02-74.ひとりぼっち
遅くなりました。
何故か文章を見ると、眠くなる病で。
???「今に始まったことじゃないよね?」
「んじゃな。アータル。」
「そっちもー。」
冒険者たちは、お金を受け取ると、
今日の宿を探しに散っていった。
みんな冒険者になったばかり
って言ってたけど、
やっぱり色々考えてるんだなー。
岩橋の街の冒険者ギルドは、
カウンターもたくさんあって、
ホールも広いが、
宿や酒場は無かった。
カウンターの前は、
冒険者たちが列を作っているが、
あふれかえっている。
「ウルワンを拠点にしてるのか!?
よく金が続くなぁ。」
列で待ってたとき、
他の冒険者に言われた。
確かにちょっと物価が高いとは
思っていたけどさ。
「岩橋の街でも
十分に良いものが揃うし、
ウルワンへの護衛の依頼は
結構あるから、
ついでに必要なものを
買えばいいじゃないか?」
「確かにそうなんだけどさ。」
そこはなんつーか、
都会への憧れって言うか
都会の便利さを知ってしまうと、
もう戻れないと言うか・・・。
分かっていたけど、
目をそらしていた現実。
正論は正しいかもしれないけど、
言われた方は心が痛いよね。
それにしてもオレ、
意外と社交的なのかもしれないなぁ。
それほど面倒くさいとか思わず、
ちゃんと会話できてたし。
転生前より「面倒くさい」のレベルが
下がってる気がする。
そう言う意味では、
成長してるのかもしれないな。
どっちかって言うと
相手が冒険者ってのも、
あるかしれない。
後腐れないって言うか、
次会うかも分からない相手だからか、
あんまり気にしなくていいって
思えて気が楽だからかな?
生前だと、常に
怒ってるんじゃないかとか、
嫌な気にさせるのではないかとか、
そう言うのが気になって
仕方がなかった。
まぁ今思うと、
病んでたと言うか
過敏になっていた。
ここではそう言うの、
まったく感じなかった。
オレの感覚が鈍くなっただけ
かもしれないけど、
気を遣わなくて良いのは、
ホントに楽だと思った。
気の持ちようってヤツかな。
会話が気まずくなったら、
自分のせいに感じてしまう。
そう言う本当は
背負う必要の無いところまで背負って
変なプレッシャーを抱え込んで
話したくないって
思ってたのかもしれない。
────
ジャラッ
皮袋を覗き込むと、
銀貨が数枚入っている。
報酬は結構出た。
当初の予定より、
結構プラスになったみたい。
そういや、オレ、
この依頼の当初の報酬金額とか
全然聞かされていなかったっけ。
いきなり檻にどーんッ!!だったし。
依頼の内容を改めて見たら、
「岩橋の街へ奴隷を納めること。」
だった。
アレェっ?!
思ったより単純。
期間とかも決まってない。
あと、「無傷で」とか書いてなかった。
まぁ。アレはとっさに
口から出ただけだからなぁ。
それにしても髭のオッサン。
これくらいヘソを曲げずにやろうぜ。。。
それこそ、ギルド員の言う、
「輸送を手伝う簡単な仕事」
じゃねぇか。
檻は貸与物になっていた。
貸したからちゃんと返して。
返せなかったら、お金払って。
ってことだ。
髭のオッサン。
契約の内容をちゃんと読めば
分かっただろうに。
それでも嫌だったら、
そもそも契約しなけりゃ
よかったのに。
・・・それとも、
嫌でも契約を結ばなきゃ
いけなかったのか?
望まない契約。
嫌々やらなきゃいけなかったこと・・・。
昔を思い出して、
少し暗い気持ちになった。
社会人になると、
嫌々でもやらなきゃいけないことが増える。
やらないと、自分だけじゃなくて
周りにも被害が出る。
一度被害が出ると、
周りから徹底的に叩かれる。
吊し上げられて、
問題の責任を嫌になるほど
取らされる。
一度そんな状態に陥ると、
簡単に思考停止に陥る。
身体に力が入らなくて、
気力も続かない。
目の前のノルマ、
逃れられない仕事。
残された時間を見て焦る。
もう、夏休みの宿題なんて
目じゃないくらい。
頭をかきむしって、
ため息が増えて、
貧乏揺すりが止まらなくなって・・・。
そんな状態で、
冷静な判断なんて
期待はできない。
ノルマをこなさなきゃ。
仕事を終わらせなくちゃ。
気は焦るが前に進まない。
どこまでも続く泥沼だ。
はっ!?
