02-81. ひと息
「依頼内容は、
外交官の暗殺よ。」
厳重な警備がされた箱馬車が
目の前を通り掛かる。
オレはそれに走り寄って、
勢いよくドアを開ける。
そこには、
上半身裸のムキモジャが!!!
「ギャーっ!!!!」
・・・ってところで目が覚めた。
身体中がベットりとした嫌な汗で
気持ち悪い。
「どーしたの。アータル。
朝っぱらから変な声を出して。」
居間の方からヴィーナが
顔をのぞかせる。
「あ。ごめん。
何でもない。」
あぁ。夢かぁ。
良かった。
ヒドい夢だった。
外交官の暗殺依頼とか、
ホント勘弁して欲しい。
・・・いや。ツッコみ待ちだよ?
そっちは夢じゃねーだろ?って。
ふぅ。
ホント嫌な汗かいた。
身体拭いとこう。
ベッドから降りようとモゾモゾする。
と、手に何か柔らかくて
温かいものが触れた。
何だろう。
ガバッと掛け布をめくってみると、
そこには、黒髪の修道女が寝ていた。
まだ目が覚めてないようで、
すぅすぅと寝息を立てている。
灰色の修道服はワンピースで、
ズボンなんかは履いてないらしい。
なんで分かったかって?
薄赤く染まった白いヒザが、
こんにちは!してるからだ。
「ウーン。」
入って来た光から逃げるように、
身をよじる修道女。
背中をこっちに向け・・・。
ガバッ!
ふぅ。
危ない!
オレは慌てて
握っていた掛け布を戻した。
オレはナニも見ていない。
見えてなかった。
「アータル。
見た?」
後ろから声が掛かってオレは振り向く。
首が振り返りたくないよーと、
ギギッギギッときしむ。
そこにはニヤニヤした顔をした
水色髪のいぢめっこがいた。
────
「じゃあ。第一回、
パーティー会議を始めまぁーすっ!」
ここは、この宿の食堂。
しかも個室。
アルマさんに付いてロビーに降りると、
下で待っていた女の人に、
何も言わないのにココに案内された。
そこはかとなく高級感が漂ってるし、
さぞお高いんでしょう?って感じだ。
「じゃ。議長。
あとはヨロシク。」
「へっ?!」
ヴィーナが急にオレに振ってくる。
「一度言ってみたかったのよねー。
開会の言葉。」
なんでちょっと誇らしげなんだ。
丸投げなのに。
「そのまま議長をしてよ。ヴィーナ。」
「ヤだよ。面倒じゃん。
パーティー内の調整なんて。」
「じゃあ固定パーティーの話は
なかったことに「は、ならないわよ。」」
被せて来た!!
「イイのかなー。
アータルが朝、アルマに
ナニしようとしてたか。
無いこと無いこと
全部言いふらしちゃおうかなー。」
「無いこと無いことって、
全部ウソってコトじゃん!」
「イイのよー。
オネーさんはどちらでもー!
でもウルワンのみんなは、
アタシとアータル、
どっちを信じるかなー?」
ドヤ顔をキめて来るヴィーナ。
く、くそぅ。
「有り難く・・・
固定パーティーを組ませて・・・
頂きます・・・。」
オレの言葉を聞いて、
満足そうにイスにふんぞり返るヴィーナ。
腕を組んでフッて感じが、
してやったり感を醸し出してる。
「フフッ。
アータルってば、
何かトコトンまで
追い込んでみたくなるのよねー。
極限まで追い込まれると、
何かトンデモないことを
やってくれそうってゆーか・・・。」
「ナニそれ?!」
「あれ?ホメてるのよ?
どんなに追い込まれても、
最後には何とかやってくれそうって。」
「そ、そんなコト言っても、
何にも出ないんだからねっ!」
「そんなコトより早く進めてよ。
アータル議長。」
「何でオレの渾身のツンデレを流したし。」
「アータル殿、
ふざけてないで
早く進めて頂けますか。」
「アルマさんまでっ?!」
コンコンッ
気持ちを切り替えて、
話し始めようかと思った時、
外からドアがノックされた。
「はーいっ!
ホラホラっ!アータル!
