01-09.抜き打ち
今日ももう一話投稿します。
朝、ムキモジャのシゴキを受け、
昼からギルドに行って
簡単なクエストをこなす日々が続く。
社畜か。社畜なのか。
疲れすぎてあまり考えたくない。
が、生きてくためには
クエストをこなさねば。
初心者講習(の実践編)は
役に立ったなー。
心なしか、少し納品物の買取価格が
上がった。
昼に行くと大抵残ってるのは
報奨金が安いクエストだ。
選り好み出来る程の種類も数もない。
薬草採取、良くて小型の魔物の討伐。
たーまに報酬が高いクエストが残ってるが、
大体それは地雷だ。
労力に見会わない報酬だから残ってるんだ。
知らずに何度か受けて学んだ。
ようやく身体が馴れてきたのか
効率よくクエストを
こなせるようになってきたと思う。
何日か経ったある日、
冒険者ギルドの試験があるのを知る。
「え"。やっぱり試験あるの?」
この世界に来てまで
試験を受けさせられるとは。。。
「あれ?
言ってなかったっけ?」
カウンター越しに
冒険者ギルド一けしからん受付嬢
の名を欲しいままにする、
オネーサンが悪びれた素振りもなく言う。
「いつ?」
「今日。」
おい!もうちょっと早く言え。
ちゃんと仕事しろ!
とは言わず、
だら~っとカウンターにもたれかかった
受付嬢の言葉を素直に聞く。
だってけしからんのだもの。
ヘソを曲げられて奥に引っ込まれたら、
けしからなくなってしまうじゃないか。
自分でも、もはや何言ってるんだか分からんが、
けしからなくなる状況だけは避けたい。
どうやら、筆記試験は午後かららしい。
ひと安心だ。
この世界の人は大体、字が書けないから、
朝から別の試験方法で受けるらしかった。
こっちの字を学ぶことは無駄じゃなかった!!
そして衝撃だったのは、
一定期間内に試験を受けないと、
今持ってるカードは消えるらしいってことだ。
そうなの!?これは聞いてないよね?
期間残ってて良かったよ。
あと定期的に依頼を受けないと
やっぱり消えるらしい。
危なかった。色々危なかった。
コツコツ簡単なクエスト受けといて良かった。
道理であんな簡単に発行されるわけだよ。
今の仮カードは
「お手伝いカード」とか
「お試しカード」とか
呼ばれてるのも、そこで初めて知った。
言うなればお試し期間だ。
素養がなければ
ギルドカード発行のための試験すら
受けられない。
理にかなったシステムに思える。
それにしても・・・
"オレってもう中級冒険者じゃねぇ?"
あのとき浮かれていた自分を殴りたい。
お手伝いカードを貰って
冒険者気取りとか、子供か!
身体は子供だけども。
「そしてこの説明は、
最初にカードを発行した際に
ギルド員がするらしいよ。」
なんでオマエまで急に伝聞系なんだよ。
とは口にせず、黙っておく。
何故なら今度は、急に背筋を正した
ぐうたら受付嬢の後ろに、
腕を組んでこちらを見下ろす、
メガネの女性が居たからだ。
メガネなんてあるんだなー。
いいなぁ!
やっぱりメガネはいい!
メガネ美人。
出来る美人女性上司。
癖なのか身体の前で
腕を組んでいるので、
特定の部位が強調される。
中々の逸品をお持ちだ。
けしからんおねーさんは、
振り向きもせずに
気配を察したんだろうな。
オレがメガネ上司を
ニヤニヤしながら見ていると、
きつい口調で言われる。
「アナタもアナタです。
今まで何の疑問も
持たなかったんですか?」
はい。ゲームのチュートリアルとか
読み飛ばす方です。
習うより慣れよ派です。
たぶん説明もらってても
聞き流してました。
「実は私は説明してました(キリッ」
オレの雰囲気を感じ取って判断したのか、
けしからんおねーさんは、
悪びれずに攻勢に出た。
ピキッと周囲の温度が
下がった様に感じられ、
オレは身震いした。
「では、アータルさん。
試験は今からでも間に合います。
他の者に受験の手続きを
させておきますから、受けてください。
私はこれから”部下”の再教育を
してきますので。」
ふしゅるるぅーと言う擬態語がぴったりな
メガネ美人上司は、
けしからんおねーさんの額を掴み
カウンターの奥の部屋へと
消えて行った。
「砕ける!砕けちゃうぅ!」
と言う声を聞かなかったことにして、
オレは試験会場に向かった。
試験会場はともすれば気付かず
素通りしそうな場所にあった。
なんたって、ギルドホールの一角。
さっき、けしからんオネーさんたちと
話してた場所からホンの数十歩のところ。
え。ここって、
いつも誰か座って、
カードとか酒盛りとかしている席を
片付けただけですよね?
