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歩けば何処かに辿り着く  作者: 河内 胡瓜
新たな
175/272

02-67.AI

「うぅ。」


テントの中で目が覚める。

外套をしっかり掛けているが、

顔が結構寒い!


もう一度寝直そうかと身体をひねる。

うーん。ムリ。

もうバッチリ目が覚めてしまった。

身体は回復したが、頭は痛いなぁ。

ヨロヨロと外に這い出す。


「あ。アータル。

 おはよ。

 トカゲのマネ??」


ヴィーナがオレに気付いて

声を掛けて来た。

オレはパンパンと服を払って

立ち上がって言う。


ゴホンッ


「おはよ。ヴィーナ。

 何か異常あった?」


精一杯のイケメンボイスで。


「ナイナイ。

 平和なモンよ。」


ヴィーナは焚き火の前に座って、

外套を羽織っている。


外套は夜露で少し湿っていて、

その隙間から手を出して、

小さくナイナイと振った。


「それにしてもアータル、早起きだね。

 もうちょっと寝てても良いのに。」


そんなことを言ってくる。


「ありがたいけど、

 なんかバッチリ目が覚めちゃって。」


そう言いながら、

焚き火の近くに座る。

もちろん、ヴィーナとは

焚き火を挟んで反対側だ。


うーんっと腕を上に伸ばす。

テントの外はやっぱり少し寒い。

川の近くだからだろうか。


パチパチと言う細かい音。

音が周りに溶けてすぐに消える。


あのあと、

ヴィーナと一緒に近くにテントを張って、

すぐ休むことにした。


もちろん、先に見張り番をした。

かなりウトウトしてたかもだけど、

流石にヴィーナに見張りをやらせるのは、

ダメだろう。

ちっぽけな男としてのプライドだ。


本来なら、本隊に戻って

他のメンバーと合流した方が

楽に決まってるんだけど、


ヴィーナが、


「戻らないっ!

 戻るくらいなら、

 アータルを殺して

 アタシもここで死ぬっ!」


って宣言したので、止めた。

それにしても、

ものスゴい嫌がりようだった。


でも、このまま合流せずに

のんびりココにいたら、

きっともう死んだものとして

置いて行かれちゃうだろう。

早目に合流することにした。

重い腰を上げる。


ヴィーナはホント渋々って感じだ。

どんだけ嫌なんだ。


────


ガサガサッ


ヴィーナのあとをついて

木々の間を抜ける。

と、少しひらけた場所に出た。


忙しく動き回る人の中で、

火の周りを囲んで笑ってる男たち。

その時点でちょっと嫌な感じがした。


意外と近くにあったんだな。本隊。

こんだけ近ければ、

向こうの見張りが

オレたちのことに気付いても

おかしくなかったんじゃ・・・?


それにしてもこんなに人数いたんだな。

オレが見たことがあるヤツは・・・

この中にいなそうだ。


焚き火を囲んでいるオッサンたちは、

互いの肩を叩きあったりして、

楽しそうな雰囲気を出してはいるが、

一方で互いに牽制しあっているようにも

見える。

その中で一番偉そうに座ってる髭の男。

その男だけは違った。


その男が、

こっちに気付いて声を掛けて来る。

バカデカい声だ。


「おぉ。こりゃヴィーナ!

 生きてたんだな。

 顔が見えないから心配してたんだ。

 こっちへ来てハグさせてくれ。」


「絶対に嫌。」


「その強情っぷりがソソるよなぁ。」


焚き火の周りのオッサンたちから、

一斉に笑い声が上がる。

ガッハッハっと脂ぎった笑いだ。


うわー。

絶対、ハラスメント上等!

若い内は買ってでも苦労しろ!

とか言いそうな体育会系な感じだ。

ホント苦手だ。


髭の男は、隠しもせず

タップリと時間を掛け、

ヴィーナをなめ回すように見ている。


「「キモッ!」」


思わず口から出た言葉が、

ヴィーナと重なり、

チラッと互いを見る。


だよねー。

気持ち悪いのは気持ち悪いもん。


距離が遠いから向こうには

聞こえてないだろう。


「それで、ヴィーナ嬢。

 奴隷たちはどうだったんだ?

 元気してたかー?」


「朝帰りだったんだ。そりゃなぁ!」


別のオッサンが大声を上げ、

それに合わせてまた、

ガハガハ笑い合う。


うるせぇなぁ。


「そんなことより、

 アンタら契約は、どうなったんだ?」


声にイライラが乗ってしまったのは、

この場合しょうがないと思う。


「契約ぅー?」


オレの言葉に反応して、

一人の男が立ち上がり、

こっちへ歩いてくる。


かなり迫力のある顔だけど、

魔法使いのロゥの方が

ガタイが良かったぞ。

と、ある程度余裕で見れる。

しかも丸腰。


こっちから近付いて

腰に佩いた剣で首を落とすなんて、

造作もなさそうだ。


「契約がどうしたってんだよ。えぇ?」


「アンタら、鉱山奴隷を

 護送する契約だろう?

