01-39.システムダウン
いつもありがとうございます。
今日は少し重い話です。
サラが、ロットンの足元に向かって
何かを投げたのか見えた。
「アータルっ!走れーっ!!」
オレはロットンのいる方に向かってダッシュする。
その途端。
トガーンッ
爆発の罠の時より、大きな爆発が起きる。
背中に強い衝撃。
前回り受け身なんてできずに、
ゴロゴロ転がる。
身体が"く"の字に曲がった。
そして、"へ"の字にぶっ飛んだ気がした。
吸い込んだ空気を吐き出される。
隣にはキチンと受け身を取ったサラがいる。
が、
「アータル!止まるな!走r・・・」
ドサッ
サラが前のめりに倒れる。
サラの後ろには、黒装束がいて
こちらを見ている。
オレは走った。
出口に向かって。
無理かもしれない。
このままでは、確実にやられる。
考えろ。考えろ。
ヒゲモジャとのおいかけっこを思い出す。
あの時は、一番効果があったのは、
正面きって戦うことだった。
できるか?
命の取り合い、殺し合い。
ガインやサラもあっさり・・・。
迷ってる時間はない。
覚悟を決めて、立ち止まる。
心臓はバクバクいっている。
黒装束は足を止めず、
その勢いでオレにナイフを付き出してくる。
え。
とても単調な動き。
あまりに今までの動きと違う。
その伸びきった腕をつかんで背負い投げ。
一本背負い?
相手の力を利用するので、力はいらない。
そのまま地面に叩きつける。
荒い息づかいは、オレのものか?
黒装束は背中を下にして寝転んでいたが、
起き上がり、ナイフを構えた。
あまりにも思い通りに行き過ぎて
放心してしまっていた。
オレもナイフを構える。
オレのナイフの間合いからは少し遠い。
リーチが違う。
黒装束も肩で息をしている。
爆発のダメージが深刻だったのか?
もしかしてあのまま走り続けたら、
逃げ切れたのかも・・・。
ロットンはどうなったんだろうか。
爆心地にいたはずだが。
呼吸が落ち着かない。
新鮮な空気を吸い込んで、
頭をフル回転させる。
「ロットン坊っちゃんはいいのか?」
絞り出した言葉は効果があったのか、
どうなのか。
左の壁にじりじりと近づく。
このタイミングで、
背中をロットンにズブリとされるのは、
さすがに納得いかない
まずはコイツを何とかする。
時間を掛けたら殺られる。
でも、"先に動いた方が負け"って言葉が
頭のなかをグルグルする。
覚悟を決める。
左手のガードを少し緩める。
と、黒装束が間合いを詰めてきた。
オレはオデコに手の甲を当て叫ぶ!
「光の矢!!」
3本の光の矢が、
のど、みぞおち、腹に向けて吸い込まれて行く。
身体をよじって急所を避けようとする黒装束。
黒装束の動きは、不自然なほど遅い。
ダメだ。何も考えるな。
ナイフを相手の足の甲に向かって振り下ろす。
黒装束のナイフは壁にあたり、
跳ね返される。
やっぱり大振りだ。
普通のナイフ使いの動きじゃない。
ナイフを相手の足から抜きながら、
転がるように位置を入れ替える。
その時、黒装束の背中が見える。
・・・マジか。この傷で走ってきたのか。
ゆっくり振り返る黒装束。
呼吸が荒い。
正直、どうしてこんなケガで
立っていられるのか分からない。
もう一度向き合う。
黒装束は、ゼイゼイとした呼吸に変わる。
が、構えだけは変わらない。
ナイフの後ろに半身を隠し、
簡単には踏み込めない。
だが、
ブォーン
ナイフを振り回してきた!
なりふり構わなくなってきたのか?
でも、さっきと違って速い!
壁ぎわに追い詰められる。
今度は足元を狙ってくる。
跳んだら終わりだ。
壁を蹴って三角跳び!なんてできないので、
ナイフの振りに合わせて
思いっきり右に跳びゴロゴロ転がる。
ギリギリだ。ギリギリ生きのびてる。
相手は、こんな大ケガしてるのに、
全然、勝てる気がしない。
そして、こんなギリギリの回避が
運良く続くはずもなく、
傷が増える。
身体は動く。
黒装束も大分ギリギリのはず。
あれだけの傷を負っているのに、
まだ動けるのは異常だ。
血は流れ続けてるが、
全く気にする様子はない。
顔に巻いた布のせいで
全く表情はうかがえないが、
荒いゼイゼイと言う呼吸が聞こえる。
大きく振り回される腕を掻い潜る。
先端にナイフが握られてるが、
そんなの気にしないような大振り。
何かもう人間の動きじゃない。
傷は、付けているんだ。
もう少し怯むなり、慎重になるなり
して欲しい。
もう一度光の矢か・・・?