試験会場の一番奥
(とは言っても席は4席しかない)に
オレと同じくらいの
ローブを着た、ちっこいのが座っていた。
頭からフードを被ってて、
年齢も性別も分からない。
とりあえず、オレも手近な椅子に腰掛ける。
ギルドホールはいつも通り賑やかだ。
ザワザワ ガヤガヤ
うるっせー!
なんなんだ。この苦行は。
見方によっては、
家族経営の飲食店で、
お客がいない間、
空きテーブルに座った子供が
親に宿題をみてもらっているようにも
見えるかも知れないが、
全然そんなホンワカした感じじゃない!
雑!ひどく雑な感じ!!
確かにこの扱いじゃあ、
お手伝いカードって言われているのも
分かる気がする。
専属のギルド員なんて一人しかおらず、
他のギルド員は聞かれたら答える感じで、
業務の片手間にやってる感じだ。
生前(?)に受けてた試験の方が
もっと厳密だった気がする。
たまにカウンターや遠くに座っている
他の冒険者(きっとプロの冒険者)から、
チラチラと視線を感じる。
こりゃカンニングとか出来ないだろうな。
するつもりも無いけど。
それにしても全く落ち着かない!
「試験会場ってここか!」
声がした方を向くと、
恰幅のいいおっさんが立っていた。
ちょっとくたびれた服を着て
カバンを斜め掛けしている。
それはいいけど、
何かオレの思ってた冒険者のイメージと
ちょっと違うなー。
おっさんはギルド員に促されて席に座る。
お喋りが好きそうな見た目だが、
ギルド員に話し掛けることもなく、
祈るように手を組み、
小声で何かブツブツ言っている。
そういや、元の世界でも
テスト前に急に口数が少なくなるヤツ
いたなー。
オレは「勉強してねーよ」って言って、
実際本当に勉強してないタイプ。
それに今回はテストがあるのを今知ったから、
もう開き直るしかない。
直前に参考書なんて開かないぜ!
そもそもそんなの持ってもないけど。
そろそろ始めるかと言うところで
20代くらいの貴公子が一人入ってきた。
スラッとした佇まい。
キラキラした感じ。
あれはきっと貴公子デスゼ。貴公子。
何かそんなオーラを発している。
んー。立ち居振舞いがそれっぽい。
貴族と言うより貴公子だな。あれは。
状況を確認し、
フンッとか鼻を鳴らすかと思ったけど、
それもない。
礼儀が出来ているヤツだ。
最後残っていた席に大人しく席に付く。
この前の実践講習の時にいた、
"オレ出来るぜ!出来るヤツだぜ!"自慢のヤツ
とは雲泥の差だ。
当たり前だが、この世界も
色んなヤツがいるんだよなぁ。
いざ試験用紙が配られる。
紙だ。羊皮紙ではない。
しかも中々上質な紙だ。珍しい!
右上に名前を書くらしい。
選択式、記述式、○×方式まんべんなく出ている。
内容は・・・良かった。
どれも今まで受けたクエストに
関連するものが多い。
そりゃそうか。
最低限これくらいの基礎が出来てなきゃ、
上位のクエストなんて達成出来ないよな。
採取の方法、保存の仕方、魔物の弱点・・・
頭で覚えたって言うより
身体で覚えたものが多いな。
一日掛かりで取ってきた薬草が
実はよくある毒草だったときは
なんかスゲー疲れた。
どちらかと言うと、これは
文字の読み書きができるかどうかを問う
問題な気がしてきた。
そう考えると、
何か出題者の考えが分かる気がしてきた。
敢えて難しい言い方で書いてあったり、
ことわざを引き合いに出したり。
この問題は、毎回使われるのかなー?
流石にそれじゃ対策も出来ちゃうだろうし。
何種類かあるものの一つかな?
それなら何回か受ければ
同じ問題が出るかもしれない。
ま。いいか。
急に知ったことだし、様子見って感じで。
もちろん、一回で通る方が
楽に決まっているから、
取りに行くけど。
何かそう思うと、
気持ちが軽くなった気がするぞ。
行ける!行ける!!
とりあえず、オレは
解答用紙をすべて埋めて提出した。
結果発表は後日とのこと。
出た内容についてメモったあと、
早目に休んだ。
用語説明:
・けしからん冒険者ギルド受付嬢
アータルに試験があるのを説明してなかった。
他にも説明してないことがありそう。
・美人メガネ冒険者ギルド受付嬢
マニのだらけきった態度を戒める。
真面目で、きっと仕事ができるが、
マニに匹敵するくらいけしからん(アータル談)
・冒険者ギルド試験会場
冒険ギルドの片隅。
たまに開催されると、
ベテラン冒険者たちから不満があがる。
・試験の解答用紙
比較的良質的な紙。
持ち逃げしないかどうかも判定基準。
・恰幅のいい商人風の男
口が上手そう。
ちゃんと空気が読める。(アータル談)
・貴公子然として男
高貴な印象。
ちゃんと空気が読める。(アータル談)
・フードのヤツ
空気(アータル談)




