02-05.集団行動
四日に一個は少なくても出したい!
気持ちだけ気持ちだけです。
「では、馬車の方を確認してきますので。」
オレは用が済んだとばかり、
部屋から出ようと後ろを向く。
ヤマさんと目が合う。
にこやかな顔だが、
絶対裏があるんだろなぁと
思ってしまう。
そして誰にも呼び止められないまま、
嫌に静かな部屋を出る。
できればもう会いたくないなぁ。
宿屋に戻ると、
集合場所ではハルが待っていた。
「何かあったのか?」
ハルはオレを見るなり、聞いてくる。
「護衛対象に会ってきた。」
「手が早いな。
さすがアータルだ。」
なんか違う意味にも取れる。
"手が早い"じゃなくて、
"手回しがいい"とか、
そう言うのじゃない?
ハルをじっと見る。
いつものミイラ色のマントを深く被り、
端から見るとスゴく怪しい人に見える。
準備は万端そうだ。
「これはこれは。
おはようございます。」
後ろから急に声を掛けられ、
ドキッとしてしまう。
恋ではない。オッサンの声だし。
振り向くと、ヤマさんだ。
オレが部屋を出た後、
追ってきたんだろうか。
全然気付かなかった。
「一つだけお伝えするのを
忘れてましてな。」
と、こちらに視線を向ける。
笑顔なんだけど、目が笑ってない。
「先ほどお会い頂いた方々と
同じ馬車には乗るのは、
アナタご自身のためにならないかと。」
「元々一緒に乗るつもりは
ありませんでしたが?」
「わかってらっしゃるなら、
私から申すところは
ございません。」
と、張り付いた笑顔を向けてくる。
ずいぶん主張してくるなぁ。
判断に困る。
お笑い芸人的には、
「押すな押すな」は「早く押せ」
だからなぁ。
こんだけ念を押してくると、
押さなきゃいけない気になってくる。
「忠告痛みいるが、
その判断をするのは我が主だ。
余計な手出しは止めて欲しい。」
「それは失礼しました。
では私はこれで。
私も自分の役目がありますので。」
ヤマさんは待っていた部下に
目配せをして出ていく。
ホントに面倒だな。。。
────
Gyuryooo
「誰だよ!
中継街までは安全だから
魔物なんか絶対出ない!
なんて言ったヤツ!」
(答:誰も言ってない。)
オレは目の前の魔物の脳天に
ハンマーを振り下ろす。
Guhaa!
犬みたいな外見の魔物が
どぅっと倒れると、
すぐに別の1頭が棍棒を手に
近づいてくる。
フサフサな硬い毛で、
斬ってもほとんどダメージを
与えられない。
仕方ないのでナタから
ハンマーに持ち換えて応戦してる。
見た目は犬みたいだけど、
二足歩行で重そうな棍棒を
右手に持っていて、
知能はありそう。
「右利きなんだなぁ。」
Gyaaaah!!
雄叫びを上げる毛むくじゃら。
「そうですけど何か?」
って感じではない。
言葉は通じないみたいだ。
スゥーッ
毛むくじゃらが息を吸い、
右の肩に力が入るのが分かる。
オレは棍棒の間合いから、
少しだけ離れる。
ブォン
棍棒が振られ、空気の音がする。
で、一歩踏み込みハンマーを
ソイツの鼻先に叩きつける!
寸でのところで躱され、
ハンマーが地面にめり込む。
余裕こいている場合じゃなかった。
今度は振りきられた棍棒を
左手に持ち換えて振り抜いてくる。
フッサフサの胸を蹴り距離を取る。
良かった。足が埋まることもなく、
硬い筋肉の感触があった。
ハンマーはまだ地面に埋まりっぱなし。
仕方がないので、さっきしまった
ナタを取り出す。
機会を待ってる余裕なんてない。
棍棒の間合いに踏み込み、
鼻先を狙う。
毛皮に覆われてないココくらいしか、
ナタで狙えるところはない。
外したら身体が一回転するくらいの勢いで、
右斜め上から左下へ振り下ろす。
ザシュッ
浅いがキズがついた。
Gyaaaah!!!
聞くだけで呪われそうな雄叫びを上げる。
距離取るべきだなっと、
今ついた右足に力を込める。
バックステッp・・・
Gyaaaah!!
