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歩けば何処かに辿り着く  作者: 河内 胡瓜
旅立ち
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01-07.ブートキャンプマニア

翌日試したのは、

何回かに分けて罠を作り、

罠にはめること。


悲報!

素人が短時間で道具なしに

罠を作るのは無謀。


いやぁ。

前の日に寝る前に頭の中でやった

シミュレーションでは

けっこう上手くいったんだよ?


いつ寝たのか覚えてないくらい

グッスリ眠れたし。


分かったことは、

時間がかかるような罠は

やっぱり道具と時間が

必要だということ。


中途半端な物を作るくらいなら

少しでも距離を稼いだ方がいい。


一度もやったことがないものを、

イキナリ本番で試して

上手くいっちゃうヤツって

なんなんだろうな。

少なくともオレではないことは確かだ。


とりあえず、他にも思い付く

ありとあらゆる手段を試してやる!

オレの貞操を守るために!!


・・・と、決心をしたにも関わらず、

相変わらず全然先に進まない。

逃げてはすぐ捕まりの日々だ。


「疲れたー」


ベッドの上に倒れ込む。


温泉的泉のお陰で

体力的にはなんとかなっているが、

心理的にやられている。


成果が見えないって言うか、

やってもやっても変わらないと言うか・・・。


「生前と変わらないんじゃないか」


なんて弱気になってきた。

オレは楽して、まったりと暮らすため、

一獲千金を目指して

やって来たはずなのに!!


翌日。


余りに進まないのに焦れたのか、

ムキモジャも妥協案のような物を出してきた。


そんなもの受け取らない!

最初のルールでやってやるぜ!!


・・・なんて気持ちはサラサラないので、

ありがたく受ける。


「今からオレが目をつぶって

 ランダムにボックスの中から

 アイテムを出す。

 3つのウチ、一個を持っていけ。

 俺から一本取ったら、

 ソイツはくれてやる!

 ただし、カウントダウンを始めるのは、

 アイテムを地面に置いたらすぐだ。

 そしてカウントも少し長くする。

 荷物を背負わせるのも無しだ。」


「お、おぅ。」


何でちょっとデレたんだろう。

オレが全然どうにもならないからか?


「因みに戦闘に関連しないものも出る。

 替えの服とかだな。

 赤いフンドシとか出たら

 装備して良いぞ。

 ちなみ俺は今日は赤フンだ。」


「それ一番要らない情報!」


ムキモジャはニカッ!と笑い、


「では行くぞ!」


と考える暇も与えず、

直ぐに始めた鬼ごっこ。


ドーンと出てくる

良く分からないものたち。


とりあえず、

手近なものを手に取って

走り始める。

そして走りながら、

手の中の物を確認する。


「ブーメラン!」


思わず声が出たが、

それよりは呼吸を落ち着けることに

時間を使えば良かった。

手の中には、あのコイン一枚で買えるような

ちゃちいペラペラのヤツじゃなく、

武骨で一本の堅い木から削り出しました

ってヤツが握られてる。


でもこれでどうやって戦う?

狙いも定まりにくいし、

そもそもこれが一度当たったくらいで

あのムキモジャがどうにかなるとも思えない。


しかも投げたら終わりだ。

何かにぶつかって

運動エネルギーをそれに渡して

その場に落ちる。

か、もしくは、

当たらずに元の場所に戻ってくる。


どちらにしても、拾いには行けないだろう。

ハズレだな。

あとの二個がなんだか分からないが、

これでやるしかない。


振り返ると、

ムキモジャがスゲー勢いで

追ってくるのが見える。


いつもより距離が取れてるからか、

ハッキリと見える。

だが、逃げ切れないのは経験上わかる。


ムキモジャがこっちに向かって飛びかかって

腕を伸ばしてくるのが

スローモーションに見える。


「フゥンッ!!」


オレは振り返り、

右手に持っていたブーメランの内側を、

伸ばされたムキモジャの左手首に引っ掻けて

自分の左下へ降り下ろす。


自分でも良く分からない声が出た。


ブーメランの掛かった

ムキモジャの腕が左に流れ、

汗臭そうな左ワキが空いたのが

視界の端に見える。


しかしオレの体は、

ブーメランを持つ手と一緒に回転中だ。

そのまま倒れ込むように

右肩から体当たり!


