01-72.ケアレスミス
暑い日が続いてますね。
皆さま熱中症にはお気をつけください。
────
今日は間に合って良かった。。。
翌朝。
いつものように剣を振ったら、
冒険者ギルドにゴー!!だ。
今日はヘルミオネさんが出勤しているはず。
お金を返して、この前の報酬をもらって、
ちょっとオレの戦闘スタイルについて
相談に乗ってもらおう。
───
「おはようございます。
ヘルミオネさん。」
「あ。アータルくん。
おはよう。
愛しのミオネお姉さんに
会いに来てくれたのかな?」
「そうです!」
普段、オレのオトコゴコロを手の上で
コロンコロン弄んでいる
ヘルミオネさんに反撃だ!
「あ。」
と言ったヘルミオネさんは、
少し照れ笑いをする。
「まずは、お金を返そうと思って。」
「あ。ヴィーナの?
大丈夫!ダイジョーブ!!
あれはヴィーナが迷惑掛けたんだし。」
「そう言うわけには行かないです。
あの時来てくれて
ホントに助かりました。」
だいたいの感覚でお金を出して、
ヘルミオネさんの手に握らせる。
「わかった。」
真剣な顔でヘルミオネさんの顔を見ると、
ヘルミオネさんは受け取ってくれた。
そして、オレの手首に巻かれている
ヒモを見付ける。
「お。ちゃんと"契約の腕輪"
残っているね。」
「大丈夫です。
約束守りますから。」
「契約内容、
ちゃあんと覚えている?」
「覚えてますよ!
街を離れたり、変なところに行かない。
紐を破壊しない。
勝手にクエストを受け・・・」
サーっと血の気が引いてくのが分かった。
オレ、昨日何した?
薬草採取のクエストに行った。
思わずカウンターの端につかまり、
ヘナヘナと力なく腰を降ろしてしまう。
「ど、どうしたの?
アータルくん?」
ヘルミオネさんの声が遠くに聞こえる。
しまった・・・。
"期間内はギルドが指定した依頼のみをこなすこと"
オレに依頼を選択する自由なんて
なかったんだ・・・。
"これ、破ったらどうなるんですか?"
"良くて奴隷落ちです。"
あの時のヘルミオネさんの
いつもの感じとは違う
ちょっと厳しめの声が、
頭の中でグルグル回っている。
奴隷落ち・・・
目の前が真っ暗になった。
こんな簡単なミスで・・・
しかも取り返しのつかない、
致命的なミス。
一度奴隷に落ちたものは、
簡単には這い上がれない。
しかも今回は契約の神様まで
持ち出している・・・。
奴隷になるのは免れない。
軽い気持ちでクエストを受けた
自分を殴りたい。
「大丈夫?アータルくん?」
すぐ近くでヘルミオネさんの声が
聞こえたように思える。
そして、グッと後ろに引っ張られる。
しっかりカウンターのへりを握っていた
と思っていた手は簡単に外れ、
ひょいっと抱え上げられ、
連れていかれる。
柔らかくて温かい。
そして太陽のような匂い。
「うんしょっ。」
オレはイスに座らせられる。
「アータルくん?」
反応する気になれない。
すると、
ペチペチッ
「アータルくん?」
ガクガクガク
「これでもダメか・・・。」
そして、
「フゥーっと。」
「わー!!」
耳に息を吹き掛けられる。
さすがに無視できない。
「やっと気づいた。アータルくん。」
見上げると、メガネのお姉さんが
笑顔で立っている。
「ヘルミオネさん・・・。」
「大丈夫アータルくん?
急に座り込むんだもん。
立ちくらみ?」
オレは、ヘルミオネさんの顔を見て、
鼻の奥がツーンと痛くなった。
「ヘルミオネさん、オレ、
昨日、間違って薬草採取の依頼を
受けちゃった・・・。」
後半は声が震えて、
ちゃんとヘルミオネさんに聞こえたか
分からなかった。
でも、ヘルミオネさんは、
オレを抱き寄せて・・・。
「大丈夫。大丈夫だから。」
と言って、頭をポンポンとしてくれる。
涙が溢れてくる・・・。
もう、冒険者として生きていけないんだ。
オレの冒険はここで終わりだ。
色んな人に迷惑掛けて
何とか ここまでやって来たのに。
ヘルミオネさん、ごめんなさい。
せっかくオレのことかばってくれたのに。
オレのミスのせいで・・・。
オレの頭の上にヘルミオネさんのアゴが乗り、
頭の後ろに温かい手が触れてくる。
「そのクエスト、
ギルドとして依頼したものだから。」
場違いのようなカラッとした乾いた声。
オレはヘルミオネさんが言っている
言葉の意味が良く分からず、
そのままヘルミオネさんの胸に埋もれて
考える・・・。
でも煮立った頭では全然
考えがまとまらない。
太陽の匂いに混じって、
花のような香りがする。
もう一度深呼吸して、
顔を上げてヘルミオネさんを見る。
目に涙が溜まっているのが自分でも分かる。
ヘルミオネさん。ごめん・・・。
「大丈夫だって。
"契約の腕輪"切れていないでしょ?