左からの吠え声。
ビクッてなりそうなのをこらえて
バックステップ!と見せ掛けての、
右に転がる。
何とか避ける。
周りを見回すと、あと4、5頭くらい。
反対側の様子は分からないけど、
ハルのことだから、
うまくやってくれてるだろう。
今は自分のことで精一杯で
祈るしかできない。
────
コイツらは、何が狙いなんだろう。
どうやって現れたのかも分からない。
今日は一番前の荷馬車に乗った。
その前は、手代たちを乗せた馬車だ。
ヤマさんにも言われたのもあるが、
手代たちと同じ馬車に乗る気はなかった。
一日目と同じように、
荷馬車の後ろの隙間にハルと隣り合わせで座り、
昨日と同じのどかな馬車旅を満喫してた。
昼を少し過ぎたところ、
森に差し掛かった。
少し背の高い木々が
道から少し離れたところに並んでいる。
少しずつ森が道を侵食しているが、
かろうじて空は見えるくらいの
そんな道だ。
暫くは順調に進んでいたが、
急に馬車が止まる。
「魔物だ!!」
御者が叫ぶ。
直ぐ様オレたちは荷馬車を飛び降り、
オッサンが指差す方向に走る!
道をふさぐ毛むくじゃら。
10匹はいる。
デカイから10頭って数えるべき?
その向こうに遠ざかる先頭の馬車2台。
・・・逃げやがった!
犠牲を増やさないようにするための
正しい判断なんだろうが、
見捨てられたような気持ちになる。
1人くらい残ってもって思ったが、
誰も冒険者は残ってない。
ダッカッダッカッ
オレたちの横を駆けていく騎馬/騎獣。
協力もしてくれない。
毛むくじゃらの魔物は、
ソイツらには目もくれず、
荷馬車から降りてきたオレたちを
見すえている。
オレは覚悟を決めてナタを取り出す。
身長はオレよりちょっと高いくらい。
ずんぐりむっくりって言うのか、
低重心っていうか。
筋肉質の毛むくじゃらだ。
近くにいる一頭に走り寄り、
ナタを振り下ろすが、ハジかれる。
ヤバイ。硬いぞ。
「ハル!右を頼む!!」
そして冒頭に戻る。
何が言いたいのかって言うと、
護衛はたくさんいるはずなのに、
今戦っているのは、
オレたち2人だけってこと。
カルシュワカの私兵は、
何してるんだよ。
ガンッガンガンッ
後ろの方でも金属同士を
叩きつける音が聞こえるのは、
気のせいだろうか。
別の何かと、もう戦ってるのかも。
ここに援軍が来てくれるなんて、
淡い希望を抱くのは止めよう。
一頭は殺ったけど、まだワラワラいる。
同時に襲い掛かって来ないのが、
せめての救いだ。
Woooh!!
と一頭が吠えたかと思ったら、
3頭が同時に襲い掛かってくる。
ナタを振り回す!
ガキンッ!
一番左の一頭のに当たった!
が、カッタイ感触。
毛皮と筋肉に弾かれたみたい。
叩いたこっちの方が腕が痛い。
勢いを殺されて、
このまま袋叩きにならないように
弾かれた勢いで左側に転がる。
ドンッドンドンッ
棍棒が地面にめり込む。
あんなの食らったら、
ペチャンコだ。
顔を上げると、
吠えた魔物の前まで、
道があるみたいにガラ空きだ。
左手首が痛いが、ダッシュで近づき、
左上から右下にナタを振り下ろす。
Gyaaaah!!
毛むくじゃらが鼻を押さえて叫ぶ!
フゥーッ
息を吐き出し、方向転換して
ハンマーの場所に走り込む。
集団行動できるなんて、
オレたちよりも魔物の方が
よっぽど協調性があるよなぁ。
ハンマーを地面から引き抜いて、
魔物に向き直る。
魔物たちはゆっくりと
こっちに向き直る。
何とかして一頭ずつ戦いたい。
範囲攻撃とか欲しいなぁ。
とか考える前に、
一番近くにいる毛むくじゃらに
飛び掛かり、ハンマーを振り下ろす!
どっちが襲撃者か分からないよな。
これじゃ。
ガンッ!
毛むくじゃらが棍棒で受け止めたせいで、
勢いが殺されてしまう。
くっそぅ。囲まれたら終わりだぞ。
地面に足がついたら、直ぐに移動する。
こんな動きがいつまでも続くわけない。
少し距離を取って息を整える。
ヤバイなぁ。
用語説明:
・手が早い
テキパキと物事をこなす
知り合った女性とすぐ関係を持つ
・毛むくじゃら
コボルト?リカント?
・手代
アータルの護衛対象
・先頭の馬車
重要人物たちが乗っている。




