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歩けば何処かに辿り着く  作者: 河内 胡瓜
旅立ち
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01-06.ブートストラップ

ご覧頂きありがとうございます。

とりあえず死ぬほど走った。

必死に走って、

心臓だか何なんだかがスゴい痛かったが、

構わず走った。

 

心の中で100数えながら、

足を必死に動かす。

肺が熱い。


口を大きく開けてるけど、

酸素が全然足りない。

生前でもこんなに走ったことねぇよ!


草原とは言っても平坦ではなくて、

沼地があったり、大きな木が生えていたり。


そんなに速度も上がらない。

何度も転びそうになりながら、

ひたすら足を動かし、手で宙をかく。


もう少しで森が見えると言うところで

後ろを振り返ると、

ムキモジャがスゴい勢いで向かってくる。


振り返るんじゃなかった!!

怖いよ! スゲー怖い。


嘘だと思うなら今すぐ

筋肉ムキムキのヒゲモッジャモジャの人に

追いかけられてみて欲しい。

絶望感と共に、

狩られる獲物の気持ちが分かるから。

 

瞬く間に捕まり、

モジャモジャのヒゲでワッシャワシャにされた。

うぅ。オッサンの臭いがする。

荷物を背負わされ、

ぬるい液体(水って言ってたけど良くわからない何か)を

飲まされ、すぐカウントが始まる。


とりあえず何も考えずに

その場から離れることにしたが、

今度はさっきより短い距離で捕まる。


そりゃそうだ。

荷物を背負っているんだから。

そして捕まってワッシャワシャ。


うぅもうお嫁に行けない。

でも心は負けない。


もう何回かか繰り返す内に全く動けなくなり、

ムキモジャが終了の合図で、

やっと初日の地獄の鬼ごっこが終わった。


何も考えられず

重い身体を引きずって帰ろうとすると、

寄って行くところがあるから

付き合えとのこと。


「無理!無理!!」と言ったが、

ひょいと背中の荷物ごと抱えあげられ運ばれる。


そしてスゴい勢いで景色が後ろに飛んでいく。

あ。デジャブだと思う暇もなく、景色は森の中。

そして急に開けた。

 

「着いたぞ坊主。」

 

そこは川だった。

川の幅は、そんなに広くない。


緑色の苔が生えた大きな岩が積み重なって

その間から水が流れ出てきている。


手前には岩が合わさった池みたいのがあり、

湯気が出ている。

 

「これは"温泉"だ。温泉、知ってるか?」

 

ONSEN?!

知ってる!知ってる!!

日本人的遥かなる桃源郷!

 

WA NO KOKORO!

 

この世界にもあるんだなぁ。そりゃあるか。

とりあえず、ゆっくり つかりたい。

筋肉痛が酷いが、

無理矢理手足を動かして真っ裸になる。


掛け湯をしてgoだ!

丁度いい温度!


無類の温泉好きってワケでもないが、

銭湯でもなんでもいい。

風呂が足りないこの世界で

日本人だったら絶対こうする。


肩までつかって人心地つく。

ふぅ、生き返るぅ。

 

と、冷静になって周りを見てみると、

ムキモジャは服を着たまま仁王立ちしている。

 

「説明も聞かねーでよく入ったなぁ。

 一応秘湯とか霊泉とか呼ばれてはいるが、

 手順を守らんと死ぬ呪いの泉だぞ。」

 

ザバッ!

 

「ばっか!それを早く言え!」

 

―――――――


オッサンの話を聞く限り、

ヒートショック的なサムシングだった。


オレ自身もヒートショックが何なんだか、

ほとんど覚えてないが、

冷たい浴室で熱い風呂に飛び込むと、

なんや かんや あって死ぬ

的なヤツだったと思う。


キンキンに冷えたグラスに

お湯を注ぐと割れる

みたいなイメージだが、違う気もする。


まぁ。いいや。大丈夫。生きてるし。

今回は生きてるよな?

後から徐々に効いてくる

悲劇的泉じゃないよな?

 

お湯は透明で、温泉っぽい臭いはしなかったが、

あれだけギチギチ言ってた身体が

滑らかに動くようになっていた。


これ大丈夫なのかな?

逆に何か代償があるんじゃ?

寿命が減る的な。

 

ムキモジャに聞いても、

「知らん!」と良い笑顔で返された。

まぁ。将来のことより、今のことが重要か。


どうしたらこのスポ根的な特訓から

抜け出せるんだろう。


死んだ振りか?

自慢じゃないが2回は死んでるんだし、

死体には詳しいぞ。


具体的には・・・何もないな。

いつの間にか死んでたし。


何かこう、不思議な力に急に目覚めて

修行とか、訓練とか不要に・・・

 

ブクブクぶくぶく・・・

 

「おい!」

 

アタマを掴まれお湯から引っ張り出される。

寝てたらしい。

 

「ボウズ、良いことを教えてやろうか。」

 

「良いこと?」

 

ぼぉーっとした頭で言われた言葉を繰り返す。

 

「良いことだ。

 このオレが言うんだから当然だろ?」

 

「当然・・・?」

 

何だかオッサンの言葉が遠くに聞こえる。

 

「まずシャキッとしろ。」

 

「ツメター!!」

 

冷たい水の中に突っ込まれる。

で、温泉に戻される。

 

「あそこにある岩は、

 何であそこに"いる"と思う?」

 

