01-04.世の中そんなに甘くない
ごめんなさい。公開時間の設定を間違ってました。。。
腹の辺りをツンツンされて起きる。
胸の上に載っていた銀色の板が落ちた。
KAー!KWAー!!
黒い鳥が飛んでった。カラスか?
どうやらつつかれてた模様。
・・・と、ここで大事なものがないのに気づく。
「裸だ・・・。」
まさに裸。生まれたままの姿。
何にも着ていない。周りを見渡す。
森を出て直ぐのところだ。
足元を見回す。
「剣もない。」
先ほど落ちた銀板を拾い上げる。
ギルドカードだ。
その他は何もない。
「マジか・・・。」
いきなり無一文だ。
持っていかれたんだろう。
まぁ確かに死体が
武器や金なんて使わないからな・・・。
不思議と怒りが湧いてこない。
社畜時代に味わった理不尽さで
感覚がマヒしてるんだろうか。
とりあえず、身体を確かめてみる。
ペタペタと触ってみるが、
キズらしいキズもない。
頭の方も大丈夫だ。
もちろん中身もだ。
たぶん。
あとは・・・。
まぁ。そこは考えないようにしよう。
これからどうしようかな・・・。
手荷物もない。
財布もない。
靴も武器もない。
「仕方ない。ギルドに頼るかぁ。」
正直、あんまり期待できないが、
他に頼るところもない。
勘当されて放り出されたからなぁ。
が、その前に・・・
さすがに全裸で白昼堂々街の門を
通れないだろう。
特A級の不審者だ。
意外に武器も隠し持てないから、
安全と判断されるだろうか?
試してみる気は全くないけど。
あ。この世界には魔法があるんだった。
素手でも強い人がいるから、
結局は不審者か。
そこら辺に生えていた
ちょっと大きな葉っぱで
大事なところを隠してみるが、
動くと落ちる。
そりゃそうだ。
身体の一部を木の葉で隠すとか
そんな絵があったと思うけど、
どうやってんだ??
仕方ないので、
いい感じの細さのツタを探してきて、
先ほどのデカイ葉っぱを掛けて腰に巻く。
意外と良い出来だ。
これはアレだな、腰ミノだな。
南国とかで良くあるヤツだ。
まさか自分がするとは思ってなかったが。
スースーするし、
自分的には全裸と変わらない。
これで街に入れるだろうか?
門まで戻ってきた。
遠目から門番が警戒してるのが分かる。
そりゃそうだ。
腰ミノ一丁、半裸の完ぺき不審者だ。
「止まれ。身分証はあるか?」
右側に居た男が槍を構えて
話し掛けてくる。
さすがにオレでも
ここで冗談を言ったら
どうなるかくらい分かる。
握っていて汗ばんだ
ギルドカードを見せる。
「冒険者か。
服はどうした?
武器は?素手か?」
まだ警戒は解いていない。
「盗られたらしい。」
正直に言った。
こんな子供にも警戒するくらいだ。
下手なことを言うと、
絶対面倒なことになる。
「Fランクか・・・成り立てか?」
「今朝、冒険者登録したばかりだ。」
門番は少し考えて、剣を下ろした。
「追い剥ぎに遭うなんて、
ホント、ツイてないな。
その服(?)はどうした?
ナカナカ斬新じゃないか。
最近の若いやつらの流行りなのか?」
ちょっと笑ってる。
反対側にいた門番も
こちらをチラッとみて、
また丘の方に視線を戻した。
「まぁ。良かったな。命があって。
見たところ・・・」
と、言ってオレの頭から足までを眺める。
「大きな怪我もしてないようだし。
水浴び中にでも盗まれたのか?
この辺りは、
ソコソコの経験がないと無理だぞ。
弱い魔物しか出ない代わりに
盗賊やならず者が多い。」
早く言えよ。
つーか、出る前に言え。
「運が良かったな。お前は。
奴隷の首輪もついてないし。
その服のお陰か?んー?」
黙礼だけして街に入ろうと、
衛兵の横を通り過ごそうとした。
「あー。
街に入る前に言っておくことがあった。」
門番が振り返りもせず、面倒臭そうに言う。
「・・・脇から出てるぞ。」
うるせぇー!
色々、出る前に言え!!
―――――――
腰ミノ一丁のオレは
人々の好奇の目に晒されながら、
街の中心部に向かっていた。
朝より何となく、
色んな人に距離を取られてる気がする。
時々オレを見ては、
コソコソ話しているヤツらもいる。
ふぅ。死にたい。
ギルドまでの、
恥辱にまみれた道のりを踏破し、
西部劇のような開き戸をくぐる。
朝と違って人がいない。
「おー?昨日の?」
けしからんオネーサンが居た。
相変わらず、やる気がなさそうな上、
相変わらず、けしからん。
ん?昨日?
