01-幕間.巻き込まれる人
今日は二話投稿です。
私の名はメリクリウス=ザンジバル。
代々高名なスキル鑑定士を排出しているザンジバル家の長女だ。
当主である父は宮廷スキル鑑定士長、母はその宮廷スキル鑑定士の筆頭だ。
ザンジバル家のスキル鑑定は違うことなしと言われ、騎士団長や宰相など、国の要職に就く者のスキル鑑定は、代々ザンジバル家の当主が直々に行うことになっている。
まさにスキル鑑定をさせたら右に出るものがいない一族なのだ。
私もギフト(生まれながらに持って来るスキル)で鑑定スキルを持ち、スキルの"真名"を得るため、幼いころから研鑽を重ねてきた。
真名とはスキル本来の名前で、スキルを与えた神自らが名付けたものだそうだ。
使用者が自分のスキルの真の名を知ることが出来ると、より効率的に、そしてより強力にそのスキルを使うことが出来るそうだ。
鑑定スキルの場合、真名を得た者は、対象者のスキルの真名をも見通し、鑑定された者をより高みに導くことが出来ると言われている。
今の代で真名を得ているのは、先代当主のお祖父様だけだ。
私も日々鍛練を続けてはいるが、真名を得るところまでには至っていない。それでもスキル系統や適性、レベルをおぼろげながら鑑定出来るところまでは到達した。
実際に私自身のスキルを鑑定すると、
スキル鑑定B
と言うのが分かる。
お祖父様は
スキル鑑定EX
お父様は
スキル鑑定A+
お母様は
スキル鑑定A
だ。これより細かく分からない。
私の鑑定能力でこの区分を説明すると、
EX:真名判別
A+:神の御名が分かる。
A:おぼろげながら神の気配を感じる
A-:どの系統の神か分かる。
B+:細かくスキルレベルが分かる。
B :スキルの大まかなレベルが分かる。
B-:スキルのレベルが何となく分かる
C+:スキルのレア度、属性が分かる。
C:スキル持ちかどうかが分かる
C-:おぼろげながらスキル持ちかどうかが分かる
と言ったところだろうか。
私自身の感覚なので人によってはちょっと違うかも知れない。
ただハッキリとわかることは、真名を得るまでには、まだかなりの研鑽が必要だということだ。
ザンジバル家はスキル鑑定のエキスパートとして、膨大な量のスキルに関する分析書を蓄積してる。無論一族の者以外、その資料は見ることが出来ない。
生まれ持ったスキル特性、長年培ったスキル分析の知識が合わさって、ザンジバル家の優位性が保たれているのだ。
しかし、長年の蓄積のおいても、真名の分析は進んでいない。
そもそも真名に至った者が少ないし、スキル鑑定をする機会そのものが少ないのだ。
真名を知られることは恥と考えられているだけではない。
特殊なスキルを持つものに、奪われる可能性もあるのだ。
故に家族にも知らせず、墓場まで持っていく。
そんなストイックな世界だ。
数少ない鑑定例で分かっていることもある。
真名は一人一人違うと言うことだ。
同じ血を引いていても、同じ系統には片寄るが、真名は被らないらしい。
例がかなり少ないので全てに当てはまるかどうかは分からないが。
その例も何十代と続くザンジバル家で数少ない真名に至った者の記録だ。
スキル鑑定をひたすら磨いてきたザンジバル家でも真名に至るものはほんの一握りなのだ。
故に記録と蓄積、この一点でザンジバル家は成り立っていると言っても過言ではない。
・・・で、長々心の中でスキルについての整理をしているのには訳がある。
「じゃから、ギルドの新人の鑑定をウチのプリチーなメリーちゃんにもやらせろと言っておるんじゃ。」
ギルドマスターの部屋で青筋を立て唾を飛ばして叫んでいるのは私のお祖父様。
今代で真名に至った唯一のスキル鑑定士なのだが・・・。
「聞けんとは何事じゃ。
このワシがこうして頼んでいるんじゃぞ!
何が不満なんじゃ!」
ギルドマスターも当惑しているのが見てとれる。
急に侯爵家の人間が訪ねてきてずっとこんな感じで怒鳴り散らしているんだもの。
そうなるわ・・・。この部屋防音なのかしら。
こんな声を聞かされている人ができるだけ少ない方が嬉しいわ。
それより何で私はこんな状況になっているのかしら。
今日はいつも通りに起き、朝食を食べ、ここのところずっと行っている過去の分析書の索引書を整理していたはずなのに・・・。
急に書庫に入ってきたお祖父様に
「スキル鑑定は数じゃ!
