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歩けば何処かに辿り着く  作者: 河内 胡瓜
整理
32/274

01-27.回帰

ギンが診療所の治癒術士を連れてきた。


細身の、断定的な口調で話す人だ。

彼女によると、彼女の魔法でも治せないらしい。

こうなると、残りはバギの体力次第となる。


「ただ、何もできないわけではない。

 栄養のあるもの、滋養に効くものを

 食べさせることで回復が早まったり、

 身体にかかる負荷を減らすことができる。」


「たとえば?」


「まぁ、基本はアルドアだな。

 あとはいくつかの薬草。」


詳しく聞いてみれば、

草狩り場で手に入るヤツばっかりだ。

手持ちもあるし、大丈夫じゃないかな。


「たが、こうなると、アルドアの品質が問題だな。

 確かにこれらは丁寧に採取されていて

 モノとしては悪くはないんだが、

 もう少しアルドアとしての品質が

 高めのヤツじゃないと他の材料と釣り合わん。」


診療所から来た年配の治癒術士は言う。

高品質のアルドア・・・それってあれだよな。


「わかった。用意しておく。

 他に俺らにできることはないか?」


ギンは少し焦ってるようにも見えた。


「できる限りのことはした。」


と言って、治癒術士は帰っていった。


ギンはオレたちを集めて言う。


西()()()のアルドアを取りに行くぞ。」


覚悟はしていた。

しかし、バギ抜きで行けるだろうか。


「今回はアルドアを採ってくるところだけに

 集中しよう。他はナシだ。

 明日の朝出てなるべく早く戻って薬を作らせる。

 根回しとかはやっておくので、各自備えろ。」


自分の中にあの、嫌な感じがまとわりつく。

何の因果で、また挑戦せねばならん。。。


────


装備を固める。

今回は、鉢金を巻いた。

さすがに顔を全て覆うような

フルフェースの兜などは

高価すぎて用意できなかったが、仕方ない。

手には皮の盾とナイフ。

そしてあの麻袋を背負う。


常緑亭の前には七番組のみんなが集まっていた。

バル姐さんはヒザまである

ラージシールドを二つ持っている。

足元は、金属製のグリーブで固めている。


ソムも今回は盾を持っており、

いつものメイスではなく、

魔法使いがよく使う小型のロッドを持っている。


ギンは珍しく皮鎧に鉢金、革製の脛当を付けている。


準備は今できるなかでは、

この状況に合った一番いいモノだと思う。

最高じゃないが最善。

完全じゃないが、仕方がない。それが現実。


ギンに従って西門を出ていく。

門番たちには、

この物々しさとピリピリした雰囲気に、

きっと盗賊でも狩りに行くように

見えたかもしれない。


しかし、オレたちは

これからアルドアを摘みに行くんだ!

それも飛びきり新鮮なヤツをな!


