01-57.薬草狩り
オッサンに縁があるのは仕様です。
いつもありがとうございます。
道具屋で麻袋を手に入れ、
さっそく迷いの森に向かう。
注意点の一つは、
"迷いの森には入らない。"
だそうだ。
一歩でも踏み込むと、
森に取り込まれてしまって、
簡単には出られなくなってしまうらしい。
森には、あんまり良い思い出がないから、
ちょっと心配。
「おい。ボウズ。
そんなに固くなんな。
俺に付いて来れば大丈夫だ!
良くグリズリーには遭うがな!」
そして不安点としては、
森の手前で出会ったこのオッサンだ。
見た目、全身傷だらけで筋肉モリモリの
歴戦の戦士系なんだけど、
駆け出しの薬師なんだって。
なんだかんだ世話を焼いてくれるんだけと、
何かちょっとズレてるんだよね・・・。
「もう一年以上はクエスト受けてんだども、
さっぱり昇級しなくてなー。
何が悪いんだか。」
「ソロでしか活動してないからじゃない?」
「だども、パーティーは窮屈だ。
やれ壁役をしろ。ハンマーを振るえと
うるさいんだ。」
「やらないの?」
「自由に草を摘みたいだ。俺は。」
「それなら仕方ない。」
「だろ?仕方無いんだ。」
オレは、このオッサンのような生き方は
嫌いではない。
自分のしたいことを胸を張って
主張し、生きてるんだ。
だけどその自由は、
自分の行動範囲を狭めてるのもわかる。
冒険者のランクが上がれば、
もっと良い素材があるところにも行ける。
もちろんそこは危険と隣り合わせだ。
自分の自由を犠牲にしなければならない場面も出てくる。
自由ってホント不自由だな。
それをしたり顔でオッサンに言うつもりはない。
気付いてないかもしれないが、
それはオッサンが選んだ道で、
オレが軽々しく口出しできることじゃないからだ。
オレだって・・・
「おい。ボウズ大丈夫か?
明後日の方向見てたぞ。
そっちに良い薬草でもあるのか?」
「あ。ごめん。考え事してた。」
迷いの森の入り口を通り過ぎ、
オッサンと一緒に薬草を採る。
別にパーティー登録してるわけじゃないけど、
オッサンにクエストの対象の薬草の見分け方や採取の仕方を教えてもらう。
「いいの?こう言うのって
"商売道具"でしょ?」
「ボウズは、難しい言葉を知ってるな。
"商売道具"か。
まぁ。そもそも薬草採りなんて
ほとんどのヤツはやらないし、
やるんなら、良いものを採って欲しい
からな!」
やだ。この人、怖い見掛けによらずいい人。
ガッハッハと笑いそうな豪快な感じだが、
手は繊細に薬草を掘り起こしてる。
なんかこのオッサンもったいないなぁ。
「そろそろ俺の方は揃ったが、
ボウズはどうだ?」
「これで終わり。」
「帰るか。
よし。せっかくの縁だ。
一杯やっていこうぜ。」
と、ジョッキで飲むマネをする。
「良いねぇ。」
結構人見知りだったと思うオレも、
だいぶ慣れたもんだ。
それにもう少し話を聞いてみたい気がする。
ヒュンッ
足元に矢が突き刺さる。
矢羽根がずいぶんと雑だ。
飛んで来た方向を見ると、
頭巾みたいのを被ったちっちゃいオッサン。
横に槍を構えたちっちゃいオッサンが何人かいて、こっちに向かって投げてくる。
「またゴブリンかよ!」
思わずツッコミをいれる。
「この辺は多いんだ。
弓矢とか、槍とか持ってるヤツは
初めて見たが、ボウズはどうだ?」
「ないけど、オッサンとりあえず、
盾くらい構えろよ。」
「そうだな。
せっかくの薬草に傷がついちまう。」
やっぱり何かちょっとズレてるな。
────
長剣を抜いて盾を構えて突撃。
頭さえ守れば、死なない。
ゴブリンの力で引ける弓なら、
すね当てとかで防げるはず!
そう言い聞かせるけど、結構怖い。
可能性を重ねてるだけだもんな。
チラッと見ると、ちっちゃいオッサンたちは
森の中に入っていく。
追うときっと面倒くさいことになるだろうな。
足元に転がっている石を拾って、
ゴブリンたちが逃げた先に向かって投げる。
気分は高校球児!
カンッカン!コーンッ!
良い音がして、太い木にぶつかっただけだった。
当たり前だよな。
野球、体育とかでしかやったことないし!
正直ルールとか良くわからない!
ボールをバットで打つ、
空振りしたらストライク
ストライク3つでアウトくらい。
だいたい、それだったからそれしか覚えてない。
「何だったんだ?」
「オレも良くわからない。
あのまま追っていったら、
"迷いの森"に入りそうだから止めた。」
「ボウズは、意外とバカに賢いな。」
「"意外と"は余計だ。」
「ボウズは、バカだな。」
「別なのも抜けた!」
Ghwooo!