 何で牢番もしないで

 こんなとこで無駄話してるんだ?」


「ハァ?

 なんで俺らがそんなことしないと

 いけねぇんだよ?

 そう言うのは、アイツらに

 やらせとけばいいんだよ。」


そう言って、

忙しそうに走り回っている人たちを

アゴで指す。


「いやいや。

 オマエは今何してるのかってことだよ。」


「ハァ?

 俺たちみたいな()()()()()

 自分で動くかよ。

 監督に決まっているだろ?」


「監督ねぇ。」


焚き火の周りにどっかりと腰を降ろした

オッサンたちは、5、6人はいる。

さっきから忙しそうに動き回っているのは、

比較的年の若い冒険者で、3人だけだ。


見えない場所にもう何人かいるかもしないが、

監督はそんなに要らないだろうってのは、

オレでも分かる。


「契約書では、鉱山に送る犯罪奴隷を

 無傷で送り届けることとなっていたはず

 だけど、途中で牢番がいなくなったぞ。

 どうやって周囲の魔物から

 守るつもりだったんだ?」


「兄貴っ。」


オッサンは焚き火の方に向き直り、

誰かを呼ぶ。


勢いだけで出てきたのかよ。


髭の偉そうなオッサンは、

耳を小指でほじりながら、


「契約書ってこれか・・・?」


と言って、紙を取り出す。


そして・・・


「ヤメだヤメだ。こんな依頼。」


ビリビリビリッ


目の前で破いて、

焚き火の中にくべてしまった。


「アンタバカ?

 初めて会った時から

 バカだとは思っていたけど、

 まさかココまで

 救いようがないとはね・・・。」


「結構な言い草だな。ヴィーナ。

 どうせこんなのは、

 紙でしかないだろうが。

 燃やしてしまえば何も残らん。」


「オレたちが見ているだろうが。」


オレがそう言うと、

ギロリとこちらを見る。


「そうさな。

 オマエ一人なんざぁどうでもいいが、

 やっぱりヴィーナは惜しいよなぁ。」


そう言って片刃の斧を手に立ち上がる。


「まぁ、骨の1、2本折ってやれば、

 正直になるだろうさ。」


「「キモッ!」」


またもヴィーナと声が重なる。


髭の男につられるように、

周りの男たちも武器を取る。


たぶん、オレとヴィーナなら

問題なく殺れるはず・・・。


オォォォオオオ!!


急に髭の男が雄叫びを上げると、

男のいる方から突風が吹いた。


ビュオゥッ


熱くてヒリヒリするような風。

炎天下のコンクリートに囲まれた都会で、

照り付けるアスファルトの上を這うような

ムワッと熱い風。


キモい。


と思ったら、目の前に髭の男がいた。

片刃の斧をオレめがけて振り下ろすところだ。


ヒュッ


オレは口から変な音を出しつつ、

その男に向かって走って、

その脇に飛び込み、ゴロゴロと転がる。


あっぶねー!!

油断して死ぬところだった!!!

てぇかなんつー距離を一瞬で詰めてきやがる。


オレはすぐにオッサンを見据えて立ち上がる。

後ろから取り巻きたちが、

近付いて来ているだろう。


後ろからズバッとやられないように、

それらを視界に入れようと動く。


ヤバかったが何とか避けた。

何度もグリズリーと戦ったもんなぁ。


髭の男はこっちを見て、

アゴ髭をいじりながら言う。


「ほぅ。避けるとはなぁ。

 偶然か?」


と、オレを上から下まで眺める。


キモッ!


ガキンッ


男が無造作に上げた斧から音がした。

ヴィーナが男の腕を蹴って距離を取る。


どうやら斬りかかったっぽい。


マジかよ。

デタラメな強さじゃねぇか。


「これは契約の一方的破棄とみなします。」


冷たく事務的な声が割り込んできた。

用語説明:

外套(マント)

防寒具から雨具まで。

旅行に必須の装備。


・トカゲ

トカゲと言っても、その形態は様々で

ヘビに近い種から、カメレオンのような変わった種類まで多岐に渡り、世界中のあらゆる環境で適応した種を見ることができる。

ここでは、ワニなどの地面を四足歩行する類いの爬虫類を指しているよう。


・ちっぽけな男としてのプライド

アータルもお年頃なんです。


・ハグ

腕で抱き締める、抱擁のこと。

親愛を示す挨拶として行われることがある。

ここで言うハグはその様なものではない。


・ハラスメント

色んな場面でのいやがらせ、いじめの一種。

相手に不利益、不快を与え、人としての尊厳を踏みにじる行為。


・アスファルト

黒色(黒褐色?)の固体/半固体の物質

原油の生成の際の残留物で作られる。

正確には、アスファルト合材。

こちらの世界の日本では比較的多くの道路で利用されている。

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