01-38.性能試験
いつもありがとうございます。
3日目(残り約2日)
朝。
期限は明日の日没まで。
結局、ロットンは帰って来なかったようで、
朝食には現れなかった。
仕方ないので、
残りの3人で話し合い、
まずはこの試験の管理者のテントに
報告に行くことにした。
知りたいのは、今の状況でどうすれば
試験にパスできるかだ。
この際、過程なんてどうでもいい。
結果が全てだ。
────
管理者のテントは、デカいテントが4つと、
布を屋根みたいに広げたのが2つと、
豪華だった。
ちょうど、屋根の下でイスみたいのに
座ったオッサンがいたので、話し掛ける。
「すいません。
試験管理者の方ですか?」
一応、下手に出るオレ。
「お、おぅ。」
ガッツリ口を開けて寝てたオッサンは、
慌てて周りを見回す。
そして
「冒険者ギルドの初心者試験監督官の
ツェルトだ。」
と、握手を求めてきた。
まだ寝ぼけてるんじゃないか。
「試験の合格条件について
聞きたいことが・・・。」
「"何が価値があるか"については、
教えられない。」
意外としっかりした口調だ。
全然寝ぼけてなんかない。
「いえ。それは気になりますが、
パーティーメンバーが一人いなくなりまして」
「大丈夫だ。
生き残ったヤツらだけで
持ってくればいい。
条件は"価値のある何か"を
"ダンジョン"から採ってくればいい。」
"大丈夫"の範囲が広過ぎる。
パーティーメンバーが減っても大丈夫って・・・
「分かりました。
他の管理者は
いらっしゃらないんですか?」
「今出払ってる。」
信じる他無さそうだ。
この人は偽物じゃないよね?
疑いの目を向けると・・・。
「あ。忘れていないか。
これがギルドカードだ。」
銀色に輝くカードを見せてくる。
ギルド員もカードがあるんだな。
──────────
名前:ツェルト
役職:冒険者ギルド上級職員 採用係
・・・
──────────
ちゃんとギルド員だ。
ギルドカードを偽装する方法は分からないが、
できるのかな。
もう一人くらいギルド員がいれば、
確認できるとは思うんどけど。
「ツェルトさん。」
ダンジョンの方向から、
見知ったギルド員がやってくる。
素材の鑑定カウンターにいる人で、
わりとお世話になってる。
安心してそこを離れた。
テントに戻ると、
ロットンが腕組みをして立っていた。
戻って来ちまったか・・・。
報告は意味なくなってしまった。
それより、コイツをダンジョン内に
置いて来ても合格できることが分かって、
良かった。
サラが身支度してテントから出てくる。
ロットンがふんぞり返って立っているのを見て、
オレに聞いてくる。
「どう?」
「問題ない。」
短い言葉を交わす。
「そう。」
ガインも戻ってきた。
いつもの朝のお勤めだそうだ。
オレは、何事もなかったように取り繕って
2人を促してダンジョンへ向かう。
ロットンもついてくる。
オレはロットンには見えないように
ため息をついて言う。
「サラ、案内をお願い。
今日は、昨日より奥に向かおう。」
────
ダンジョン探索は、思った以上に順調だった。
なぜなら、ロットンが全然動かないからだ。
変な指示も出したりせず、
変なタイミングで攻撃も仕掛けることもせず。
ただガインの横に居る。
初日からの態度と全然違って気持ち悪い。
でも、何か視線がねっとりしてると言うか、
何と言うか。
変なプレッシャーを与えてくる。
横にいるガインはどう感じてるだろう。
居るだけで嫌な感じを与えるなんて、
呪いとか持ってるんじゃないか。
などと戦闘中に考えてたら、
サラとの連携に失敗。
サラが押さえきれていないネズミが
ガインに迫る。
ガインは冷静に錫杖(?)でぶっ叩く。
オレは自分の目の前のネズミに
盾を構えて体当たり。
ダッシュでガインのところに戻って、
ネズミとガインの間に割って入る。
危ない危ない。
落ちつけ。オチツケ。
今は戦闘に集中だ。
そんな危ない場面でも、
ロットンは動かず、そして何も言わなかった。
逆に怖い。
────
ダンジョンの奥に進むにつれて、
戦闘が増えてきた。
朝、ロットンが来る前に
ダンジョンについての情報を
サラに話してもらっていた。
3人でダンジョンに挑むに当たって、
知っておいて損はないからだ。
ガインも道順はサッパリらしいので、
サラ任せってところが危ういが。
このダンジョンは、
入り口付近はわりと分かれ道が多く、
危険を回避することも出きるらしい。
しかし奥に進むにつれて石杭の間隔も空き、
敵を見付けづらい。
その上、分かれ道が少なくて、
戻るか進むかしかできない。
戦闘は避けられないから、
落ち着いて進もう。
と話していた。
さっきの失敗後は、問題なくやれている。
サラがかき回し、オレがトドメを刺す。
そんな2人をガインは良くサポートしてくれる。
安定して狩りができてる。
余裕が出てきたので、
ロットンの顔を見ると、不満そうに見えた。
────
ダンジョンは意外に快適だった。
特に蒸し蒸ししているわけでもなく、
ほんのり肌寒いので、身体を動かす分には
ちょうどいい。
どこまで続いているか分からないが、
普通だったら、早々に引き返す
ってことは無さそうだ。
ロットンは遅れずに付いてくる。
が、あいかわらず何も言わないし、
何もしない。
「アンタなんなの?
