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歩けば何処かに辿り着く  作者: 河内 胡瓜
帰り道
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02-36.ギガ

少し不快な表現があると思います。

苦手な方は読み飛ばしてください。

「なぜこんな簡単なことに気付かない?

 俺が細かく指示しないとダメか?」


「なんでこんな単純な間違いばかりする?

 お前のせいでムダな仕事が増えるんだぞ!」


「言わなくてもそれくらい自分で気付け!

 新人じゃねーんだろ?」


生前、散々(さんざん)浴び続けてきた言葉だ。

ミスや失敗をすると、責められる。

「息を止めると、苦しくなる」と

同じくらい当然なことだった。


だけど、こんな言葉を浴びせられて、

二度と失敗しないようになるだろうか。

少なくともオレには、無理だった。


ミスや失敗は、

最後にスイッチを押したヤツが全面的に被る。

少なくともオレが経験したところでは

いつもそうだった。


最後に分かりやすい()()を踏んだヤツが

槍玉(やりだま)に挙げられ、周りから叩かれる。

それも取り戻せない過去のことで。


「何で今まで気付かなかった!」


「こうなる前に分かっていたはずだろ!」


「お前は今まで変だとは思わなかったのか!」


オレはそこでイヤを思うほど思い知らされた。

過去と他人は変えられない。

当時のオレは、全てを(あきら)めてしまった・・・。


────


「アータル!広げるぞー!」


ハルがテントを取り出し、広げようとしている。

慌てて今に意識を集中させ。


「どぅどぅ。」


後ろでは、オッサンたちが

騎獣たちを使って馬車の向きを変えたり

地ならししたりしている。


二人用のテントはすぐに立て終わり、

オレは少し向こうに見える白い幼女を

何の気なしに眺めた。

相変わらず仁王立ちでこっちを見ている。

今のところは動いたりしなさそうだ。


オレたちは、

幼女の射程距離からちょっとだけ離れた

道のど真ん中に夜営を張ることになった。


「いやー。道のど真ん中で

 寝るなんて、思ってもみなかったな。」


「こりゃ良い話のタネになるな!」


ガハハとオッチャンたちは笑いながら、

テントを立て、火をおこし、

手際よく夕飯の支度を始めている。


どうせこの先には行けないし、

向こうからも人は来ない。

こりゃぁもう、行き止まりと同じだ。

だからここで寝ようぜ!

ってことらしい。

割り切りって言うのかな。


「考えても仕方ないだろう。

 アータルがどうもできないなら、

 ワシらにゃ逆立ちしても無理だ。」


笑顔で言う。


「おぅ!アータル!

 バッチリ後ろから見てたぞ!

 もう少しで、汚ねぇ道路の染みに

 なるところだったな!」


って別のオッチャンが

オレに夕食のお(わん)を渡し、

ガハガハ笑いながら背中を叩いてくる。

こぼれるって!


「いやいや。笑い事じゃないって。

 ホント、ギリギリだったよ。ギリギリ。」


そう言いながら

火を囲んでいるオッサンたちの輪に入る。

どこからか運んできた丸太を

イス代わりにしてる。

辺りは暗くなり始め、少し肌寒い。


「後ろから見てて、

 こりゃもうダメかと思ったぜ。」


既に座って食べ始めていた若い御者も

スプーンを止めて、オレを見て笑う。


手の中のお椀は、すごくあったかい。


ふぅー。


少しため息の混じった息を吹き掛けて冷ます。


・・・なんかイイな。

ミスや失敗を責めるどころか、

笑い話に変えてしまう。

生き方と言うか考え方と言うか。

余裕があるって言うのかな・・・。


「どうした間の抜けた顔して・・・。」


「間は抜けてない。

 考え事してただけだ・・・。」


「さては幼女によくj「ちっがーう!」」


ふぅ。

笑い話にするにも限度があるぜ。


「なんでみんな、

 オレのことを責めないのかなってさ。」


「アータルは、その若さで、

 ソッチ系の趣味なのか?」


「それは重症だな!

 俺がイイトコロ紹介してやる!」


「ちっがーう!

