02-70.再会
ヴぉえー
脳天目掛けてハンマーを振り下ろす。
ヴぉえー
変な音を出し、
目の前のヒトガタが
土へと還っていく。
岩の橋を渡り終える、ホンの手前。
馬車はそこで止まっている。
「何なんだよコレはっ!」
若い冒険者の一人がつぶやく。
「数が多過ぎる!」
目の前のアンデッドを
殴り倒しながら、
オレも心の中で同じことをつぶやく。
「何の恨みがあるんだっつーの!」
すいません。すいません。
たぶん恨みなんてありません。
彼らは忠実に願いを叶えようと
してるだけなんです。
オレを闇に葬れって言う、
オレが(間違って)出しちゃった願いを。
結構幅広い岩の橋。
馬車2台は問題なくすれ違える。
橋の出口は、広く小石が敷いてある・・・
みたいなんだけど、
アンデッドがワラワラいて
自分の足元の周りくらいしか見えない。
オレたち冒険者総出で
アンデッドを狩っているが、
「隊長!これじゃあ
橋から馬車を降ろすのも無理だ!」
馬車の上から御者の一人が叫ぶ。
確かに。
馬車を街へと進ませる道を
全然確保できない。
ヴィーナが髭のオッサンたちを檻から出して、
アンデッド狩りを手伝わせてるってのに
それでも手が足りないんだ。
かなり絶望的だ。
アンデッドは倒しても倒しても、
次から次へ出てくる。
オレの今いるところからは、ホント、
アンデッドの壁にしか見えない。
どいつも全部オレに群がってくる・・・
ってワケじゃないみたい。
何だ謝らなくても良かったじゃないか!
つーか、どんだけいるんだよ。
大量虐殺でもあったのか。ここ。
ってくらいいる。
前世で死ぬほど体験した
満員電車みたいな密度の濃い空間を
こんなところでまた
味わうとは思わなかった!
全然懐かしくもないし、
むしろ金輪際、電車通勤なんて
二度とごめんだって思っていたのに!!
過剰サービス反対っ!!
ガスッ!
怒りをこめてアンデッドの横っ面を
ハンマーでぶっ叩いて転がす。
何匹か巻き込まれたので、
落ち着いて頭を粉砕していく。
ヴぉえー
剣は邪魔にならないように、
適当に作った鞘に入れたまま
背中にくくりつけている。
こんなの剣で斬りつけていたら、
すぐに斬れなくなっちゃうだろう。
ガスッ!
無限に湧いてくるアンデッドを
右へ左へ、ひたすら殴り続ける作業。
でも一向に減る気配がない。
一体、なんなんだよ。
一度殺ったヤツ、また復活して
列の後に回ってるんじゃねーのか!?
アンデッドの顔の違いとか分からないけど、
いくらなんでも多過ぎるだろ!
ガスッ
ハンマーの重さで腕を振って、
目の前のアンデッドを殴り飛ばす。
ホントに身体がダルい。
腕も上がらなくなってきた。
頭も回らない。
きっついなぁ。
こう言う終わりが見えない単純作業が、
一番精神的に来るんだよなぁ。
栄養ドリンクみたいな感覚で
ポーションでも飲もうかな?
そりゃ一時的には回復するけど、
先が見えないんじゃ、
あるだけ使って、それで終わりって
オチになる気もする。
「くっそっ!」
ガスッ!
重い腕を振り上げる。
アンデッドたちの動きは単純で、
ワラワラと寄って来るだけ。
がっつり集中しないとさばけない・・・
ってほどじゃない。
単調だから緊張感も無くなってくる。
でも、そうして油断していると、
次から次に上に乗っかられて、
あのオッサンみたいに
押し潰されてしまう。
目の前でオッサンが
アンデッドに乗っかられていて、
そこから抜け出そうともがいていた。
「ウグッ。」
今は一人でも人員が欲しい。
ちょっと無理してでも助けるかな。
ガスッガスッガスッ!!
オレはハンマーで、
オッサンに乗っかっている
アンデッドを上から順に払って行く。
さすがに下から叩いていっても
ゲームみたいに
連鎖で消滅とかしないからなぁ。
それに一番下はオッサンだし。
ガスッ!
最後のヤツを吹き飛ばし、
オッサンの上に乗ってたヤツを一掃した。
うめいているオッサン。
仕方ない。
もったいないけど、
オッサンにポーション振りかける。
今、数に限りがあるから
ご利用は計画的にって言ったばかりな
気はするけど、しゃーない。
今は戦力が欲しかったんだ。
と、自分に言い訳をする。
相当頭回ってないよな。オレ。
「・・・助かった。」
しゃべれたんだ?!