あーヤダヤダ。
髭のオッサンのせいで
嫌なことを思い出しちまった。
今日はもういい。
とりあえず休もう。
宿を探そう!
そんなことを考えていたら、
一人になってた。
ヴィーナもいない。
まずいぞ。
今夜の宿が見つからないかも。
それどころか、
自分がどこにいるかわからない!
────
フラフラと通りを歩く。
ちょっと、いつもより
お高そうな宿が並んでる。
大体こういうのは、
お手頃な宿から埋まっていく。
だからちょっとお高めなら、
きっと空いてるはず!
と来たものの、高いよ!
天井知らずだよ。
何軒か回ったけど、
空いているところは、
値段がヤバかった。
銀貨2枚とか、どうかしてる!
もしかして冒険者だからって
足元見られてる??
確かに金持っているようには
見えないもんなぁ。
自分の身なりを見る。
籠手も今回で結構くたびれた。
あとで手入れしないと、
すぐダメになっちゃうだろう。
「顔か。顔のせいか?」
とりあえずペタペタ顔を触って確認。
うん。まだヒゲも生える気配がない。
まぁなんにせよ、泊まれる宿は
見つかってない。
あぁ。お腹空いたなぁ。
通りのどこかの店から、
肉の焼ける匂いがする。
「これは香草と肉だな。」
焼き鳥っぽい匂いだ。
く、くそぅ。
負けたくない。負けたくないけど、
あの台詞を言わなきゃならない。
「腹が減っては戦はできぬ!」
────
結局、いい匂いをさせていたお店に
フラフラと入って来てしまった。
「いらっしゃい。銅貨一枚ね。
そこ空いてるから、座りな。」
銅貨かよ!って思いながら、
恰幅のいいオバチャンに銅貨を渡し、
騒がしい店の中を見る。
長い机が何本か置かれていて、
そこにみんな向い合わせで座っている。
グループで話している客が多いが、
全員知り合いって訳じゃないみたい。
びっしりと席が埋まっていて、
相席上等!って感じだ。
コソコソと端っこの空いてるとこに座る。
え。初対面の人と仲良く話す?
そんな社交性はない!
さっきオレは成長したとか、
口走ったヤツがいたかもしれないけど、
それは残像だ。
「あいよー。」
オバチャンが皿に乗った塊肉を
オレの目の前にドーンッと置く。
「これだよ。これ。」
香ばしい脂の焼ける匂い。
焼き立てだからか、
表面でパチパチと脂が弾ける。
オレはたまらず、
すぐにナイフを入れる。
パリッ
表面はパリパリだ。
少し削いで口に運ぶ。
パリパリと口の中で鳴り、
少し濃いめの塩、
香草の香りと脂が
口の中に広がる。
「うまっ!」
やっぱり焼き立てが、一番美味い。
周りを少しずつ
ザクザク、パリパリ剥がして、
中のジュワっとしたところを
食べ進む。
中の方までしっかり火が通っていて
柔らかい。
なにより香草の香りと塩加減が
肉汁にスゴく合う!
「はいよー!」
コトッ
今度はコップが置かれる。
迷わず手を伸ばして、
一気にあおる。
「プハーっ!」
ノドから沸き上がるシュワシュワ。
生きてて良かった!
「此方、宜しいかな?」
肉に集中してたから、
急に話し掛けられて、
ノドに詰まる。
胸をドンドコ叩いて振り返ると、
黒衣の僧侶が微笑みながら立っていた。
用語説明:
・ウルワン
この辺りで一番大きな街。
何でも揃う。
・正論
突き付けられると、
おもわず目をそらしたくなる。
・社交的
他の人とのコミュニケーションに積極的という、
性格の一類型。
陽キャの一要素とされる。
・岩橋の街
今いる街
・髭のオッサン
拗ねて依頼を放棄したら、
契約の神の代行者に奴隷にされた人。
・嫌々でもやらなきゃいけないこと
絶対、これを売ったら、
買った人は不幸になると分かっているけど
会社の方針で売らざるを得ないとか。
眠いのに働かなくちゃ行けないとか。(アータル談)
・貨幣価値
アータルの感覚では、
銅貨1枚=1,000円
銀貨1枚=100,000円
金貨1枚=1,000,000円
くらい。
でも、場所に寄ってかなり変動するので、
あまり当てにならない。
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