どうやら、一日経過していたらしい。
とりあえず経緯を話す。
「なるほど。
だからそんな
面白いカッコなんねー。」
オネーサンが気だるい感じで
カウンターに頬杖をつき、オレを見ている。
オレもオネーサンを見ている。
それはもう、実にけしからん。
「ギルドとしては、
冒険者にカネを貸し付けたりする制度があるよ。
使ってみるー?
まぁ微々たるモンだけど。
服くらいは買えるでしょ。
アタシ的には、
そのカッコのままの方が、
見ていて面白いけど。」
オネーサンはニヤニヤこっちを見てる。
み、見ないでー!
ガラスのハートが砕けちゃう!
「宿の方も、ギルドの上の階が
簡易宿泊施設になってるよ。
ご飯は出ないけど、
鍵がかかる部屋だよ。」
良かった。野宿はもうコリゴリだ。
ベッドで寝たい。
「あ。もちろんタダじゃないよ。
ギルド報酬の六割ってとこね。
まぁ。死ぬよりかマシでしょ?」
半分以上かよ!
「キミみたいな文無しの場合、
銅貨8枚のツケ払いになってるからね。
どう?余程のことがないなら
泊まりたくないっしょ?」
銅貨8枚もあれば
地元では一番立派な宿に
3泊はできるな・・・。
ここでは、あのオッサンが言うように
全然相場なんて調べてなかったから
わからんが。
「まぁ。アタシもー
何も言わなかったのもあるしー。
銅貨4枚に負けたげるけど、
どうするー?」
「何で急に半額になったんだよ。」
「ナイショ。
ま。アタシにも良い話ってことねー。」
あれ?これは何かイイコトある?
「そんな目で見ても、
キミが期待するようなことはないよー?
さ。どうするー?
銅貨4枚で屋根がある鍵つきの部屋に泊まるか、
野宿してまた何かに襲われるか。」
選択肢はないと言っていい。
たぶん、このカッコで野宿しようもんなら、
明日は迎えられないだろう。
あ。いや。
またあのオッサンと
会うことになるのかな?
出来れば遠慮したい。
「ツケ払いで。」
「はいよ。歓迎パック入りまーす☆」
“はい。喜んでー”と
合いの手が入りそうな
気合い入った感じで、
オネーサンは右手を高々と挙げた。
―――――――
「や。アタルくん。」
オネーサンに鍵をもらって、
部屋に入ったら
暗闇の中、
白い服を着たオッサンが座ってた!
心臓止まるかと思ったわ!
「来ちゃった。」
なんでちょっとかわいく言った?
「次があるんじゃないかって
思われると困るから、
先に来ちゃった。」
釘を刺しに?
「そう。今回、アタルくんは
この矢に頭を射ぬかれて死にました。
そこに"たまたま"通りかかった、ワタシ、
親切で、ダンディーな神の遣いが、
身体だけ連れ去って介抱したのでした。」
服や武器とかをその場に残して?
「その場に残して。」
ちょっとイラッとする。
「相手は・・・今のアタルくんじゃ、
まぁ勝てないヤツだった。
狙って狩ったのに
その場に何もなしじゃ
流石に不審がられちゃうでしょー?」
まぁ。確かに。
「代わりを置いておいたから、
向こうには気付かれていないはずだよ。」
代わり?
「で、だ。
忙しいワタシことダンディー神の遣いが、
何故ここで待っていたかと言うと、
お告げがあります。
アタルくんは次死んだら地獄に落ちます。
神の遣い的な意味で。」
「へ?」
思いっきり話がわからない。
「もうアタルくんの残機は0ってこと。
言わすなよー。」
ウリウリと肘で小突いてくる。
「もう死んじゃったら、
生き返らないから、
そのつもりで挑んでね。」
「は?」
頭が追い付かない。
「んじゃあ!
成果を待ってるよ!
もう二度と会わないかもしれないけど!」
すぅっと薄くなるオッサン。
オレはその場に立ち尽くした。
用語説明:
・カラスみたいな魔物
腐肉を貪るスカベンジャー。
金属は食べない。
・門番(西門の衛兵)
久しぶりに笑えることがあったと
仲間内に話したことで、
アータルは衛兵たちに密かに
"腰ミノ"と呼ばれることになる。
・けしからんオネーサン(マニ)
あいかわらずけしからん。
やる気はなさそうだが、
お金には興味があるみたい(アータル談)
・(冒険者ギルド)簡易宿泊所
狭い約1畳の簡易鍵の部屋。一人用。
ここの本当の宿泊費を知るものは少ない。
・神の使い
アータルの残機が0なのを教えに来た。
もう登場しないかもしれない。