だってさ、神の代行者が、
天罰(?)を食らわせていた
オッサンだったから、
てっきりしゃべれないもんだと
勝手に思ってた。
オッサンは立ち上がり、
盾を使ってアンデッドに
体当たりして行った。
気力が折れてなくて助かる。
オッサンが周りのアンデッドを
弾き飛ばしたお陰で、
ほんの少しだけ余裕ができた。
周りをちょっと見渡す。
カンッ!
キンッ!!
あっちこっちで戦っている音がする。
最初は橋の出口を確保しようと、
隊列を組んで戦っていたはずなんだけど、
今はてんでバラバラだ。
みんな必死に戦っているが、
押し返されているところもあるし、
押し込まれているところもある。
フンッ!!
オレも手を休められない。
前みたいにアンデッドを積んで
防壁にするのも考えたんだけど、
次から次に来るから上手く組めない。
その上、このアンデッドは何だか軽いんだ。
いや。動いているときは、
さっきオッサンを押し潰していたように
重いんだけど、
動かなくなったあとは、
土の塊みたいになって地面に溶けていく。
省エネなのか何なのか。
省エネ de 厄介。
戦っている味方を見てみる。
みんな目が虚ろだ。
むしろ襲ってくるアンデッドより、
虚ろじゃないか?
何か既視感があるなぁ。
「そこっ!もうちょい押し返して!
そっちは出過ぎ!!」
ヴィーナも戦いながら、
全体に指示を飛ばしているが、
リアルタイムで何か悪霊的なヤーツが
肩に乗ってんじゃないかってくらい、
顔色が悪い。
青い髪が汗で顔に張り付いて、
肩で大きく息をしている。
いつものような、
見てるとこっちが元気になるような笑顔は
見る陰もなく、余裕がなさそうだ。
持ち前のスピードも活かせてない。
それどころか、
アンデッドが振り上げた腕を
喰らったりしている。
「ヴィーナ大丈夫か?」
なんて声は掛けない。
ここにいる誰もがイッパイイッパイで
限界が近いのが分かりきっているからだ。
「隊長っ!このままだと!」
「仕方ない。
少しずつ下がるよ!
まずはそっちの端からっ!
何人かフォローに回って!」
────
ジリジリと少しずつ下がっていくオレたち。
ちょっとだけ確保できていた、
小石の敷かれた部分を放棄して
みんなが橋の上に集まってくる。
攻撃を受ける面が狭くなったお陰で、
何人かが休憩できている。
「何とかなりそうだ。」
後ろでそんな声も聞こえたが、
事態はそんな単純ではない。
オレたちだけでなく、
オレたちの後ろには、
小回りが簡単に利かない馬車が
あるんだ。
「てーへんだ。お頭!」
大変なのはお前の頭だ。
ってフレーズが頭に浮かんだけど、
疲れ過ぎて言葉が出ない。
「どうした?」
オレの近くで指揮を取っていたヴィーナが
応える。
ずっと大声出してたせいか、
声がだいぶハスキーになってる。
「後ろに他んとこの荷馬車が詰まっていて、
方向転換ができねぇ!」
橋を渡ろうと、
他の商隊がどんどんやって来てて、
渋滞してるってことなんだろうな、
さすが交易の要所。
つまりはこれ以上は
後ろに下がれないってことだ。
かろうじてオレたちは岩の橋に辿りついたが、
目の前までアンデッドが迫ってきている。
「馬車を一台倒して、防壁にするか。」
「クソッ。ここまで来て
罰則金払いたくねぇなぁ。」
「命の方が大事だ。
また稼げばいい。」
殿として前線を支えてる後ろで、
休憩中のヤツらが話してるのが聞こえる。
そうだよなぁ。あとは、もういっそ、
火を放って全部燃やしちゃうくらいしか
方法が無いだろう。
その時、御者の一人が叫んだ。
「おいっ!何だかヤバいのが
街の方から近づいてくるぞ!」
用語説明:
・岩の橋
岩橋の街の近く、
急流エルダン川に架かっている橋
あまりにしっかりしていて、
橋じゃないようにも見える(アータル談)
・ヴィーナ
アータルと何度か一緒にクエストを受けた
こともある、青髪の冒険者
スピードを生かした攻撃が得意のナイフ使い
・満員電車
狭い空間にたくさんの人間を詰め込み、
ストレスを増加させる装置。
・栄養ドリンク
主に働けない者を無理やり働かせるための薬
・神の代行者
契約の神の使徒
・ハスキーボイス
ハスキー犬のハスキーとは関係ない。
・殿《しんがり》
退却する軍の一番後ろで、敵の追撃を防ぐ役
捕まったり、死んだりする確率が高い。




