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歩けば何処かに辿り着く  作者: 河内 胡瓜
旅立ち
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01-05.再起動

気付いたらもう夜は明けていた。

あのままベッドに倒れ込み寝てしまったらしい。

 

ちょっと今の状況を振り返ってみよう。

異世界に転生して12年。

突然、自分の前世の記憶に気づく。


この世界の中で過ごしてきた日々と同様に

楽しく、まったり暮らそうと思ってたが、

突然家を追い出され、

仕方無く冒険者になろうと街に出てきた。

 

初めてのクエストで死ぬ。

が、色々あって生き返る。


が、一文無しになり、

装備どころか服も失って

いきなり借金を追う羽目になる。

で、神の遣いから、

死んだら終わりを宣告される。

 

・・・で合ってるかな。

割りとヘビーだよね?そうでもない?

 

 コンコン

 

ドアがノックされる

 

誰だろう?

 

 ・・・コンコン

 

今度は遠慮がちに。


「あ。はい。何ですか?」

 

「あ、あのぅ、

一緒に・・・

 朝御飯でもぉー、どうかなぁー?

って思ってー」

 

女の子の声だ。

でも、その声に心当たりはなかった。


そもそもこの街に着いて何日も経っていないし、

知り合いなんてほとんどいない。

それにここは冒険者ギルドの二階、

小間使いなどいる上等な宿ではないのだ。

 

「誰?」

 

返事はない。

流石に冒険者ギルドの2階だ。

魔物の類いではないだろう。

・・・とはいっても怪しすぎる。

が、結局誘惑に負けて、扉を開けてしまう。

 

 ガシッ!

 

急に扉が外から開けられたかと思うと、 

いきなり太い腕が首に巻き付く。

しまった。魔物か!

 

「やっと出てきたな!小僧!

 さあ、朝飯食うぞ!」

 

ムキムキで、ヒゲモッジャモジャのオッサンが

扉を押さえていた手でサムズアップしながら、

とびきりの笑顔で言ってくる。

 

「だ、誰?

 え。いや。

 そっちの趣味はないんですが・・・。」

 

状況が飲み込めない。

オレの話とかまったく聞かずに

ムキムキヒゲモジャはオレを小脇に抱え、

スゴい勢いで走り出す。

 

「んじゃあ。まったねー。」

 

途中で女の子を見た気がしたけど、

そんなのを気にしている暇もなく、

オレはどこかに連れ去れていく。

 

気づいたら、丸テーブルに突っ伏していた。

 

「んじゃ、まずこれを食え。オレの奢りだ。」

 

と、朝からスゴい量の肉料理がテーブルに並ぶ。

 

「まずは肉だ。

 肉を食わないヤツは、すぐにおっ死ぬ。」

 

あらためてムキモジャを見る。

スイス辺りの高原で、

少女に哲学的な疑問を投げ掛けられたりする、

寡黙な木工職人みたいな感じだが、

フレンドリーに話してくる。

流石にラップなんぞ刻んでないが。


「で、何。この状況。」

 

冒険者ギルド近くの食堂らしい。

訳もわからず、

ヒゲモジャムキムキと二人で

肉を食らっている。


朝から肉。


生前なら胃が受け付けないが、

昨日(?)の夜から何も食ってないせいか、

余裕だった。


「何だ。マニから何も聞いてないのか?」


マニ?あのけしからん受付のオネーサンか。

何か言ってたっけなぁ?


歓迎パック


アタシにも利益があるから


・・・って、

もしかしてオレ、売られた?


「そんな目で見るな。

 誰も取って食おうって訳じゃない。」


「性的な意味で?」


「物理的な意味でも、性的な意味でもだ。

 ほら、食ったらさっさと行くぞ。」


また小脇に抱えられ連れ去られるオレ。

スゴい勢いで景色が変わっていく。

何なんだこのヒゲモジャは。

そして何なんだこの状況は。

気付いたらギルドのカウンターの前だった。

けしからんオネーサンもいる。


「お。VIP待遇じゃーん。」


小脇に抱えられたオレを見るオネーサン。

全く悪びれた様子がない。


「どう言うことか説明してください。」


どうにか顔をオネーサンに向けることで、

不満の意を表す。


「んー。話すと長いんだけどね。

 初心者がよく死ぬから、

対策として引退した冒険者が

 教育する制度があるのよねー。

 で、キミがその第1号。」


 「1号?!」


「制度自体は結構昔からあるはずなんだけどねー。

 なんでかなー、みんなやりたがらないのよねー。」


嫌な予感がする。


「話は済んだか?じゃあ行くぞ。」


どこがだ?!

これから本題じゃねーか!

何聞いてんだ!


