01-28.叩いてのばす
常緑亭に戻ってきた。
バルもソムも荷物をほどきに行ってしまった。
オレは一人、食堂のイスに座って考えている。
目に見えないアイツに勝ったわけじゃないが、
負けたわけじゃない。
相手を打ち負かしたり、倒したりはできてないが、
逃げ切った。
今はそれだけで十分だ。今は。
ドンッ
「お帰り。これでも食って元気出しな!」
目の前には良く焼かれた肉料理。
程良い大きさに切られた肉からは、
温かい湯気が立ち上ぼり、
塩と、コショウのような香辛料のいい香りがしている。
ヒルダさんの後ろ姿に、心の中でお礼を言う。
確かにお腹空いたなー。
ヘタな考え休むに似たりとか
言われたことがあった気がする。
考えを中断して、肉料理に取り掛かる。
フォークで突き刺して、熱々の肉を口に運ぶ。
ひと噛みするとジュワ~っと肉汁が溢れる。
一緒に出されたパンと一緒に口に入れると、
香辛料と脂がスッと溶けていく。
そして口直しのサラダ。
柑橘系の爽やかさがとても良い。
確かにココの肉料理は絶品だ。
そして、今までこの世界で
色んな肉を食べてきたが、
今食べたのが一番うまかったと思う。
思わず手を合わせてごちそうさまと言ってしまう。
ここにはそんな文化なんてないのに。
お腹がいっぱいになったら、
さっきまでの考えはどうでも良くなった。
食は偉大だな。さすが三大欲求。
・・・あの狙撃手には敵わなかったなぁ。
でも、まあ良いかとも思える。
今回は、今の自分ができることはやれた。
勝った負けたで言うと負けなのかもしれない。
だけど、これ以上の成果は、
今のところは無理だ。
実力的に到底、太刀打ちできない。
そして、そんなことより本来の目的を失わず、
任務を達成したこと。生き残ったこと。
今はただ、そんな現時点での最善ができたことを喜ぼう。
どんなに頑張っても、目的を達成しないんだったら、
何の意味もないんだから。
─────
あれから幾日が過ぎた。
バギの容態は、快方に向かっているらしい。
あの西の森の戦い(?)で採ってきたアルドアは、
確かに高品質だったそうで、問題なく薬を作ってくれた。
「こんなに品質が良いのは珍しい。
余ってるなら買い取る。」
と、言われ、懐も温かい。
バツがついてたクエストも解決扱いになった。
(別の捜査クエストができたらしい。)
そうそう、その薬のお陰でバギの熱も順調に下がり、
もう峠は越えているとのこと。
さすがに病人への悪影響も考えて、
お見舞いには行かないようにしている。
そしてそろそろ、
新人研修のメインイベントが見えてきている。
が、ギンたちはバギの回復を待ってから
活動を再開するみたい。
金と時間がないオレは、毎日、
細々としたクエストをやったり、
ギンやバル姐の暇を見つけ、
武器の取り回しとか、冒険者の基礎を教わったり、
歓楽街のバアサンのところに行って
魔法を習ったりしている。
どれも実を結んでないが!
で、今日もクエストを漁りに冒険者ギルドへ。
「お。アータルじゃん~。
今日もマジメに仕事~?」
珍しく、けしからんオネーサンことマニが話し掛けて来た。
「借金が全然返せる気がしないので、
少しでも減らそうと。」
「ギルドカードに記載されてるから、
全然焦んなくても大丈夫だよ。」
「ん?どう言うこと?」
「アータルから追わなくても、
向こうから追いかけて来てくれるから。
ね。お得でしょ?」
「ホントお得ねー。ってなるかい!」
「いいねー。アータル。」
と、カウンターに片ひじを付いてる。
よし。無視しよう!
まずはクエストだ!
「はい。ぴろーん。」
「何ですか?」
けしからんオネーサンが、藁半紙を出してくる。
「・・・受けろと?」
オネーサンは微笑んでるだけ。
「とりあえず中身を確認させてください。」
──────────
採取クエスト
──────────
ターゲット:鉄鉱石
廃鉱にあるくず鉄の中から、
使える鉄鉱石を見つけて来い。
いい石なら買い取るが、
ダメなものには銅貨一枚たりとも払わん。
若いヤツを行かせろ。
足腰の鍛練になるからな!
