01-11.スキルとはなんぞ?
いつもありがとうございます!
目の前の黒服は、フードを取って
鋭い視線を向けてくる。
黒い髪に紫がかった黒い瞳。
ここらじゃ珍しい。
綺麗と言うより愛嬌のある顔は
高貴な猫みたいな・・・って
おい、怒ってるよ。
ボーッとのぞきこんだのが、悪かったのか。
とても真剣な目で此方を見据えていらっゃる。
とりあえず声を掛けよう。
「あのー、鑑定士様・・・
こんなことを聞くのは
失礼かもしれませんが、
スキルって何ですか?」
ちょっと媚びた感がのってしまったのは仕方ない。
「それについては、
私の曾祖父が残した書物には
こう記されています・・・。」
その真剣な様子に
オレは居ずまいをただした。
「何かスゴいもんだー!」
急に立ち上がり、
片足を机に乗せ、
片手の拳を天に高々と掲げ、
突然大声を出すから、ビクッとなった。
「あれ?ウケなかった?」
「はい。今までとのギャップにドン引きです。」
正直に感想を言うと、
「そうですよね。」とあっさり返された。
うむ。掴みにくい。
「能力、才能、と言われるモノですが、
私はあまりこの説明が好きではありません。
努力して身に付けた技術や知識の結晶
と言うのが好きです。」
「でも、生まれもって
スキルを持ってる人もいるんでしょ?」
思わず言ってしまう。
「それでも・・・それでも・・・です。
だって、努力した結果、
何か形が欲しいじゃないですか!」
まぁ、そうだけど。
規格外のスキルとかを偶然持ってて、
オレTUEEしてみたいじゃん。
でもおかしい。
生まれてこのかた、
両親や兄貴にスキルって言葉は
聞いたことがない。
ギルドでも言ってなかったような・・・?
「スキルなんて聞いたことがない?」
ナチュラルに心を読むのは止めてください。
「スキルを鑑定できる"鑑定士"って少ないのよ。
鑑定士が鑑定して、
こうして冒険者カードに
初期情報を書き込むと・・・・」
冒険者カードが光出した!
マジで何で出来てるんだろう。
「あーら不思議。
これでやっとこのギルドカードが
ちゃんと機能し始めまぁす。」
何か思ってたキャラと違う。
「ギルドに鑑定スキルがある人が居れば、
やってくれるんですけどね。
そんな人は大きい都市にしか居ませんし。
きっとギルドカードを貰っても、
一生自分のスキルを知らず、
ギルドカードも起動しないで過ごす人、
いると思います。」
鑑定スキルはレアなのか。
鑑定スキルがあれば、遊んで暮らせるかも。
「そう言う意味だと、
ボクはとても運が良かったってこと?」
「そうかもしれませんね。
それは私もですが(ジュルリ
さて、あなたのユニークスキルについて
話していいですか?」
「あ。お願いします。」
「あなたのユニークスキルは、
他に持っている人が
極めて少ないスキルです。
ぶっちゃけ言うと、
よく分からないスキルです。」
「ぶっちゃける・・・?は、はぁ。」
何か外見とのギャップ過多な人だな。
「あなたのスキルは、
鑑定士でも意見が割れると思います。
それほど特殊なスキルです。」
「なるほど。ヨクワカリマセン。」
「とっても個性的ですね。
ってことです。」
「うん。何だかとても
バカにされてる気分になってきた。」
「ほっほう。
”蛮族の好奇心”スキルは、
そんな効果かもあるのかもしれませんね。
額面通りに言葉を受け取れなくするとか、
疑心暗鬼に陥らせるとか。
うーむ。興味深い。」
「あ、あの、」
何やら自分の世界に入りはじめて、
ブツブツ呟き始めたぞ。
「攻めじゃないわね。
きっと受けね。
いやー(考察が)捗るわー。」
清純そうな第一印象と違い、
中身はおっさんみたいだな。
「えーっと、それで
オレのスキルはどんな効果が?」
「待って待って、がっつかないの。
ゆっくりガッツリとオハナシしましょう?」
話は全然先に進まないが、
このヒトは、相当の趣味人なのは分かった。
このままだといつまでもここに拘束されて、
鑑定の名のもと、色々実験に
付き合わさせられそうにも思えてくる。
何より、彼女の目が
面白いオモチャを見つけた
獣の目をしている。
しかし、スキルについては知りたい。
今も続いているムキモジャとの地獄の鬼ごっこは
確実にオレの心を蝕んでいる。
もう髭でジョリジョリされるのより、
次にどうしたらもっとうまく行くかの方に
気が行っている。
危ない兆候だ。
道を踏み外す前に抜け出さなければ!
「妄想して楽しむ性癖がある。何と興味深い。」
おっと。アクセル踏んできた!
