01-01.冒険のはじまり
連投です。とりあえずキリの良いところまで。
うぅ。腰が痛い。
運良く行商人のオバチャンに
荷馬車に乗せてもらい、
街に向かっている。
荷馬車にはもちろん、
ゴム製のタイヤだとか、
サスペンションだとかは
ついているわけもなく、
単に藁が山盛りに積んであるだけ。
オレはそこに重石として寝転んでいる。
街に入るときに荷物が目立つと
税を吹っ掛けられるから、
嵩を減らすのだそうだ。
藁なんかでもあんまり積んでると
足下を見られて、
入街税を高く巻き上げられることが
あるのだとか。
何だか かなり理不尽だが、
この国じゃよくあることらしい。
どちらにしても渡りに船だ。
えっちらおっちら
徒歩で街まで行くなんて
死んでしまう!
ウチの田舎からここまでの街道は、
比較的治安が安定していて、
魔物も出ない。
まぁ、追い出されたワケだから、
もうウチのってワケじゃないか。
それにしてもハードな世界だ。
12才になったら成人扱いって!
前の世界じゃ小学生だぞ!
オレの時代はまだ
「デュクシデュクシ!」
とか
「そんなこといつ言いましたー?
何時何分何秒?地球が何回回った日?」
とか
言ってたくらいの年齢だぞ?
一人立ちって!!
そりゃあ大昔はそうだったかもしれないが、
義務で教育を受けさせられたオレには
厳しくないか?
せっかくの子供時代を
ラクしてまったり楽しみたかったのに!
・・・とはいえ、
あの世よりは全然まだマシ。
地獄、マジ地獄。
あんなとこにいるよりは
何千倍も何億倍もマシ・・・なんだが、
頭が全然追いつかねぇんだよ!
そんな考えを遮るように荷馬車が止まり、
オバチャンが声を掛けてくる。
「もう着くよー。ボウズー。」
「ありがとう!オネーサン!」
「随分行儀がいいじゃないか。
銅貨8枚にまけとくよー。」
ニッカリ笑顔で言ってくる。
「カネとんのかよ。」
「当たり前だよ。
いくら荷物の重しとはいえ、
タダのワケないじゃないか。」
人のよさそうなオバチャンだったし、
何にも言わないから
てっきりタダだと思っていたが・・・
銅貨8枚なんて暴利どうかしてる!
「世の中そんなに甘くないわ。
教会だってカネを払わにゃ
祈らせてもくれないだろ?
タダの親切なんざ、
何の役にも立ちゃしない。
さぁ、素直に払うか、
腰のモンを置いてこっから歩くか
10数えるウチに決めな!」
ないわー。
払う以外ないわー。
この剣まで取られたら
生きてくのも無理だわ。
早いところ冒険者になって
こんな生活からおさらばせば・・・。
「まいどー。」
オバチャンは銅貨を上機嫌に皮袋に納め、
荷馬車はまたゆっくり走り始めた。
―――――――
街道が賑やかになってきた。
すれ違う荷馬車も多くなり、
ガヤガヤしてる。
「あれが東門だよ。」
オバチャンが指をさす方向には
辺境伯の城壁にも劣らない
高い石垣と重厚な石造りの門か見えてくる。
あっちは魔物の領域を切り取って行く
攻めの壁だから、
こんなにガッチリきれいじゃないが。
たくさんの人が門を抜けていく。
特に一人一人確認ってワケじゃないのか。
門番が何人か立ってるが、
あんまり真面目そうじゃないな。
一人が適当な男を止めて何やら話してる。
あぁして目星を付けて、
カネを巻き上げてるんだろうな。
これがこの世界の普通なんだろうか。
門番でこの調子だから、街の中ももっと
殺伐としてるんだろうなぁ。
荷馬車は目をつけられることなく、
市街に入っていった。
「んじゃ、ここまでだな。」
「ありがと。オネーサン。」
ここで選択肢を間違ったら、
追加請求が来てしまう。
慎重に言葉を選んだ。
「フンッ。
よしっ。んじゃ、
ボウズに餞別だ。」
オバチャンは鼻を鳴らすと、
何かの包みを投げてきた。
「保存食の余りだよ。
冒険者やるなら
少し持ってた方がいい。」
「ありがとう。オネーサン。」
笑顔で頂いておく。
「んじゃね。
今度は騙されるンじゃないよ」
と、オバチャンは行ってしまった。
ボキボキと首や肩を鳴らす。
12歳でも音がなるんだなぁ。
まずは冒険者ギルドへ行くか!
オレの冒険は始まったばかりだ!!
―――――――
道が分からないので人に聞こうと思ったが、
全くと言うほど話を聞いてくれない。
そりゃなぁ。
治安が良さそうでもないしなー。
って言うか、
オレみたいの、いいカモなんじゃね?
こんなオノボリさんみたいな感じは。
ウロウロしてると、厳つい感じの、
いかにも真っ当な仕事してないゼ
ってヤツらが見えたので、
物陰に隠れた。
ヤバイな。
冒険を始める前に詰みそうだ。
こんなときは教会だ。
カネを払えば最低限のことは教えてくれる。
何の神に祈ってるのかよく知らないが、
大抵はカネで何とかなる。
昔、近所の教会に
行儀見習いの手伝いに行かされてたとき、
そんな光景をよく見てた。
教会を探して、街の真ん中にある広場に出た。
うーん・・・。ない。
だいたいこう言うのは、
見つかりやすいところにあるモンじゃねーの?
