01-13.シロフクロウ
「どうって?」
どうなんだろう?
縦に割かれるか、横に割かれるか
ってことなら、どっちもお断りだ。
「冒険者になりたいのか?」
そりゃなりたい。
楽して暮らすってのはもう無理だ。
だって、今ここにいる時点までで
大分楽じゃなかったし、
また同じ道を一から辿りたいとは思わない。
「中途半端な答えは要らん。」
「なるしか道がない!」
選択出来ればいいが、
もう何もかもが手遅れだ。
実家には帰れないし、金もない。
食うためには働かなきゃだが、
手に職なんてない!
ジロジロ見られたが、
ふと俺の頭の上を見て、頷いた。
「まぁ、いいだろう。
白梟は、冒険者アータルを歓迎する。」
「ありがとうございます。」
後で聞いたが、
中途半端な答えをしたヤツを
何回か叩き出したそうだ。
競り落としたのに叩き出せるのか。
スゲー粗い仕組みだな。
「自己紹介がまだだったな。
俺が団長のホスだ。
で、お前を抱えてきた厳ついのがロゥ。
主に渉外担当だ。
生憎、今日は皆出払っちまっててな。
残りは後で紹介する。」
「紹介するのが面倒なだけだろ?」
と、ふくよかなお・・・おねえさんが言う。
「何でもいいよ。
私はヒルダってんだ。
フクロウたちが定宿にしている、
ここ、常緑亭の女将だよ。
みんなにはヒルダ姐さんと呼ばれてる。」
「姐さんねぇ。」
隻眼の男が苦笑いをする。
「なんだよ。文句があるかい?」
凄んだヒルダさんからは、
とてつもない殺気が!
「まぁ。なんと呼ぼうが自由じゃないか。
命を掛けてるんだ。色々学べるだろう。
それより、俺が何でお前を競り落としたか
聞きたくないか?」
「競り落とした理由?」
「じゃあ、込み入った話になりそうだから、
私は引っ込むよ。」
ヒルダさんは、あっさり殺気を引っ込め、
奥に入っていってしまった。
部屋には、
目の前には隻眼の男と、
後ろに厳つい男がいる。
この話は身内だけって感じみたいだ。
「聞きたい。教えてくれるなら。」
「分かっているようだな。
これはチーム内の秘密と言うヤツだ。
お前の後ろのロゥは、
"鑑定"スキルを持っている。」
団長は、オレの後ろの厳つい男に
顎で合図した。
「その人物が使えるヤツなのか、
そうじゃないかの違いが分かる程度だが。」
肩をすくめて言う。
「で、俺は思ったのさ。
ロゥがいれば、中堅レベルの俺らでも
一発逆転を狙えるんじゃないかってな。
だが、現実は非情だ。
そんなに上手く行かん。」
後ろの厳つい男が低く笑う。
「まぁ。先のことは分からんが、
仲良くやろうじゃないか。アータル。
どこに住んでる?
とりあえず、ここに越してこい。
部屋は用意しておいてやる。」
「マジっすか。」
つい下っ端口調になっちまった。
「善は急げだ。引き払って荷物持って来い。」
オレは、追い出された。
――――
「おやっさん。
オレは、あまり気がすすみませんが。」
「いいんだよ。どうせ道楽だ。
それに一度は言ってみてぇじゃねぇか。
"アイツは俺が育てた"ってな。」
「そこまでの潜在能力があるとは
とうてい思えませんがね。」
「大人物になるかどうかは、
神様の気紛れだろうよ。
一つ言えるのは、
買わなきゃ当たらねぇってことだ。」
「まぁ。育てる分には、
冒険者ギルドの覚えが良くなるから
文句はありませんけどね。」
――――
冒険者ギルドに戻ってきた。
と言うか定宿にしてる、
たこ部屋に帰ってきた。
タコの巣みたいに狭いって意味で、
一度入ったら出られなくなる
って言う意味じゃないと思う。
荷物をまとめる。
とは言ってもそんなにはあるはずもない。
ここは色々あったなぁ。
とは言っても帰って寝るだけだったが。
部屋を出てギルドホールに出ると、
ムキモジャが居た。
こんなところに居るのは珍しい。
仁王立ちしている姿は圧倒される。
心なしかいつもうるさいギルドホールが
少し静かなような・・・。
「燃えるシチュエーションよね。」
アンタはしゃべらないでください。
何でこっち向いて話しかけてきてるんですか。
対応している冒険者の方が、
目を白黒させてるじゃないですか。
ってかそっちの趣味なんですね。
・・・けしからんオネーさんでした。
「飯に行くぞ。」
と、こちらの確認もとらず、
小脇に抱えられ、連れ去られる。
連れ去られた先はいつもの食堂だ。
いつも通りの場所に陣取る。
「白梟に引き取られたみたいだな。」
突然言われたので、理解が追い付かなかった。
「他のチームは競りにも参加しなかった。」
自分でその事を口に出すと、
口の中に苦い味が広がる。
必要とされてなかった、
金を掛ける価値もない存在。
そんな気分になる。
「良かったな。」
ガシッと肩を掴まれ、前後に振られる。
「"白梟"は比較的マトモだ。」
チームによっては、
怪しいクスリの実験台になったり
とかするらしい。
怖!異世界怖!
