にできない。
うーん。。。
オレのモヤモヤには気付かないのか、
ヌアクさんは続ける。
「もしアータルが、
今後コピーする相手やスキルを
選べるようになっても、
驚異的な身体能力を持ったヤツ
のスキルなら、まぁ、
オリジナルと同じにしようなんて
諦めた方がいい。
何にも限界はある。」
「オレがその"驚異的な身体能力"ってヤツを
持ってないから?」
「そうだな。
覚えるスキルには、向き不向きがある。
"強い"スキルは、使用者のベースに
根ざしていることが多い。」
「ベース??根ざしている??」
「つい、難しい言葉を使っちまったな。
ベースってのは
使う人の資質と言うか、何だろうな、
性格とか背の高さとか
考え方とか体重とか、
そう言った急には変えられない、
その人固有のものって感じかな?」
「まぁ。確かに。
オレはヌアクさんじゃないもんね。
どんなに完璧に真似しても、
オレはヌアクさんにはなれるわけない。
加齢臭とか出ないし。」
「そうだな。
焦らなくても
加齢臭は年を取ると皆出るぞ。
安心しろ。そこは保証する。」
「いや。オレは大丈夫。」
「まぁ。冒険者だからな。
年を取る前にポックリ
いっちまうこともあるしな。」
「そうだな。
ジイサンは、長生きしろよ。」
「言われなくとも。
孫娘が嫁に行くまでは死なんよ!」
「もうすぐってことか!」
「お前にはやらんぞ。アータル。」
「大丈夫です。」
「何だとー!」
「さっきと同じパターン。」
そうだな。
真似しても、本人になれるわけでもない。
オレはオレだ。
でも闇雲に、がむしゃらに、
ガンバれば良いって問題ではない。
人の良いところを真似して、
自分の血肉にしていく。
それはそうなんだけどさ。
「そもそもスキルって何なの?」
フゥー。
確かに、ヌアクさんが
細く短く息を吐くのが聞こえた。
スゥー
鼻からスゴい勢いで空気が吸われる。
そして・・・
「何かスゴいもんだー!」
急に立ち上がり、
片足を机に乗せ、
片手の拳を天に高々と掲げ、
突然大声を出すから、
ビクッとなった。
「それ、それを言う時、
お決まりのポーズなの?」
恐る恐る聞いてみる。
「これは俺が、
師匠から受け継いだ教えだ。」
「な、なるほど。
それってザンジバル一族?」
「まぁ。そうだな。」
と、いそいそと座るヌアクさん。
少し恥ずかしいなら、
止めとけば良かったのに。
そして、
あのフトモモさんは、
ザンジバル一族だったんだな。
「確かに"何かスゴいモノ"なんだけど、
何かしっくりこないって言うか?」
「使いこなせてないからか?」
「うーん?」
何だか色々考える日だな。今日は。
うん。オレの脳の許容量を超えたぞー!
「頭が破裂しそうなんで、
帰って休んで、気が向いたら考えてみる。」
「お。そうか。」
「また来ても良い?」
「良いが、ギルドを通さないと有料だぞ。」
「え。金取んの?」
「当たり前だろ?
どこの教会だって、
祈るのに金を取るだろ?」
「え。じゃ、じゃあバステト様は?」
「あの方は別だ。
気が向かなけりゃ、
祭壇にもいらっしゃらない。」
「そうなのかー。
で、いくらなの?
ヌアクさんの相談料。」
「金貨三枚」
「暴利!!」
「適正だ。
それだけ俺の言葉は
貴重なんだぞ。」
「何か納得行かないが、
もし来るなら、また
ヘルミオネさんに払ってもらおう。」
「何だとー!」
と言うやり取りをつつ別れる。
結局スキルって何なんだろう。
でも、何か考えるキッカケには
なったかな。
金貨三枚分の価値があったか
分からないけど。
────
「と、言うことがあったんですよ。
ヘルミオネさん。」
ギルドに来ている。
カウンターには、人がまばらだ。
「バステト様いらしたのね。
会えて良かったね。」
「バステト様は神様なんですか?」
「そうね。
この街ができる頃から
あそこにいらっしゃるそうよ。」
「マジで?!」
「そりゃ、神様だもの。」
「スゴいなぁ。
で、ヘルミオネさんは、
わざわざバステト様に会わせるために
遠回りの道を教えたの?」
「アータルくん、
地図を信じて逆の方に向かうから、
ちょっと心配しちゃったー。」
「いやいや。
従うでしょ?地図に。
え。何か間違ってる??」
「うーうん。間違ってない。」
「え。何なの?
情緒不安定なの??」
「そうなのかも。
まッ。ヨカッタヨカッタ。」
全てを悟ったようなヘルミオネさんに、
それ以上、掛ける言葉は
無かったわけで・・・。
少し早いけど、晩飯にしよう。
────
何か色々モヤモヤする。
スキルの話を聞けたのは、
良かった気がするんだ。
でも、何かしっくり来ない。
何かスゲー能力を授かった!
とかじゃない、微妙な感じ。
今まで得たスキルは、
ロクなスキルじゃない。
そして何かと何かを組み合わせれば、
最強になるワケでもない。
何て言うか絶望感。
可能性はとてつもなくあるけど、
何を試したら良いか分からない。
しかも何度も試すことができる。
オレが生きてる限り。
リスクも今のところ考えられない。
何かしなければいけないんじゃないか?
何をするべきなのか?
あー頭がー。
無理だな。
これ以上考えるのを良そう。
今日は。
帰って寝よう。
用語説明:
・ポット
水差し。冷たい水が入ってる。
こちらの世界でポットと言うと、
熱いお湯が出るイメージ。
・虫の良い話
ここで言う虫とは、
こちらの世界では道教に由来する
三尸のこと。
・フトモモさん
アータルは名前を覚えていない??
・バステト様
黒猫