──────────
「で、いつまでなの?」
「明後日。」
「誰も受けないでしょ?」
「そーなのよー。
アータルやってくれない?」
「やだよ。疲れる上に稼ぎが少なそう!
それに何でくず山から拾って来ないといけないのさ!」
「このオヤジが頑固でさー。
あの山の鉄じゃないとダメって言うのよー。
アータルお願い。
報酬にイロを付けるからさー。」
「マニにそんな権限ないだろー?」
「そーなんだけどさー。」
「借金を減らしてくれるの?」
「アタシにゃーそんな権限はないわー。」
「じゃあそう言うことで。」
オレはごった返している掲示板に行こうと・・・。
「アータルにアドバイスをあげちゃう。」
マニが提案を出してきた。
「アドバイスぅ~?」
正直マニのアドバイスなんて期待できるもんではない。
「あらー。
アタシのアドバイス欲しさに
泣いて頼みに来る人とかいるのよ。」
「マニ。今、スゲー悪どい顔してるよ。」
んー。どうしよう。
クエストにある廃鉱は、ここから半日の距離。
今から準備して、昼前には出て、
廃鉱前で一泊。翌日は一日鉄鉱石を探して、
明後日の朝向こうを立つ。
できなくはない。何も問題がなければ。
でも、マニが勧めるクエストだから
何かあるんだろうな。
もう一日くらい余裕が欲しい。
「クエストの期限をのばせない?」
「アタシにゃー無理。
依頼者教えるから、直接言ってみて。」
「そんなのアリなの?」
「アリアリのアリ!」
「初めて知った。」
「んじゃ受けてくれるね。
よろしくぅ~。」
何だかんだでクエストを受けることになってしまった。
まずは依頼者に相談して情報を得て、
そしてできれば日数を延長してもらおう。
─────
依頼者の家は、鍛冶屋街の奥まったところにあった。
辺りの家々と比べても断然ボロい。
だ、大丈夫か・・・。
金ちゃんと払ってくれるんだろうな。
ここは一発気合いを入れて
「たのもー!!」
「あいよ。」
若い男が出てきた。
あれ?こう言うのは
頑固者の年老いたドワーフが
出てくるもんじゃないのか?
「あの、ダオシさんいらっしゃいますか?」
「ダオシは私ですけど。」
「え。この依頼の?」
と、クエストの紙を見せる。
「あー。ごめん。
私は、文字読めないんだわ。
確かに私が、ちょっと前に
冒険者ギルドに依頼は出したよ。
若いヤツを行かせろって言ったけど、
キミは、若過ぎやしないか?」
間違いなく本人だな。
「依頼の内容相談しに来ましたー。」
「おっと。報酬の値上げ交渉か?」
「いや。意味が分からんので確認です。」
「ほぉー。」
若い男は目を細めて、家の中にオレを招き入れた。
────
木の切り株みたいなイスに腰掛け、話し始める。
「"使える鉄鉱石"について教えてください。
どんなのが使えるので、どれが使えないのか。
余計なモンを持って帰ってくる余裕がないので!」
「ほぉー。はじめてだよ。
そんなこと聞きに冒険者が来るのは。」
皮肉なのか、違うのかいまいち分からないな。
と思っていると、
席を立って部屋の角にあった岩を
何個か持ってきて、机に並べる。
コツッ コツッ コツッ
「さてどーれだ?」
赤い石、黒い石、黒い石
分からない。
黒い方がなんか固そうだし、
この二個のうちどっちかだな。
でも、わからん。
「この黒い方の方がなんか固そうなんで、
この二つのどっちかですかね?」
「そうだね。私も黒い方が好みだ。
で、こっちの方は買うけど、
こっちは買いません。」
違いがわからん!
論理的な説明とか無いんか!
仕方ないので、自分の感覚で
部屋の角に置いてある山から
取ってきては並べ、確認してもらう。
何この苦行。
何かもぐら叩きゲームみたいになってきた。
用語説明:
・常緑亭の肉料理
アータルでも、思わずごちそうさましてしまう美味しさ。
・鉄鉱石
鉄分を含んだ石。
どうにかして不純物を取り除けば鉄になる。
・ダオシ
若い男。気難しい鍛冶屋のはずだが、意外と気さく。