最後のダンジョンアタックで
上位者にはなるが、
冒険者としては
もう働けない身体になっちゃったり。
でもこの制度でやるようになってから、
死ぬ初心者も減ったし、
いさかいを起こすパーティーも
減ったそうな。
そのあとは、何だかんだ色々話した。
今までの中で一番話したんじゃないか?
そして、
「卒業だ。アータル。」
背中を押された。
「必要だったらまた来い。」
そう言って食堂を出ていった。
え。なんかカッコいい。
もう、これで会わなくなると思うと、
遠ざかる背中に何か声を掛けなきゃ
いけない気がした。
・・・何て掛ければ良いだろう?
今一番言いたいことを言うことにした。
「ここの支払いって、どうなってるの?」
――――
支払いはツケで払ってるそうだ。
「半ば先払いだけどね。」
と、食堂のおっさんが言ってた。
ムキモジャの名前は結局わからなかった。
積極的に聞けば教えてくれたかも知れないが、
そうはしなかった。
ムキモジャで十分だ。
決して名前を
本人に直接教えてもらえてないのが
悔しいのではない。
また挑戦するつもりだ。
一度も勝ってないし。
色々考えている間に常緑亭に戻ってきた。
常緑亭の入り口に、
厳つい女性が立っている。
遠目でも女性と分かる感じだ。
どこがとは言わない。
思わず見いってしまう。
「待っていたよ。
アンタの部屋は外。
馬小屋だよ。」
突然の宿 格下げ問題。
部屋を用意してくれるとは言ったが、
人間のとは確かに言ってなかったな。
しぶしぶ馬小屋へ行く。
間違いであってほしいなぁ。
誰か違うと言ってくれないかなぁ。
馬小屋は直ぐに見付かった。宿の裏手だ。
よし。気を取り直そう。
今夜の寝床を確保するためにも、
まずは掃除するか!
今は馬はいないようだ。
とりあえず自分が泊まる馬房を選んで
そこだけはきれいにしちまおう。
ヒルダさんに
「オレ、掃除しちゃうぜ」
って言ってくるか。
流石に勝手に部屋を選んで
後から馬でいっぱいになったら困るし。
「今は馬は居ないよ。」
と、言うことだったので、
早速掃除を始める。
こう言う黙々とやる作業は好きだ。
鼻や口は布でマスクする。
順番を考えよう。
そしてやるべきところだけをやるんだ。
馬はいないから、
これ以上片付けなきゃ行けないものが
増えることはない。
寒さを考えると真ん中の方が良さそうだ。
下は土だな。
新しいワラがあると助かるんだが・・・
周りを探すと、
新しいワラが積み重なっていた。
横にあった、
でっかいフォークっぽい道具で運んで、
ソコソコ重ねる。
要らなくなった古いワラは、
古い草が折り重なったところへ、ポイっだ。
暗くなる前には自分の寝床は用意できた。
お腹が空いたので、食堂に行く。
「お。ごくろーさん。」
ヒルダさんが声を掛けてきた。
「坊主の分の食費はホスからもらってるよ。
うちの自慢の料理を食べてみな。
フクロウがなんで
うちに居座ってるのか分かるから。」
と大声で笑う。
事実ヒルダさんの運んできた
野菜のスープとパンは超旨かった。
ゴロゴロ野菜が入っているし、
芯まであったまる感じだ。
パンも柔らかかったし、
鼻に抜けるような芳ばしさが
たまらなかった。
明日も楽しみだ。
お腹もいっぱいになり、急に眠くなった。
今日一日色々なことが有りすぎたな。
初日はそのまま馬小屋で眠りに着いた。
用語説明:
・常緑亭
美味しい料理と名物女将で有名な店
・ヒルダ
常緑亭の女将。がっしりとした外見。
常連客は、尊敬の意味を込めてヒルダ姐さんと呼ぶ。
・ホス
チーム"白梟«ホワイトオウル»“の団長
隻眼、隻腕の男。団員には「おやっさん」と呼ばれる。
・ロゥ
スキル"鑑定"持ち。
アータルに何かしらの予感を感じてる。
・(冒険者ギルド)簡易宿泊所(通称:タコ部屋)
狭い約1畳の簡易鍵の部屋。一人用。
この世界のタコが八本足の軟体動物かは不明。