「どうどう!落ち着け!」
ウマを落ち着かせるように、
手のひらをかざしたら、
アイアンクローみたいになった。
顔小さいなぁ。
「コホン。私としたことが。
では、服を脱いでください。
全身をくまなく調べます。」
「へ?!」
変な声出た。
「ウソウソ。冗談よ。
“蛮族の好奇心”を持つ人が、
どんな反応をするか見たかっただけ。」
笑うとちょっとかわいいが、
眼はマジなんだよなー。
早く切り上げよう。
「次の予定もあるので・・・」
「あぁ。そうかー。残念ね。
また是非続きを見せてね。
私の鑑定スキルと勘では、
”蛮族の好奇心”はこんなスキルよ。」
・興味を持ったスキルの適性を得やすくなる。
「え。これだけ?適性って??」
「私が見れたのはそこまでね。
通常初見のスキルについては
分からないことが多いのよ。
それでもこれだけ分かったのは、
運が良かったわね。
勿論、私の経験と勘もあるけど。」
「他の人なら?」
「きっともっと不思議な説明になるわね。
何となくこうなんじゃないか的な。」
「なるほど。」
鑑定スキルも万能じゃないのか。
スキルにはレベルがあって、
レベルが低いと見えないとか?
ロールプレイングゲーム的に考えると、
自分ではスゴく納得出来た。
腹落ちしたところで
身体をザワザワしたものが走り、
身震いした。
目の前の彼女に渡していたギルドカードが光る。
「あら、ギルドカードについての
追加説明するのが省けたわ。
ここを見て。」
鑑定士は、小型のテーブルをどけて
身体を寄せて来る。
なんて、柔らかくていい匂い・・・。
って、あっぶない!
視線をギルドカードに向ける。
見るとそこには”鑑定”と書かれていた。
「新しいスキルを手に入れると、
ここにスキル名が出るの。
勿論、鑑定士にアクティブにしてもらった
ギルドカードだけね。」
不思議機構だな。ギルドカード。
「普通はクラス<職業みたいなもの>に就いて、
一定の経験を積むと、
スキルの適性を得ることができる。
そこからその適性に合った経験をさらに積むと、
スキルを得るって言われているわ。
初め見たときには、
キミには”剣術の心得”と言うスキルが付いていた。
スキルとしては一般的ね。
そして名前が変わって行くスキルとしても有名。
”剣術の心得”は、一番の初歩のヤツね。」
あれだけやって来た剣術が一番初歩。。。
「ほらここ、"鑑定"が増えてるわね。
”鑑定”には段階が有るんだけど、
私のレベルでは大まかな情報が分かるだけなの。
私の判断基準に照らし合わせると、
C-さっきの”剣術の心得”と同じね。」
あれだけ練習した剣術と、
ポッと出の鑑定が同じorz
こちらの落ち込みなど気にせずに、
鑑定士は続ける。
「"蛮族の好奇心"は、
スキル取得にもボーナスがあるんじゃないかしら。
所々に鑑定の極意を混ぜこんで話したけど、
こんなに簡単にスキル取得出来るなんて、
やってみるもんだわ。」
「実験台かい!」
「そんなに怒らないで。
これは鑑定技術の進歩には必要なことなの!
そう!これは私にとっては小さな一歩でも、
人類にとっては大きな一歩になるのだわ!」
再び机に片足を掛け、今度は広げた掌を天に掲げる。
「とりあえず、現実に戻ってきてください。」
鑑定士は「コホン」と、わざとらしく咳払いし、
椅子に座り直す。
「これは勘だけど、
蛮族の好奇心は何らかの制約もあるわね。
このままじゃ利益が大き過ぎるもの。」
「制約と言うと・・・?」
「一番ありがちなのは、
所持できるスキルに限りがあるパターン。
”蛮族の好奇心”のスキルレベルに従って、
持てるスキルに限りがある。
もしそうだとしたら、
キミの今の"蛮族の好奇心"のスキルレベルだと、
これ以上スキルは増やせないわね。」
「へ?」
「"鑑定"はそれだけ"重い"スキルなの。」
「それって、アナタのせいってこと?」
「やだなぁ。
キミが全鑑定士の未来に貢献してくれたってこと!
言わすなよーうりぃー」
指でつついてくる。
やっぱりいい匂いがする。
ちょっとかわいいかなーとか思ってないぞ。
ホントに。
用語説明:
・女性鑑定士
幕間のあの人。黒い髪に紫がかった黒い瞳。
抑えていたモノが解放されたようです。
・スキル
何かスゴいもんだー!
・蛮族の好奇心
興味を持ったスキルの適性を得やすくなるらしい。
・鑑定の極意
内容は明らかにされてなかったが、
彼女の言動の中にその極意が混ぜ込まれていたのは確か。




