01-32.盗賊
3日目の朝は問題なくやってきた。
念のため、財布も確認するが
しっかりあった。
中身が元々そんなに入ってないし、
そんなんだから、クエスト受けたわけだし。
2人はまだ寝ているようだ。
自分が抱えてきた鉄鉱石の袋から
何個か取り出し、外に出る。
天気は良い。
雲ひとつない青空だ!
顔を洗う前に、
さっき持って出た石を明るいところで見て
自分の判定が合っていたか確認したい!
────
これは確実にいけるな。
こっちはギリいけるはず。
と、持ってきたのは、大丈夫そう。
小屋の中に戻り、石を返す。
代わりに てぬぐいを持って
顔を洗いに出る。
空気が 冷たくて気持ちいい
とても澄んでるような感じがする。
「早く帰りたい。」
馬小屋に帰って早く寝たい。
そしてなにより、
「オッサンたちのケツは、もう見飽きた!」
そう気合いを入れて、
冷たい水を顔にぶつける。
刺すような冷たさが、心地よい。
少し身体を動かして帰りに備えよう。
てぬぐいで顔をグシャグシャやり、
水を切るようにはたいて、
後ろを振り返る。
カスバートがいた。
「オムツの取れてねぇようなガキが
言うじゃないか。」
顔は少しニヤケていたが、
元々オッサン顔なので、恐いだけだ。
オレは、恥ずかしくなってその場から
走って逃げた!
どっから聞かれてたんだろう。
洗った顔は、かなり熱くなってる。
管理小屋に入り、ワタワタと手足を動かす。
ハンフリーが、何事かと視線を向けて来るが、
興味が無いのか、手元のすり鉢に目線を戻す。
カスバートが戻ってくる。
そして、鉄鉱石の袋を外に出し始めた。
外には一人分が座れるシートが敷かれ、
鉄鉱石の袋が横に並べられてる。
オレのも出しておいてくれたらしい。
カスバートの顔は見れない。
袋から鉄鉱石をシートにあける。
そしてシートに座り、
カスバートの方は見ずに
ゴホンッとわざとらしく咳払い。
石を確認していく。
朝確認した通り、かなりの成果だ。
弾くものなんてほとんどない。
それでもいくつかダメなものもあって弾く。
そんなこんなで太陽が真上に来る前には
判別が終わり、3つの袋に
それぞれ8割がたの収穫になった。
「それじゃあ、こんなオッサン臭いところは
とっととオサラバして、
街に帰ってかわいいネエちゃんのケツでも
拝むとしますか。」
カスバート・・・最初から聞いてたな。
オレ達は重い荷物を持って、
街に向かって歩き始めた。
────
帰りの方が歩みが遅い。
そりゃそうだ。
荷物がパンパンなんですもの。
おみやげは、鉄鉱石だけではない。
近くに生えていた日持ちのする薬草とか、
鉄鉱石以外の鉱石もある。
それに"思い出"だ。
いっぱい詰まってる。
旅行に出掛けた帰り、
バッグの中身が来た時よりも
増えているのは"思い出"のせいだ。
今回は、
オッサンたちとの思い出しかないがな!
────
そのあとは何もなく、
カスバートとハンフリーの後ろを付いていく。
天気は良いまま。
少しくらい、くもってくれても良いのに。
街道は人通りも少ない割に
魔物とかは出ない。
行きは全然気にしていなかったが・・・
と思ったら、
遠くの方に黒い影が動くのが見える。
そうか。周りが見えてなかったから
気付かなかったのかも。
すると、ハンフリーが、
布の袋に長い紐を付けたモノを取り出し、
振り回し始める。
小学生とかが、手提げ袋を
ブンブン振り回している感じ。
手を離すときっと
遠くまで良く飛ぶんだろうなぁ。
それに見とれていたら、
さっきの黒い影を見失った。
何より、こんな重いものを持った状態で
戦いたくなかったので、良かった。
────
周りが賑やかになってくる。
街道の先に街の外壁が見えてきた。
東門だ。
東門よ!私は帰ってきた!!
ようやく帰って来れた。
周りを見ると、オッサン以外の人も
パラパラ見られる。
良かった。
途中で埋められなくて。
たくさんの人たちに紛れて東門をくぐ・・・
「おい。ボウズ。
ちょっと待て。」
肩を捕まれて止められる。
「その荷物は何だ。
ずいぶん重そうじゃないか。」
「鉄鉱石です。
オレは冒険者で、
コレは依頼で手に入れてきた物です。」
「ほほぅ。
こんなに大量にか?」
「大量にじゃないですよ。
荷車とか使ってないじゃないですか。」
「ふふーん。
そうだな。そんな重い荷物を
荷車など使わなくて徒歩でとな。
ほほーん。」
あ。これ、あのオバチャンが言ってた
入街税を取ると見せ掛けた、イチャモンだ。
「で、その中は鉄鉱石だけなの?