横を流れる川の真ん中にある

一際デカイ岩を指差して言う。


特に答えを待っているわけでもないらしい。

すぐに続きを言う。

 

「あそこに"居たい"から・・・だ。

 居たくなかったら、

 川の流れに委せればいい。

 現に小さい石は転がって、

 下流に行ってるだろう。」

 

ムキモジャの顔を見る。

 

「つまりは、流されず此処に居たいって

 気持ちがあるから、

 砕けずあの場にいるってワケだ。」

 

うん。正直ピンと来ない。

きっと含蓄あるステキな言葉なんだろうけど。


流れに逆らわずに上手く乗れとか、

転がる岩は苔が生えない

ってのは聞いたことがある気がするけど・・・。


「ま。ゆっくり考えろ。」

 

ギルド2階に戻ったオレは

そんなこと考えるまでもなく眠りに落ちてた。

 

―――――――


「ぐげぇー」

 

気持ちよく寝ていたら、

急に身体が軽くなった気がして、

首がグキッてなって、天と地が逆さまに

・・・つまりは、

ムキモジャがオレの片足を掴んで持ち上げていた。

 

オレは果敢に声を上げて威嚇した。

 

「ぎぃやー!」

 

乙女みたいとか言わないで欲しい。

一度やられてみると分かる。

グゲェとかヴェーとか

絶対そんな声しか出ないから。

 

部屋には鍵が付いてるはずなんだが、

ムキモジャのオッサンには関係ないのか。

初日のアレは何だったんだ。

 

そのまま朝メシに連れ出され、

着替えもソコソコに

昨日と同じテーブルに突っ伏してる。

 

あ。ちなみに服はもう葉っぱの腰ミノではない。

昨日の帰り道から文明人だ。

オレの貞操も守られてる。

 

店の中はそれなりに混んでいるのに

昨日と同じテーブルなのは、

このムキモジャの指定席か何かなんだろうか?


そういやいまだに

ムキモジャに名前を聞いていない。

オレも「坊主」としか呼ばれない。

ま。そのうち分かるだろう。

 

回らない頭のまま、

謎肉をムッシャムッシャ食べながら

ムキモジャ対応策を考える。


闇雲にまっすぐ走っていたが、

ムダなことはわかった。


普通に逃げたんじゃ

ムキモジャから逃げ切るなんて絶対に無理。


だだっ広い平原でも隠れる場所はある。

草の陰に隠れたり、

穴を掘ってみたりしてみようか。


でもなぁ。

隠れられる草なんか

都合よく生えては無かったしな。

穴掘るには道具が必要だし。


色々ウンウン考えているうちに

連れ去られて始まるゲーム。

 

一つくらいなんかやってやる!

 

で、オレが試したのが、


"その場から動かない(=逃げない)"


だった。


捕まれば重い重い荷物が追加される。

余計に動きが鈍り、すぐに捕まる。

だったら動かなけりゃいい。


ペナルティは、ヒゲモジャに

肋骨が砕けんじゃねーかってくらいに抱き付かれ、

モジャモジャしたヒゲで

ワシャワシャされるくらいで、

(スゲー嫌だけど)死ぬ訳じゃない。


念のために言うが、

オレが変な趣味に目覚めたわけではない。

 

と言うわけで"捕まらない"ように、

伸びてきた腕を払い除けたりして

組手みたいな感じになる。


最初は素手でやっていたが、

そもそも武器を使っちゃいけないなんて

言ってなかったので、

そこらの枝を拾って木刀よろしく振り回す。

 

結論。

全然、敵いませんでした。

あっという間に懐に入られワシャワシャの刑。

 

「なんだなー。坊主は、

 勇敢と言うより愚かだな。

 愚直ならまだ良いが、正直でもない。

 言うなれば何もわかっていない

 ただのバカだな。」 

 

と感想を賜った。

二日目!!まだ二日目なのに正直過ぎ。

 

しかし正論だな。正論ほど耳障りなものはない。

正しいからって

何でも言って良い訳じゃないんだぞ!

くそぅっ!


チキショー剣術はそこそこ自信があったのになー。

全く歯が立たないなんて。

あんだけ時間を掛けてきたのに、この程度かよ。


カスリはするが、決定打には程遠い。

そんなんだから簡単に間合いに入られてしまう。


分かってるのに。次にこれが来るって。

でも全く身体が動かない。躱せない。


自分の自信の有ることで勝負して

結果を残せないってあれだな。

UFOキャッチャーと同じだな。


良い角度でヌイグルミの下に爪が引っ掛かって、

穴のところへゆっくり戻りはじめて。

やった取れちゃったぜ。

取ったヤツどうしようかなってのが

頭をもたげたところで、

穴の手前で落ちちゃう感じだな。


と、もっとマシな喩えがあるのに

それを持ち出さないで、

より凹むのを回避してみる。


どの世界にいても

オレがTUEEなんて

できないよね。

用語説明:

・ぬるい液体

ただの水なのかどうか不明。

ノドは潤う。


・ONSEN

温かい泉。何らかの効能があるみたいだが、

詳細は不明。


・WA NO KOKORO

アータルが混乱して言っただけで、

和の心とは何ら関係ない。

なお、温泉文化はこの世界でも一般的にある。


・(冒険者ギルド)簡易宿泊所

鍵つきの一人部屋。

だが、ムキモジャには効果がなかった!


・UFOキャッチャー

機械仕掛けの遊戯機。

吊り下げ型の起重機を操作棒で操り、

上手く行けば景品を獲得できる。



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