でも、こんな状況で集中できるほど、
魔法を使いなれてるわけじゃない。
ひたすら物理攻撃か。
何度となく打ち合う。
と言うか、転げ回る。
いつまでも続けてられない。
と、急に黒装束が膝から崩れ、倒れる。
音とか何も聞こえなかった。
聞こえるのは、
ゼイゼイとうるさいオレの呼吸音だけ。
アイツ限界だったんだな・・・。
とりあえず、今のうちに。
背中の収納から水薬を取り出す。
ここぞと思うときに使おうと奮発した一品だ。
今がまさにその時。
ボーションは、傷口にぶっかけても
効果を発揮するが、
傷がどこにあるか分からな過ぎる。
飲むことにした。
まずは呼吸を落ち着ける。
黒装束だったものを見下ろす。
動かない。
重苦しい感じも、半分くらいになっている。
ビンを口に付けて一気に流し込む。
苦くて温い液体がのどに入り込んでくる。
胃の辺りに到達すると、ほんのり輝き、
身体を覆っていた疲れが回復していく。
フゥー
冷静になる。
何で立ち止まって戦おうって思ったんだろう。
あのまま逃げ切れたのかも。
でも、途中で追い付かれて・・・
イカンイカン。
過去にこだわっても、何もならない。
とりあえず、これからどうしようか。
一度、サラたちのところに戻るか・・・。
サラ!?
サラはどうなったんだ?
急いで戻る。
ここまで(たぶん)一本道だ。迷いようがない。
身体はポーションのおかげでかなり
体力は回復している。
装備は痛んでるが、使えなくはないな。
思ったより結構走った。
通路に横たわっている、固まりが見えてくる。
サラ・・・。
全く動く気配もない。
触れてみるともう冷たくなっている・・・。
今、自分の無力を十分味わっている。
何もできなかった。
フードを取って顔を確認しようと、
手をかけたところで、脇腹を蹴られる。
ゴロゴロと転がる。
見上げるとそこには、
ずぶ濡れのロットンが立っていた。
荒い息をしている。
着ていた鎧は所々ボロボロだ。
「この野郎!
よくもやってくれたな!」
ロットンはサラに近づき、蹴りあげる。
サラだったものは、驚くほど簡単に吹っ飛ぶ。
「命令に従えば、奴隷くらいには
してやったのに!」
「やめろ!」
オレは力が入っていないが叫ぶ。
「オマエもだ黒髪ー!
めちゃくちゃにしやがって。
オレは無傷で初心者試験を
クリアする予定だったんだぞ!」
「しらねーよ!」
オレはナイフを構える。
「傷つく覚悟もないくせに、
冒険者になろうとか言うな!!」
自分だ。自分に言っている。
一度死んだのに、人は簡単に死ぬってことから
目を反らしてここまでやってきた。
サラみたいに覚悟を決めて、
生き残ろうとはしなかった。
棒立ちだった。間抜けな顔で。
「こんなところで死ぬヤツは、
このあと生き残る可能性なんて
元々ないんd・・・」
「光の矢!」
最後まで言わせない。
左の手の甲に忍ばせている
ギルドカードをオデコにくっつけ
"光の矢"の三連打を使う。
本当はもっと出そうと思ったが、
脇腹の痛みのせいで、
操れる最大が3つだったんだ。
黒装束みたいに急所をはずすこともなく
ロットンの左目と、左脇腹、左足にきれいに刺さる。
「イデェー!!」
無茶苦茶剣を振り回す。
「おい!オレに水薬を使え!
おい!聞こえないのか?」
誰かに向かって言っているが、
無視して盾をかざして体当たりする。
あっけなくロットンが倒れ、
オレは馬乗りになる。
「おい!助けろ!
いるんだろ?
出てこい!」
ロットンは何かわめいているが、
オレは気にせず両手で持ったナイフを
振り下ろした。
────
周りに気を配るが、誰もいない。
黒装束みたいなヤツがいたら、
たぶんどうしようもないけど。
周りを探す。
ガインの錫杖が壁に刺さっているのを
見つけた。
引き抜けないので諦めた。
サラは・・・
たぶん、担いで出口まで戻るのは無理だ。
フードをはずす。
頭の上にモサモサの耳があった。
獣人だったのか・・・。
この街では、獣人はほとんど見ない。
きっと迫害の対象になるんだろう。
あの爆発は何だったんだろうな。
もう確認する方法はない。
せめて何か身元を確認する何かを。
腰に付けた袋に、ギルドカードがあった。
これだけか・・・。
自分のバッグにしまい、
ロットンから"首飾り"を奪い、出口を目指した。
用語説明:
・爆弾
この世界では火薬は一般的ではない。
爆発の原因は別のものと考えられる。
・ナイフ
よいこは振り回さないように。
・三角跳び
壁を蹴ってさらに高く飛び上がる。
ヒーロー御用達。
・水薬
体力を回復するもの、身体のケガを治すもの、
解毒するもの、と様々。
生薬よりも、即効性がある。
アータルのとっておきは、ケガと体力を回復するもの。




