02-幕間.初心に返った人
本日の2話目です。
私の名はメリクリウス=ザンジバル。
代々高名なスキル鑑定士を排出しているザンジバル家の長女だ。
今は地方都市の一つ、そこそこの中核都市の宿屋で、これまでの行程や道々で行ったスキル鑑定の考察をまとめている。
一緒に付いてくると言って聞かなかったお祖父様をあの手この手で雁字搦めにし、王都に置いてきたのが、約一ヶ月前。まさしくこの旅で一番の難関だった。父上や母上だけでなく、一族が一丸となって協力してくれた。
切っ掛けから僅か一ヶ月ほどで出発できたのは本当にザンジバル一族皆のおかげだ。皆はどんな魔法を使ったのだろう。
最後の一押しはお祖母様だったと言うが、
あの、いつもニコニコしている温厚なお祖母様がどう押したかがとても気になる。
修行が終わって王都に戻ったら、本人に直接伺ってみようと思う。
鑑定修行は順調だ。中核都市を中心に回っているが、ほぼ問題なくスキルを鑑定出来ている。珍しいスキルはなく一般的な物ばかりだったが、それでも今までずっとやって来た過去の鑑定書を読み込むより、何倍も頭に入ってきた。
鑑定に協力してくれた方々にお礼を言うと、鑑定してもらった上に鑑定士様にお礼を言われるとはと、驚かれた。普通の鑑定士たちはどうしているのだろうか。真名を得ることは出来なかったことを告げても、逆に恐縮され、盛大にお礼を言われるのが少しくすぐったかった。
これが鑑定士に対する、当たり前の反応なのだろうか。
鑑定士は我がザンジバル一族に関係することが多いので、鑑定士=貴族と言う偏見がそうさせているのだろうか。
私には裏表のない純朴な笑顔に見えた。
「どんなに鑑定を極めても、人の心までは鑑定できない」とは、幾代か前の、鑑定スキルの真名に至った当主の言葉だ。
確かに人の心の中は分からないな。
老若男女、鑑定して欲しいと言う方々を拒まず、鑑定した。
冒険者ギルドが斡旋してくれたところもあった。かなりの数を診たが、それでも、「スキルを持たない」と告げるのは難しかった。
自分の技量が足りないため、見えないだけなのかもしれないと、毎回不安に襲われる。まだ今の時点では持たないだけだと思うようになってから、少し救われた気がする。希望は持ち続けなければならない。
逆に何もないと告げることで、何かを吹っ切った方も居た。
冒険者で、何年もランクが上がらず同じランクに留まっていた方が鑑定を受けた時だ。
私は最初の言葉が出せずに居ると、その方はこう言った。
「覚悟は出来ている。」よほど私は残念な顔をしていたに違いない。
「オレにはスキルがないんだろう?最低限のレベルでさえも。ハッキリと告げてくれ。」と。
私は現時点では何もスキルを持っていないこと、これから何かの経験で得る可能性もあることを告げた。その方は吹っ切れた顔をして言った。
「もうこれ以上、可能性にすがることはしない。オレは可能性に殺されたくない。」と。
可能性に殺される・・・考えたこともなかった。
永遠に続く叶わぬ希望は、絶望と同じ味がするのだと思わされた。
スキル鑑定を極めても必ずしも人を救うことにはならない。
人の人生を良いものにすることもあるし、歪めることにもなる。
真名を求める上で自分なりに折り合いをつけねばならない事実は、酷く心を疲れさせた。
旅とは生活そのものである。
お腹は減るし、喉も渇く。眠くもなる。
街から街への間で野営をしたり、襲ってくる魔物を蹴散らしたり、など、新たな経験は深い闇に沈みそうになる気持ちを上向かせた。一緒に旅する叔父や一族の皆の雰囲気がそうさせているのかもしれない。
また、これらの経験はスキル鑑定に役に立つのはすぐ分かった。
何しろ実際にスキルを使うのを間近で見られるのだ。
そしてそれは書庫に籠って鑑定履歴の目次を整理するよりずっとずっと楽しい。
父上や母上も若い頃はこのような経験を積んだと言っていた。
私のやって来たことは無駄だったとは全く思わない。
あの時間があり、今の経験があるからこそ、より高みに上れると感じられる。
むしろ前提知識が全くなく、鑑定をやってみろと言われたら、途方にくれただろう。
それほど現実世界は多様で、一族の書庫にあるスキルの分類方法だけではなく、
もっと他にもあるのではないかと思い始めた。野営スキルひとつ取ってもそうだ。
火おこしが得意な人、野外での調理が上手い人、ちょっとした食べられる野草を見付けるのが上手い人、安全な寝床をきちんと確保してくれる人・・・それらを複合的に持っている人がスキルレベルが高いと見なされる。総合的なスキルと特化したスキルがあるのだろう。
用語説明:
・メリクリウス=ザンジバル
鑑定修行で地方都市をまわっている。
インドアと言うよりはアウトドア派
・お祖母様
お祖父様を制御できる能力を持っている。
鑑定スキルのレベルは不明