そんなことを言ってると、
森の中からクマが出てきた。
あれ?最近こんなことあったような・・・。
「グリズリーだな。」
「そうだね。
オッサンは良く遭うって言ってたけど、
遭った時どうしてるの?」
「死んだふり。」
「それ、一番やっちゃダメなヤツ!」
「道理で。良く喰われ掛ける訳だ。」
「今までそれで生きてたのがスゴいよ。」
グリズリーは、律儀に
オレたちの会話を待ってる。
余裕なのかな。
ところが、急に後ろ足で立ち上がり、
自分を大きく見せてきた!
「オッサン逃げろ!」
オレは、グリズリーと対峙する。
デカイ!
昨日のヤツよりは小さいけど、
やっぱりデカイ!
ゆっくり後退りして、
たぶん、腕の攻撃範囲ギリギリ内側
って感じだ。
身体をひねってかわせりゃ良いけど、
運は昨日使ってしまった気がする!
でも、オッサンをかばって死ぬのは、
死んでも死にきれない!
死にたくない!
生きている間に今度こそ
キャッキャウフフしたいんだ!!
ゴゥッ
グリズリーの腕が振られる。
昨日うまくいったからって、
今日も上手くいくとは限らない。
だってそうだろ?
昨日遭ったグリズリーとは
違うヤツなんだから。
何とか腕への衝撃を反らしたが、
盾は半分になる。
こんなところで死んでたまるか!
長剣をしまう。
グリズリー相手にリーチとか関係ないから!
そして左手の甲をオデコに当て、
詠唱する。
「光の矢!」
出し惜しみして死ぬくらいなら、
力の限り生きてやる!
光の矢は狙った通り、グリズリーの
両目と鼻に直撃する。
GYUWHIWAOOO!
グリズリーが四つん這いになって
突っ込んでくる。
オレは覚悟を決めて、
右斜め前に前回り受け身でかわす。
すれ違ってグリズリーは立ち止まるが、
かなり怒ってるみたい。
後ろ足で立ち上がると、
両腕を振り回し始める。
「オッサン逃げろ!!」
オッサンが棒立ちだったので、
思わず叫ぶ。
するとクマはこっちに気付いたのか、
こっちに方向を変えて走って来る。
何度もマグレは続かない!
って思いながらも必死に
今度も右斜め前に飛ぶ。
死ぬ!!
太い腕が身体の上を走る。
獣臭い。
呼吸がとまる。
地面がえぐれる。
オレが着地する。
何ともギリギリだ。
両足を踏ん張って立つ。
力はまだ入りそう。
GYUWHIWAOOO!
動きがメチャクチャだ。
隙が多いけど、当たったらオレは死ぬ!
グリズリーの後ろを取るようにして、
詠唱!
「光の矢!!」
グリズリーの首に光の矢が吸い込まれる!
が、こっちに気付いたらしく
腕を振ってくる。
ズンッ
が、バランスを崩して倒れる。
飛び掛かりたいのを我慢して、
詠唱を繰り返す。
「光の矢!!」
狙いは、ノド。
呼吸ができなくなれば、
そのうち死ぬはず・・・!
でも、そんなに上手く当たる訳ない!
ヒューッヒューッ
呼吸が荒い。
グリズリーの呼吸なのか。
オレの呼吸なのか。
とりあえず酸素が足りない。
このままじゃ先にオレの方がぶっ倒れる。
何か使えるもんはないのか?
オッサンは、ちょっと遠くでうずくまってる。
オレのスキルで使えるものは全て使ってる。
これ以上何も絞り出せない。
"これしかないと腹をくくっちまえば、
ほら中々粘れるじゃねぇか。"
やれるところまでやってやらぁ!
口の中で魔法の言葉を唱える!!
一攫千金キャッキャウフフ!!
ほら生きる元気が湧いてきた!
用語説明:
・オッサンに縁があるのは仕様です。
「仕様ならばしかたないのぅ!」
・薬師
薬草やそれを素に作った薬品で人々を癒す後衛職。
治癒魔法ほど即効性はないが、回復効果は中々のもの。ただし回復力は人によってマチマチ。
・グリズリー
ハイイログマ、ヒグマの一種。
この世界では、大型のクマの魔物のことを指すようである。
・ゴブリン
簡単な道具を扱える、人型の魔物。
集団で襲ってくる。
・高校球児
爽やかで豪速球投げられるイメージ(アータル談)
・光の矢
今のところ、アータルが使える唯一の攻撃魔法。
詠唱破棄して使うことが多いので、威力はお察し。
でも、当たりどころが良ければ、それなりのダメージを与えられるらしい。