 でも、紹介してくれるイイトコロは、

 ちょっと気になるから後で詳しく教えて。」


「正直だな。お前くらいの年なら、

 そのくらいがいいぞ。」


「あ、ありがとうございます?」


「そう肩肘(かたひじ)()るなって。

 俺らは別に、

 "あの幼女をぶっ殺したい"って

 ワケじゃないんだ。

 単にココを通りたいだけ。

 んで、通れない。

 そしたら別の道を進むだけだ。」


それを聞いたオレは、

相当変な顔をしていたらしい。

別のオッチャンがフォローしてくれる。


「別にウルワンに辿り着く道が

 ココだけってわけじゃねぇんだ。

 ダメなら他の道ってのは、

 単純明快だろ?」


「そうかもだけど・・・。」


「なんだ煮えきらねぇなぁ。

 ここでアータル、おめぇが

 あの()()()()()している幼女を

 ぶっ倒すの待ってたんじゃ

 俺たちが旅を続けられねぇじゃねぇか。」


「まぁそうなんだけど。」


「なら、お前を責めてる暇があったら、

 楽しく食って、飲んで、ゆっくり寝て、

 新しい道に進んだ方がいいじゃねぇか。」


「そんな単純?」


「お前が、何をそんなに悩んでるのか

 分からんが、

 世の中には変えられないモンってのが

 あるのよ。分かるか?」


立派なヒゲを生やしたオッサンが続ける。


「過去と他人だよ。

 逆に、今と自分は変えられる。」


・・・。


「アータル、コイツの言うこと

 あんま難しく考えるなよ。

 そんな小難しい話じゃねぇんだ。

 コイツが村を出る時、

 ずっと気になってた娘に告白して

 フラれたってだけの話だ。」


「お前・・・!」


ヒゲのオッサンがコブシを振り上げそうに

なるのを、手で制すオッサン。


「告白が成功するかは、

 日々の努力の成果だ。

 声を掛けてみたり、贈り物をしたり

 覚えてもらう努力した結果だ。

 いきなりポッと出のイケメンでもない、

 こいつみたいなヤツが、

 どんなに良い言葉を並べても、

 そりゃ『あなたのことよく知らないんで』

 ってなるわな。」


「熱意に負けて受け入れることも

 あるかもしれないじゃん!」


と反論してみるオレ。

だって可能性はゼロじゃないじゃん。

物語の主人公だったら、フラグじゃんそれ。


「あぁ。あるかもしれないが、

 そんなの物語の中だけだ。

 それが分かっているから、

 お前も毎日朝晩剣を振ってるんだろ?」


「・・・。」


確かにそれは不安だからだ。

もしもの時に身体がちゃんと動くように。


「あの魔物・・・魔物で良いんだよな?」


と言って白い幼女を見るオッサン。


「アータル、お前が今アイツを倒せないのは、

 別に悪いことじゃない。普通だ。

 今まで遭ったことがないんだからな。

 アイツを倒すために何かやってきたか?

 やってきてないだろ?

 その中で自分の経験や

 今まで積み重ねてきた何かを使って

 挑んだんだ。

 それでも無理ってなら、今は無理だ。」


無理って言われるのキツいな。

オレ全部を否定されているように

聞こえる・・・。


「なぁに。どこかでチャンスは巡ってくる。

 ソイツがその後、

 別の街で好きになった娘に

 いきなり告白じゃなくて

 いくつかステップを踏んだようにな。

 ホントの意味で、

 逃げなきゃチャンスはあるさ。」


もう一度白い幼女を見る。

近づかなければ、攻撃しなければ

害はなさそう。


倒せるだろう。倒してやろうって言うのは、

確かに(おご)りだったかもしれない。

今回は別に倒す必要もなかったから

良かったけど、必要があったら?

必要ってなんだろう。必要・・・。


「また間抜け面になっているぞ。アータル。

 まぁ。今回は別にぶっ倒す必要はない

 ってんだからいいじゃねぇか。

 俺らにゃ害はなさそうだし。」


「俺らはウルワンに無事に着けりゃ

 それでいいからな。」


「まぁ仮にアータルだけ襲われてたら、

 サッサと置いて逃げただろうなぁ。」


「違いねぇ。」


そう言ってオッサンたちは笑う。


「結局何が言いたかったんだよ。」


オレが口をとがらせると、


「んな過去の事なんか忘れちまったよ。」


と言って皮袋を飲み干す。

知ってるぞ。その中には門前町で手に入れた

上等のワインが入っているんだ。

用語説明:

・槍玉

槍を手玉のように軽々と操ること。

槍の穂で突き刺すこと

攻撃の対象となること。


・ソッチ系の趣味

マゾヒストの傾向があると言うこと。


アータル「え!?」


・ウルワン

アータルが現在拠点にしている街

今から向かうところ。


・人は新しいワインを古い皮袋にいれたりしない。

ワインも皮袋もダメになってしまうから。


・戯画

落書き


────

更新頻度が落ち着かず、なかなかスカッとした話になりませんが、気になりましたらブックマーク、ここが良いよ/悪いよって言うのがありましたら、コメント、感想を頂ければ幸いです。

レビューもお待ちしております。


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