契約は破られてないよ。」
その時のオレは、
どんな顔だっただろう。
目に涙をためて、
顔をクチャクチャにして
ヒドい顔をしていたに違いない。
────
しばらく経って落ち着いたオレは、
ヘルミオネさんから離れる。
うわ。恥ずかしい。
外見は12歳の子供だけど、
中身は拗らせたオッサンなのに。
ヘルミオネさんを正面から見れない。
こんなことで泣くなんて、
情緒不安定なんじゃないか?オレ。
落ち着いて、落ち着いて。深呼吸。
冷静になって状況を整理しないと。
顔が赤くなっているのが分かる。
でも、聞かなきゃ。
ヘルミオネさんを見ると、
優しい笑顔でオレが声を掛けるのを
待ってくれているみたい。
パンッ
両手で頬を叩いて、気合いを入れる。
「ヘルミオネさん・・・
契約は破られていないって
どう言うこと?
掲示板に貼ってあった、
一人用のクエスト
受けちゃったんだよ?
勝手にクエスト受けちゃ
いけないのに。」
ヘルミオネさんは
フフフッとちょっと笑うと、
「その薬草採取はね。
冒険者ギルドが定期的に出している
依頼なの。
そしてそれはね。
ギルドが指定している依頼と
言い換えることもできるの。」
「ってことは、オレは・・・。」
「契約は破られていないし、
奴隷にもならないよ。
だから大丈夫。」
オレは顔を両手で覆い、
深いため息をつく。
良かったーーー!!!!
ヘルミオネさんに飛び付いて、
感謝の気持ちを伝えたい。
けど、全力で我慢して、
ヘルミオネさんに向き合う。
ヘルミオネさんは
メガネを輝かせ、両手を広げて、
「ほら。ミオネお姉ちゃんに
抱きついてきても良いんだぞ?」
くそぅ。もてあそばれている!
でも、何も返せない。
「あ、ありがとう。」
と声を絞り出すので精一杯だった。
どこかで必ずお返ししてやる!!
────
「あらあら。お楽しみでしたね。」
ドアを開けて出ると、
黒髪パッツンのギルド職員が
話しかけてくる。
「そうなのよー。
わかるー?」
ヘルミオネさんは、
明るくツヤツヤとした笑顔を返す。
オレは顔から火が出るかもって
思えるくらい顔が熱かった。
きっと耳まで真っ赤だっただろう。
「ミオネー。
そろそろピーク時間だから、
カウンターに戻って。」
「はいはい。」
「で、アータルはコレ持って、
受け取りカウンターに行って。」
と、紙を渡された。
「はい。あと、コレ。」
「手紙・・・?」
「じゃあ、渡したからねー。」
と、さっさと行ってしまう。
オレはとりあえず、
クエストが終わった冒険者達で
混みはじめる前に
受け取りカウンターに並んだ。
ガゴンッ
引き出しに紙を入れ、閉める。
待っている間に、手紙をひっくり返す。
何も書いていない。
封蝋も付いてない。
周囲を確認し、封筒から手紙を取り出す。
この世界で封筒を使ってくるヤツ、
そして字が書けるヤツは、
お金持ちで、しかも学のあるヤツだけだ。
この街でそんな知り合い居たっけな?
ガサガサッ
ペラッ
「少し旅に出ます。
冒険ガンバってね!
ヴィーナ」
差出人の名前のところは、
かなり崩してあって読みづらかったが、
確かにヴィーナって読める。
ガゴンッ
引き出しには、金貨がのっていた。
用語説明:
・ヘルミオネ
メガネのお姉さん
冒険者ギルドのお姉さん
全力でオトコゴコロを弄んでくる。
・契約の腕輪
契約の神ミスラの加護を受けた紐
契約が破られると、紐が切れ、神罰がくだる。
・ケアレスミス
注意不足による誤りや間違い。
おかしやすい人とおかし難い人がいる。
・立ちくらみ
脳に血液や酸素が行き渡らないと起きる。
意識を失ったりして、転倒の危険がある。
水分不足だと起こったりする。
危ないと思ったら早めに座り込んだりしよう。
・中身は拗らせたオッサン
アータルは転生したオッサンなはずですが、オツムが弱いです。
身体に引っ張られてる可能性もあり。
・黒髪パッツンのギルド職員 (ツバキ)
先日グンナー達にホウキとチリトリを渡した職員。
・受け取りカウンター
こちらの世界のATMみたいな形をしている。
が、後ろは壁。
たぶん奥に人がいる。