付いてくるなら、戦えよ。」
サラがついにキレる。
確かにサラの立場としたら、
2人を先導するのと、
3人を先導するのでは、
掛かる負担もちがうかもしれない。
単に、ロットンが嫌なだけかもしれないが。
「なぜ?」
ロットンは暗くて重くてねちっこく言う。
その言い方にサラは少し怯んだみたいだが、
「パーティーの一員なら、働け。
じゃなければ排除する。」
サラは慎重に言った。
「じゃあ、オレはオマエのパーティーじゃない。」
なんで少し笑っている?
ここは、ダンジョンの奥の方だぞ。
お前の実力じゃ、しかもお前一人じゃ
帰ることもできないぞ。
帰り道も分からないだろ?
なんでそんな余裕なんだ?
サラも違和感を感じてるみたいだ。
「ちっこいのと、黒髪は
オレに逆らうみたいだが、
オマエはどうする?」
ガインがビリリと緊張する。
そして、オレたちの顔、
ロットンの顔を見比べる。
その時のガインは、
デカイ図体に比べてとても小さく見えた。
そして、ネズミを殴り倒した錫杖を
オレたちに向ける。
「ごめん。
2人には全然、怨みなんてないんだ。
でも、司祭様が・・・。」
言い掛けて、ガインは目を伏せる。
「正気か!?」
サラが叫ぶ。
ガインも道覚えてなかったじゃないか。
そっちについてどうするんだよ。
どう考えても破滅の道しか見えないぞ。
すると、ロットンの後ろの光が揺れる。
石杭の光が弱まったかと思うと、
黒装束が立っていた。
マジかよ。
背の高さはガインと同じくらいに見える。
殺気なんて見えないけど、
周りの空気が重くて苦しい。
「オレたちを殺してどうする?
"価値のある何か"はいいのか?」
取引を持ち掛けられないかと思って、
言ってはみたが、
オレにも相手がのって来ないことは分かる。
「"大丈夫だ"。
言ってもムダだと分かってるだろ?
オマエらが気付きもしなかった
黒装束がココにいるんだぞ。
そんなのどうとでもなる。」
と、懐から、"首飾り"を出す。
「別にオレは、こんな茶番劇に
付き合うつもりもないんだ。」
キィーン
と、錫杖が転がる。
何かが顔に掛かる。
そして、ゆっくり
ガインだったものが、うつ伏せに倒れる。
「オレのパーティーは、
ダンジョンの奥で首飾りを見付けたが、
致死性の罠にはまって、
オレ以外は吹き飛んだ。」
黒装束は、ナイフを払う。
ピッピッ
何かが顔に掛かる。
「"大丈夫"。
ここはダンジョンだ。
何も証拠は残らない。」
用語説明:
・「あ。忘れていないか。」
本人が忘れてた。作者も忘れてた。
・ツェルト
冒険者ギルド上級職員。
密かにキルドマスターの座を狙っている。
・錫杖
この世界では、棍棒の一種
特定の宗派で使用される。
・ネズミ
外見からネズミとアータルは言ってるが、
実はモグラ
・布を屋根みたいに広げたの
タープのこと。