オレが言い終わる前にモジャムキは、

オレを抱えて走り始める。

モーションすら分からない。


相当な達人なんじゃないだろうか。

児童誘拐の。


「まずは基礎体力からだな。」


「イテッ!」


ドサッと地面に落とされて、

落ちてた小石が太ももに突き刺さる。


そこで気付いた。

あれ?オレずっと腰ミノ一丁じゃない?

腰ミノのまま寝たので葉っぱの部分は大分痛んでいる。

よく今まで持ちこたえてきたなぁと思うくらいだ。


当然、腰ミノの下は何も着ていないわけで・・・

そんなオレをこのムキモジャは

小脇に抱えて街の中を走り抜けた訳で・・・


ギルドでは地面に降ろされず、

小脇に抱えられたままだったわけで・・・


もう。なんだな。人生終わったな!


逆に清清(すがすが)しい。

だけど、そっちの世界に踏み込むほど

清清しくはない。


あ。でもよく考えて見たら、

腹の部分を持たれて下向きに抱えられてたから、

ギリセーフだ。きっと。

プラスに考えよう。


「でも何だな。

最近の流行か何か知らんが、

 その格好では走れもしないな。」


もちろんオレは裸足だ。

 

「よし。じゃあこれを履け。」


サンダル?カカトのあるサンダルを渡される。

つーか、どこから出したんだ?


「あと服はこれだな。」


右手を振るとパッと空中にベージュ色の布が現れる。

これはあれか、魔法の鞄ってヤツか。

容量無制限、重量無視のファンタジーでは定番のヤツか。


「坊主はあんまり驚かないな。

 魔法の鞄を見たことあるのか?」


「ない。」


「不思議とは思わないのか?

空中からモノが突然現れるんだぞ。」


いや。生前テレビで

マジックショーとか見たことあったしね。


微妙な顔をしながら、

出された服を着てると、

ムキモジャは説明をしてくれた。


「普通、魔法の鞄は、

 魔導具と呼ばれる、レアな道具だ。

 ダンジョンの奥深いところで

 極たまに発見される。

数が少ないので法外な値段で取引される。」


そうだろうなー。

そんなのそこら辺にゴロゴロしてたら、

・・・どうなるんだ?

何かスゴいことにはなるだろう。


「魔法にも同じ効果を持つものがあって、

それは道具箱アイテムボックスって名前だ。

使うと、目の前にこのように黒い穴が開く。」


ムキモジャが前に伸ばした手をパッと開くと、

一拍遅れて黒い穴がそれはもう、ぽっかりと開いた。


「穴の広さは使い手の能力と拘り次第だな。」


そう言って、黒い穴からリンゴを取り出し、かじる。


「閉じるときはこうだ。」


開いた手をゆっくり閉じると、穴はゆっくり消えていく。


「これを高速でやるとこんなことが出来る。」


ブワッと一瞬強い風が吹き、思わず顔をかばった。

目の前の地面に刺さった棒があり、

その上に、食い掛けのリンゴが刺さってる。


穴を開いて閉じては全く見えなかった。

オレは興奮した!


「これを教えてくれるのか!スゲー!!」


「んなわけ なかろう。

 3日やそこらで出来るもんじゃない。

 そもそも坊主は道具箱アイテムボックス自体も使えんだろうが。」


そんな・・・無駄に上がったこのテンションを

どうしてくれるんだ!


「まずは基礎訓練と言っただろ?

 走り込みだ。

 今からオレがここでゆっくり100数えるから、逃げろ。

 捕まったらこいつを背負ってまた繰り返しだ。」


どすんと、背負い袋が落とされる。


「」


無理だ。現代っ子だぞ。オレは。

ちょっとしたことで結構簡単に心が折れるんだぞ。


「まあ、初日だ。

 最初はこんなもんにしよう。そら行け!」


こうしてオレの地獄の鬼ごっこの日々が始まる。

用語説明:

・(冒険者ギルド)簡易宿泊所

狭い約1畳の簡易鍵の部屋。一人用。

鍵はあるが、安全性は運用者に任されるため、ソーシャルハッキングなどに弱い。


・アータル

被検体第1号。腰ミノ着用。

今のところ悔い改める見込みはなさそう。


・ムキモジャ

髭モッジャモジャで、筋肉ムキムキのおじいさん。名前不明。有名人らしいが。


・女の子

ムキモジャとの関係不明。

元気な娘。


・けしからんオネーサン(マニ)

アータルを被検体として送り込んだ張本人。

それによって何を得たか不明


道具箱アイテムボックス

あったらいいな。できたらいいな。な、お馴染みスキル

中がどうなっているか首を突っ込むと、大変なことになる。

中の時間が経過するか状態が変化するのかは不明。


・リンゴ

リンゴを粗末にすると、リンゴの神様のバチが当たる。


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