ドア開けてー!」
扉の一番近くにいたオレが扉を開ける。
漂ってくる美味しそうな匂い。
焼き立てのパン、バター、スープ。
そしてこんがり焼けた肉。
食欲をそそる匂いが、
ブワッと部屋の中に流れ込んでくる。
グゥー
思わず、お腹が鳴る。
給仕の人たちが、
入れ替わり立ち替わり
料理を運んで来た。
「どうぞごゆっくり
お楽しみください。」
最後の一人が
頭を下げて出ていく。
朝から豪勢だなぁ。
アルマさんは何か祈りを捧げ、
ヴィーナはパンを片手に・・・
「ナニしてるの?」
「んー。
何か不思議な感じだなぁって。
ホラ、アタシ根っからの冒険者だからサ。
こんなにゆっくりしてるのって
ナカナカないからさー。」
「デッカい仕事が終わった後とか、
宴会みたいので朝まで盛り上がるとか
あるでしょ?」
「うーん。そーねぇ。
あったかもしれないけど・・・。
ソロが長かったからサ。
ソロだと、何て言うかさー
働いている人見ると、
『アタシこのままじゃ
ヤバいんじゃない?』
って思っちゃうの。
で、結局ギルドの掲示板を
見に行っちゃう。」
と言って苦笑いをする。
「アルマはいつもこんな感じ?」
ヴィーナは、それ以上
ツッコまれたくないのか、
アルマさんに話題を振る。
元聖女様は祈りを終え、
ちょうどカップを傾けるところだった。
「いえ。拙僧も。
こんなにゆったりとした朝食は、
なかったかもしれません。」
「聖女様って普段どんな生活してるの?」
ヴィーナがパンをチギりながら言う。
お馴染みの黒くて固いパンじゃなく、
フワッと柔らかい白いパンだ。
「そうですね。
朝は日が昇る前に起きて祈りを捧げ、
感謝の鈍器祭りを・・・。」
「何か物騒な祭り始まった。」
「その後はすぐに日々のお務めです。」
「何をするの?」
ポイッとパンを口に中に放り込むヴィーナ。
あれ?祭りについて気にならないの?
オレだけ?
「人に寄りますが、
拙僧は主に外道狩りです。」
「外道?」
と、オレが聞くと、
アルマさんじゃなく、
ヴィーナが答える。
「道を外れたモノのことだよ。
朝のアータルみたいな。
寝起きで無防備な修道女のパ「わー!!!」」
慌ててヴィーナの口をふさぎに行く。
ヒョイって避けて、楽しそう。
ホントいぢめっこだな!
「神の理から外れたモノ、
アンデッドを狩る簡単なお仕事です。」
「あ。ソッチだよね。
そうだよね。良かった。」
「僧侶って規則正しい生活をしてるよね。
アタシゃー絶対無理だわー。」
ヴィーナが腕を組んでしみじみ言う。
「え。今日の朝も早かったけど、
ヴィーナは割りといつも
朝早いイメージ。」
「そーかなー?」
「で、寝ると決めたら直ぐ眠れる感じ。」
「それだけ聞くと、
アタシがデリカシーの無い、
ガサツなオンナみたいに聞こえるけど?」
「じゃ、皆さん。
まずは朝食を済ませましょうか。」
ヴィーナをあえて無視して
アルマさんに言う。
「コラッ!"ガサツ"ってトコ
否定しなさいよ。」
って言いながら、首を締めてくる。
色々当たる。
やっぱり気にすることないよ。
充分だよ!
「アータル殿。お楽しみのところ
申し訳ございません。
本日は簡単な引き継ぎがあります故、
直ぐには動けないのですが・・・。」
アルマさんが言い難そうに言ってくる。
ちょっ!首!!マジでヤバい。
お楽しみ?!
全然チガウ!シンジャウ!!
ヴィーナの細い腕をパンパンと叩く。
「あ。アタシもちょっと
行くところがあるから。
また夜にでも話しましょうか。
えーっと、宿は?」
「10日分くらい先払いしてますから、
気兼ねなくお使いください。」
「うーん。
あとで自分の分は払うよー。
そう言うお金の貸し借りは、
面倒事になりやすいし。」
「」
「あ。ごめん。」
フーッフーッ
やっと離してもらえた。
空気ウマイ!空気ウマイ!!
「ま。ゆっくりやってこー。
急いでもイイコトないし。」
用語説明:
・ムキモジャ
アータルの面倒を見てくれたジイサン。
筋肉ムキムキで、ヒゲモジャモジャ
・ウルワン
現在アータルが拠点にしてる街。
この辺りではダントツにデカい。
・ツンデレ
伝統芸能。
・ソロ
一人で演じること。
転じて固定パーティーを組まずに
一人で活動する冒険者のこと。
・感謝の鈍器祭り
どんどんどん。鈍器ー!
ジャングルだぁー!
詳細は不明。
・外道
宗教における、教えにそぐわないもの。
・パ・・・
文字がかすれていてよく見えない。
・僧侶
この世界の聖職者の一つ。
神官や祭司とかと何が違うかはよく分からない。
・デリカシー
配慮、気配りのこと。
・ガサツ
言葉や行動が粗っぽいこと。
粗野。
・充分
気持ちの問題。
───
なぜかタイトルつけ忘れてました。
「ひと息に!」と迷いましたが、こちらで。
一思いに息の根を止めようと言う気持ちを込めました(嘘