「ぐふっ」


思わず息が漏れる。

ムキモジャは少し仰け反っただけだが、

今まで延々とやってた

鬼ごっこ(のようなかわいがり)の中で、

はじめて有効打を与えた気がした。


自分も痛いけど。

一瞬息も止まったけど。


無意識だったが、

剣術の「受け流し」の型に似てると思った。

何だかんだで意外と

血肉になってるんだな。


付け焼刃な罠を仕掛けるより、

こっちの方がまだ確率が高いかもしれない。

2日目に散々やられたけどな。


「そうだな。

 馴れないことをするよりは

 得意なことをやった方が

 うまく行くことが多い。」


少し顔がニヤけていたのかもしれない。

ムキモジャが急に話しかけて来て気付いた。


「坊主はアレだな。

 本番に弱いヤツだな。

 基本的な身のこなしとか、

 そう言うのは出来てる。

 だが、場に飲まれやすいせいか、

 動きがバカ正直になって読みやすい。

 追い込まれりゃ、ちっとは力を発揮できるが、

 それ以外はてんでダメだ。

 自分の領域に誘い込むのも実力の内だぞ?」

 

とか言いつつ、

素手で肩を掴もうとしてくるのを

ブーメランの背で打ち上げる。

 

「これしかないと腹をくくっちまえば、

 ほら、中々粘れるじゃねぇか。」

 

が、奮闘むなしく

開いた正面からガッシリ捕まり、

ワシャワシャの刑だ。


見ようによっては、

孫を溺愛する好々爺に

見えなくもないかもしれないが、

やられている方にとっては正に地獄。


たわしのようなゴワゴワした毛で擦られる。

解放され、手足を大地につくと、

うずくまるしか出来ないorz


「ほれ!

 もういっちょやるぞ。立て。

 自分で歩く気がねぇヤツは

 いくら足を動かしても歩けねぇぞ。」


無理矢理立たされる。


「ちょっ。ちょっと時間をくれ!」


オレは考えていた。

遠くに見える、

さっきのスタート地点辺りには

何も残ってなかった。

それは残りの2つをしまってから

走り出してるってことだ。


でも、よく考えてみろ、

最初にボックスを使った時を。


かじったリンゴを棒に突き刺すなんて

無駄な作業だったが、全然見えなかった。


ん?見えなかった??

あの時、強い風が吹いて目を覆った。

そして腕を退けると

棒に刺さったかじりかけのリンゴが

あったんだよな。


最初にリンゴを出したときは

穴は一拍遅れて開いたし、

閉じるときもゆっくりだった。


もしかしてボックスって開いて閉じてって

ホントは高速じゃ出来ない?


手品と同じで、

他のコトに注意を引き付けている間に・・・

ってことか。 

確認してみよう。


アイテムボックスから出てくるものによるが、

何かのキッカケにはなるかもしれない。

 

「アイディアの在庫は十分か?始めるぞ」

 

・・・なんて甘いことはなかった。


アイテムボックスから出てくるものは、

ホントにランダムで、

同じモノが出てくることは少なかった。


山刀とかナイフとかは

比較的に出ることは多かったが、

消耗品だからだろう。


オレの手にあるもの以外は

全てしまってやり直してるのに、

何度か出るんだから、

もともと同じモノが複数個あったんだと思う。


重い斧やハンマーなんて

出すときは時間がかかっていた。

中に手を突っ込んで、かき混ぜて出す。

大きいものだと、穴から出るまでは

手を離せないみたいだ。


幸いなことに「危険物」は出てこなかった。

良く考えると、

服とかはロープの代わりになるかもな。

強度がダメそうだけど。


魔法とか使えりゃ楽なんだけれども。

それだったらそもそも素手でも大丈夫か。

活動出来る時間も増えてきた。

どちらかと言うと

ほとんどが鈍器で打ち合ってる時間だが。

 

無論、この観察で

犠牲が出なかったわけではない。


でも、心は負けない。

楽しく愉快で、胃が痛くない世界のため、

今日もオレは戦うぞ!

楽に生きたいんだ。

用語説明:

・赤フン

戦闘服の一種。晴れ着の一種としても扱われる。

同様の下着は世界中に存在する。

赤いのは縁起が良いらしい。


・ブーメラン

棍棒の一種。(大型のものを除けば)手で投擲可能。

回転して飛ぶ。


道具箱(アイテムボックス)

ムキモジャの使う道具箱は、

操作から効果が現れるまでラグがあるようだ。

これが全てのスキルで言えるのか、

道具箱だけなのか、ムキモジャだけなのかは、

今のところ不明。

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