数をこなせば真名に至るのは容易い!
早速行くぞ。」
と引っ張り出され、ここに至ると言うわけだ。
幸い蔵書整理で着ている外出着だったから良かったものの、室内着だったらどうしたのだろうか。問答無用で連れ出されただろうなぁ。
真名に至るものは皆こう言う思考なのだろうか。
誤解しないで欲しいが、私は決してお祖父様を嫌っているわけではない。
一歩引いた視点で物事を見がちなザンジバル一族にあって、孫に甘く少々強引で自分勝手で思い込みが激しい稀有な存在を少し可愛く思っているのだ。当のお祖父様には聞かせられないが。
「ザンジバル家はギルドにかなり貢献してるはずじゃな?」
現実逃避していたが、急にトーンの変わったお祖父様の声で我に帰る。
言葉を向けられたギルドマスターは相変わらず渋い顔だ。
ギルドとしてはギルドに依頼を持ってくるような、お金を持ってる貴族はいいお客様なんだろう。
しかも王都でも指折りの貴族、それも退いたとはいえ、ザンジバル侯爵家にこの人ありと讃えられた英傑に言われたら、頷かないわけにも行かない。
だが、彼らにも都合がある。
素直には頷けないだろう。
困惑した顔をしているのも演技かもしれない。
何せ王都にあるギルドのギルドマスターなのだ。
こんな感じで怒鳴り込んで来る貴族たちには慣れているだろう。
「なぁに王都中の冒険者どもを鑑定させろなんて言っとるわけじゃない。
半分くらい面倒を見てやろうと言う訳じゃ。」
一方、ギルドマスターは怒鳴り込んで来た老人の対応にそこそこ困っていた。
無論、自分の権力を使えば、この老人の言っていることを実現するのは容易い。
だが、ここは王都なのだ。
王都に憧れを持って地方から出てくる者は多い。
だが彼らは手に職を持ってる訳もなく、悪事に手を染める。
王都の冒険者ギルドはそんな者達の受け皿として働き、雇用を産み出してる訳だ。
地方から当てもなく上京してきて、なんのツテもない者たち。
やることがなくしかたなく冒険者になる彼らは、スキルを持っている方が珍しい。
果たしてスキルがないやつらを鑑定して経験が付くものなのだろうか。
得るものがなかったとしたときに、このご老体がまた怒鳴り込んで来ることは充分予想出来る。
それに今は収穫も終わり、冒険者になろうというやつらがわんさか押し寄せてくる。
その対応に忙しいのだ。
かといって、ここで断るとまた色々と面倒が増えるだろう。
この老人はスキル持ち達が溢れかえっていた昔の王都を思って話しているのがまた厄介だ。
少し目的をずらしてみるか・・・。
「新人のスキル鑑定を手伝って頂けるのは誠に助かります。
ギルドでは優秀なスキル鑑定士を常時欲してますので。」
「そうじゃろう。メリーちゃんは有能じゃぞ。
きっと歴史に名を残す鑑定士になるじゃろう。」
「お祖父様、メリーちゃんはおやめください。」
「なるほど。ところでメリクリウス殿は王都を離れたことがございますか?」
「ほとんどありませんね。」
「地方でスキル鑑定をやってみる気はありませんかな?」
「なっ!ワシのメリーちゃんを王都から出すと言うのか?」
真っ赤な顔で立ち上がろうとするご老体に手のひらを向け押さえる。
「見聞を広げるのもスキル鑑定能力を上げるのに役に立つかと愚考したまでです。
ギルドとしても、どうしても地方の方が手薄になってしまいます。
見聞を広めるためにはうってつけではないですか?」
ギルドマスターは私を見ている。
私はその意図を理解した。
軛を外すには好都合かもしれない。
妹弟たちに迷惑をかけてしまうかもしれないが。
「その話お受けします。」
私は辺境伯領の地方ギルドを回ってスキル鑑定をする一団に加わることになった。
用語説明:
・メリクリウス=ザンジバル
代々高名なスキル鑑定士を排出しているザンジバル侯爵家の長女
先天的なセンスとそれを磨く力を持ち合わせている。
・ザンジバル侯爵家先代当主
スキルの真名に至った偉大なるスキル鑑定士
息子に当主を譲り最近はやることがなく暇なので初孫のメリクリウスを可愛がってる。
・王都冒険者ギルドのギルドマスター
ギルドマスターをするくらいに狡猾で頭の切れる男