広場の周辺には2階建ての
がっしりとした建物が並ぶ。
そのうちの一つの建物に看板が下がっていた。
盾をバックに剣と杖が交差している。
あれじゃね?
武器屋ってこともあるかも知れねーけど。
扉は西部劇に出てきそうな開き戸。
普通の大人なら胸の辺りなんだろうが、
今のオレの背じゃちょっと足りない。
扉の下から中を覗くと、右の方に丸テーブル。
何人かが座って、カードらしきものを広げてる。
うぅ。何かガラが悪い。
いかにも全うな仕事してないゼって感じだ。
左の方はバーカウンター?ってヤツ?
カウンターがある。
何人かがカウンターの内の人と話してる。
西部劇かよ。見たことないけど。
「ボウズ。
冒険者ギルドに何か用か?」
びくっ
急に背後から声を掛けられた。
あ。落とした。ほら何か今落としたよー。
オレ何か落としたよー。
きっと自信。
自信落としたよー。
両足がガクガクしてる。
ゆっくり振り返ると、
さっきの厳つい感じのヤツ。
それも二人組だ。
「うぅぁ。」
何か口から音が漏れるが、
言葉にならない。
「おい。聞いてるか?」
肩に手を掛けられる。
えっと、こんな時、
どうしたらいいんだっけ?
えっと・・・えっと・・・。
「冒険者に興味があるのか?」
首が取れんじゃないかって勢いで、
素直に首を縦にブンブン振る。
もー取れても良い。
助かるんなら!
他に何も出来ないし!
「おらぁ!マニ!客だぞ!」
襟首を捕まれてぶん投げられる。
ワケの分からないまま、背中から落ちる。
背骨から鼻に抜けるキーンとした、この感じ。
何だろう。
オレ空気吸って生きてたんだなぁ
って思うくらい、大きく吸い込む。
外は石造りだけど中は石じゃなくて
天井も壁も板張りなのね。
「おー起きた。
いらっしゃい。
冒険者になりたいのかなー?」
色っぽいオネーサンが
カウンターから身を乗り出して
こっちを見ていた。
「は、はい。」
何だかよく分からないけど、
冒険者登録的なサムシングが出来るみたいだ。
もうほぼロボットみたいに答えて起き上がる。
「んじゃー名前教えてね。
あと年も。だいたいでいいから。」
「アータル。年は12。」
十二歳ですって答えようと思ったが、
ガキっぽいから止めた。
まぁ。見た目は子どもなんだけども。
「はーい。よく言えたわねー。
えらいねー。」
台詞棒読みで言われる。
カウンターの奥でカリカリと
何かを書いている音が聞こえるけど、
オレの背の高さじゃ何をしてるか
全く見えない。
ヤバい。
もうやだ。
早いとこ、この場から逃げ出したい。
「うし。出ぇ来たっと。
はい。
これでキミは今から冒険者。」
カウンターを乗り越えて、
色っぽいオネーサンが
銀色のカードを渡してくる。
何だか見慣れた大きさだ。
厚さも重さも、電車に乗るときの
あのカードみたいだ。
「詳しい話は・・・まぁ。いいでしょー。
(めんどくさいし)
とりあえず、
ギルドに迷惑掛けるようなことだけは
しないでねー。
じゃ。3日後に説明会があるから、
朝ギルドに来なねー。」
雑だなー。
小声でめんどくさいって
言っちゃってるし。
これでホントに冒険者になったんかなぁ?
それにしてもテキトーだな。
うん。テキトーにエロい。
背の低いオレを見るために
カウンターに寄りかかっているせいで、
スゴいことになっている。
なんであんなに深い渓谷が
この世に存在するんだ。
どこがとは言わんが、
けしからん。実にけしからん。
「・・・何か、カネになる依頼、
受けられるか?」
ちょっと横を向きながら受付嬢(?)に聞く。
直視できないんだ。
分かるだろ?
「・・・ぅん?
あー。」
横を向いたオレを
ちょろっと見おろして
「・・・まぁ。いっか。
薬草集めで良けりゃあるよー。
アルドワって知ってる?
そいつを根っこごと
採ってきてくるってヤツ。
10本ひと束で買い取るよ。
いつでも受け付けてるから、
好きなときに持ってきてー。」
アルドアなら知っている。
教会に行儀見習い(と言う名のタダ働き)に
行ってたときに、よく採りに行かされた。
儀式に使うからって言ってたなぁ。
それなら根っこまで必要ねーよなー
と思ってたんだが、
ありゃ教会の小遣い稼ぎでも
あったんじゃねーかな?
今さらだが。
オレはこの薬草採取のクエストを
受けることにした。
オネーサンに別れを告げて
オレはギルドを後にした。
用語説明:
・藁を売りに来たオバチャン
強突張りだが、この世界では至って普通の人。
保存食をアータルにあげる優しさがある。
・東門の衛兵
見るからにやる気がなさそうな若者。
子悪党感が半端ない(アータル談)
・冒険者ギルド
冒険者を斡旋するところ
・マニ
冒険者ギルドの受付嬢
やる気がない。ご立派で、とてもけしからん。
・カタギには見えない冒険者
アータルをギルドの反対側の壁に軽々と
投げつけられるほどの力の持ち主。
・アルドア
この世界でのメジャーな薬草。
どこにでも生えており、
色々な薬の原材料に必ず入っている。
・ギルドカード
電車やバスに乗る時の
あのICカードに似てるらしい(アータル談)