西の森が近づいてくる。

皆無言だ。

いつものような陽気な感じはしない。

こう言うときに場を和ませるギンが、

一番ピリピリしていた。


西門から出るところから戦闘体勢だ。

バル姐、オレ、ソム、最後尾はギンだ。

バル姐は、周囲を警戒しながら

森の方へ近づいていく。


そうなんだ。

西門の外は本当は、

このくらい緊張感を持って進むべきところなんだ。

どんだけこの世界をなめていたんだ。オレは。


────


森は相変わらず鬱蒼としていて、

到底草花が元気に育つような場所では

ないのに関わらず、

色んな植物が生息している。

周囲でバル姐やギンたちが周りを警戒する中、

オレはアルドアを引っこ抜く。

土を払って背負い袋にいれる。

もう機械的に。


ギンたちの緊張感が伝わってきて、

無言でアルドアをどんどん袋にいれていく。

やっぱり太いな。

南の森で採ったヤツと比べると、太く重い。


次のヤツを探すため周りを見回すが、

ゴブリンなんかは出てこない。

さすがに冒険者が集まっているところに

突っ込まないくらいの知恵はあるだろう。

30本近く抜いて、ギンに伝える。


ギンは頷き、合図を出す。

みんなの緊張が一回り増した。


────


森の中は静かで、たまに鳥の声が聞こえる。

そして森の中独特のしんしんと言う

静けさが耳に響く。

そして、風に揺れる葉の音。

本当に良く聞こえる。


森の中では、ギンが先頭で道を決めていたが、

そろそろ森の切れ端だ。


ギンがソムに合図をし、

ソムは"矢避けの魔法"を

最初に出るバギ姐から順番に掛けていく。

ソムの操る"矢避けの魔法"は

それほど長くは持たないし、

完璧ではないそうだ。


今日は、狙撃手はいないかもしれない。

"矢避けの魔法"を掛けても

当たるかもしれない。

狙撃手も外すこともあるかもしれない。

盾や防具に守られてない場所に

食らうかもしれない。


そんな可能性をいちいち確認しない。

今、この場でできる限りの万全を尽くす。

仲間を救うために、仲間が傷ついちゃ

なんの意味もないからだ。


そして傷つく可能性ばっかりに目を向けて

行動しなかったより、いい結果を残したい。

リスクを承知で選んだのだから。


バル姐が、二つの盾を構えて森から走り出す。


 カキンッ


盾に弾かれた金属の音が聞こえた。

今日もいる。

そして、ソムの"矢避けの魔法"を無視して、

矢は到達する。

バル姐は、矢が飛んできた方向に盾を立てる。

念のため、逆からの攻撃も気にしているようだ。


次にギンが走り出る。


「ぐぁっ」


盾を装備していない右腕から血が噴き出す。

カスっただけのようで矢は刺さっていない。

バルの盾の後ろに転がり込む。


地面に一本、斜めに深々と矢が刺さっている。

足元も同時に狙ったのか。


矢がくる方向は2回とも同じ。

ソムの"矢避けの魔法"を掛けられたギンに

当てるなんて、確かに凄腕だ。


心して掛からないといけない。

矢の飛んで来た方向は右側だ。

普通、盾は利き手ではない方で持ったり、

手首に付けたりするのがここでは一般的らしい。


そうすると反対側は、どうにも空いてしまう。

七番組はバギを除いて、みな右利き。

右側の防備は、どうしても空いてしまう。

だから、今回バル姐は敢えて両手盾で来たのだ。


もちろん、他のメンバーも

防御が疎かになる右腕を強化はしている。

ギンだって、右腕はむき出しの素肌って訳ではない。

何らかの防護をしていたはずだ。

でもケガをした。


バル姐とギンがここから見える。

曲射で上から射たれるって言うのは、

今のところ無さそうだ。


森の中にいるオレらには、

どこから狙われているのか全く見当もつかない。


次はソムとオレが同時に出ていく手はずなのだが、

踏ん切りがつかない。

呼吸も荒くなっているのを感じる。


「アータル、アルドアを半分ください。」


ソムはそう言って、

アルドアの半分とロッドを

自分の背負い袋に入れ、

盾を右手につけ直した。


二人同時に走り出したら、

きっとどっちかが撃たれる。

まず間違いなくオレだろう。

回復役を狙うにしても、

ソムの外見からして

回復役かどうかなんて一瞬では判断できない。


それより、一番弱そうなヤツを狙って

混乱を誘う方が可能性が高そうだ。


まだ、踏ん切りがつかない。

ギンとバルは右手方向に注意を払っている。

このままここにいても(らち)があかない。

やるだけやってやる!


「ソム、今から光魔法を使うから、目を瞑ってて。

 合図したら目を開けて走って!」


オレはギルドカードを出してオデコに当て、

目を瞑り、バル姐の盾より右手に魔法を放り込む!


「lux!」


光ったのをまぶたのおくで感じ、ソムに言う。


「アータル行きます!」


走り出す。


ソムの姿なんて確認できてない。

足で地面を蹴る。


頭に盾を構え、右の脇を絞り、

射たれる方に上半身を向けて不格好に走る。


身を低くしているせいか、

草の匂いがスゴく感じられる。

あと、盾の皮の臭い。


右手に持ったままのギルドカードを握って、

自分がまだ無事なのを確認する。


そして、バルの盾の陰に転がり込む。


ソムもいた。

盾に2発も矢を食らっていたが、無事だった。


よかった。


何てヤツだ。あの中で当ててくるのか。

光魔法は意味が無かったかもしれない。


「二人とも大丈夫か?」


「今のところは。」


「私も大丈夫です。」


「欲しいものは手に入れた。撤退するぞ。」


盾の陰に隠れたメンバーは頷き合う。

右腕を押さえたギンが合図を出すと、

皆、一斉に走り出す。


森から離れると、矢は飛んでこなくなっていた。


────


西門に帰ってくる。

ギンは西門をくぐると、診療所に急ぐ。


「アタシらは巣に戻るよ。」


バル姐さんは盾を付けた手を伸ばした。


「アータル、お前はやるべきことをやったよ。」


盾のせいでアータルには手は届かなかったが、

歩き出す切っ掛けにはなった。

用語説明:

・診療所から来た年配の治癒術士

薬系の治癒術士


・(白梟(ホワイトオウル)の)巣

常緑亭のこと


・矢避けの魔法

系統や宗派によって種類は違うが、ソムのは祝福系統。

運を上げて回避率を上げる。


・どんだけこの世界をなめていたんだ。

おつむのよわいコなので、仕方がないとも言える。

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