ホントに。」
「そうですけど。」
「他の何か取ってきた物はない?
たとえば・・・他の鉱石とか。」
「それは、混ざってるかも
知れませんけど・・・」
「あれれー?
さっきは"鉄鉱石だけ"って言ってたよね。
依頼された"鉄鉱石だけ"って。
ウソついたのかなー?」
「いやいや。ウソはついてないですよ。」
「ほほーん。」
なめ回す様な視線で、
上からオレを見てくる。
手には棍棒が握られていて、
それで反対の手のひらをポンポン叩きながら、
衛兵はのらりくらりと話を長引かせる。
めんどくせー!!
決して"金を寄越せ"って
直接言ってこないのが、
余計にめんどくせー!!
「んじゃ。急ぎますので。」
と行こうとすると、
肩をつかまれ、
「まだキミの容疑が、
晴れたわけじゃないよ。」
と、ニタニタ笑いで棍棒を見せ付けられる。
手元にあるのはナイフだけなので、
リーチ的には分が悪いが、
正直コイツに負ける気はしない。
それでも強気なのは、
こっちが子どもだからって甘く見てるのと、
衛兵って言う役割のせいだ。
全くろくでもない。
「コイツに何か用か?」
振り返るとカスバートが立っている。
「カスバートさん。」
衛兵が言う。
オッサン有名な人なのか。
「用が無いなら連れてくぞ。」
カスバートは、有無を言わさず
オレを引っ張っていく。
「オンナの尻ばっかり見てるからだぞ。
余計な手間を取らすな。」
ハンフリーも門をくぐった先で待っていた。
連れ立って冒険者ギルドに戻る。
カスバートは迷わず、
納品カウンターには並ばずに、
カウンターにいた眼鏡受付嬢に話し掛ける。
「お帰りなさい。
カスバートさん、ハンフリーさん、
アータルさん。
少しお待ちください。」
そして、奥に入って戻ってくる。
「お疲れさまでした。
成果の方はいかがでした?」
「まずまずだ。」
「そうですね。
満点とは行きませんが、及第点でしょう。」
皆、オレを見ながら言う。
?
もしかして、試されていた?
"初心者教育料"ってそういう意味か?
「少し方向音痴なところがあるな。
自覚はあるようだ。
ナイフ使いってわけじゃないが、
剣術の基礎の基礎はできてる。
基本的な動きはできるゼ。
真面目に仕事する。
オッサンとよりも若い女とが良いって
叫んではいたけどな。」
止めて!
オレのガラスのハートが砕けちゃう!
眼鏡さんには言わないでー!!
「先ほども言いましたが、
採取の知識は満点とは行きませんが、
概ね合格です。
ダオシに見てもらったお陰で
良いものを選ぶコツが分かってる。
だけど、完璧ではないですね。
気を抜く瞬間が荒いですね。
まぁ、この年の子としてはできる方ですが、
初心者冒険者としては並です。」
ハンフリー!空気みたいだとか、
心の中で密かに思っててごめんよ。
並って言われるのがツラいなんて、
今ようやく分かったよ。
「お二人にはコチラを」
と、皮袋が手渡される。
2人はそれぞれ中身を確認する。
「アータルさんには
黙っていましたが、
お二人にアナタの評価を
お願いしてました。
このお二人は、
それぞれ有名な冒険者さんです。」
「ま。そう言うこった。
騙されたな。」
カスバートは片目をつぶって
フレンドリーに接してくる。
「まぁ、良くやってたよ。」
ハンフリーも握手してくる。
・・・え。
あの重苦しい雰囲気も演技?
「そして、アータルさんの弱点は、
方向音痴、ムラっ気がある、
女好きってところでしょうか。」
グッ
眼鏡受付嬢さんから言われると、
いっそうこたえる・・・。
今日は枕を濡らすことになるな・・・。
「あ。クエストの方はホンモノですので。
あとでダオシさんに査定してもらって
報酬が決まります。
楽しみにしていてくださいね。」
眼鏡受付嬢さんの笑顔が痛い。
マニよりタチが悪いんじゃないか。
用語説明:
・思い出
重いでぇ。
・布の袋に長い紐を付けたモノ
魔物避け。
・東門の衛兵
アータル曰く盗賊と同じ。
目を付けたヤツから金品を巻き上げる。
ちなみにコレがデフォルトで、アータルを見極めるイベントとは関係ない。
・"初心者教育料"
アータルが冒険者としてやっていけるか、
マニのせいで上手く指導ができてないんじゃないかと思った眼鏡受付嬢さんが仕組んだ罠。
・カスバート
気さくな有名な冒険者
東門の衛兵が名前を呼んでいたので、
それなりに知られている。
作者に名前を忘れられがちランキングNo.2
・ハンフリー
同じく有名な冒険者
ハンフリーは偽名かもしれない。
作者に名前を忘れられがちランキングNo.1
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自転車操業中です。
明日は幕間をお送りします。




