01-94.出掛ける前
遅くなりました。
次は何とか早く・・・・
遠征かー。
しかも長くて5日。
帰りの馬車代は出るが、
食糧は、自前となっているそうだ。
冒険者だけ。
なぜだろう?
これはヘルミオネさんに
あとで聞こう。
今、冒険者ギルドのホールで
わら半紙を前にウンウン
唸っているところだ。
準備するものをまとめてないと、
直ぐに何か抜けちゃう。
白梟にいた時に、
リーダーのギンに習ったことだ。
どうやらオレは思い立ったら、
すぐそれをやっちゃう。
で、取り返しがつかない様なことを
忘れてしまって、
あとで死ぬほど苦労してきた。
ギンはリーダーで、斥候だったので、
パーティーの面倒を一手に見ていたから、
その辺ちゃんとしていた。
もちろん、オレはギンから教えられた
この大切なことを片時も忘れることは
なかった。
・・・なかった。
ウソだ。
意外だろ?
・・・色々忙しかったから、
全然できてなかったんだ。
何に忙しかったかも、
全然覚えていないけど。
まぁ。今、こうして
(腕を一度切り落とされたけど)
五体満足だし、
(奴隷に近い立場だけど)
生きているし、
結果オーライだ。
・・・と、
自分への言い訳はこの辺りにして
基本に立ち返ろう。
今回は準備する時間もあるし、
動ける身体もある。
ちゃんと準備して挑もう。
さて、もう一度。
遠征に出掛けるに当たって、
大事なものは何だろう。
ギンは食事って言っていた。
あのパーティーは、
燃費の悪い人が多かったけど、
食事の内容に拘るからなぁ。
携帯食糧じゃ納得しないから、
ギンの道具箱は、
いつも野菜とか肉とか、鍋とか食器とか
食事に関するものが一杯に入っている
って言ってた。
やっぱり道具箱は便利だなぁ。
一番欲しいスキルなんだけど、
全然手に入らない。
道具箱を持つ人は、
意外と多いらしいんだけど、
みんな奥の手として隠しているらしい。
まぁ。そりゃそうだよね。
この世界だとロクなことにならない
だろうし。
そう言う意味では、
自分の身を自分で守れないなら、
持っていない方がいいのかもしれない。
「はい。」
ゴトッ
オレの前に唐揚げと、
ジョッキが置かれる。
顔を挙げると、黒髪の・・・
ツバキさんがオレの正面に座る。
「え?」
頼んでもないし、約束もしていない。
そんなにツバキさんとも親しくないと
思っていたので、頭の上には
はてなマーク。
「そのままで聞きなさい。
カルシュワカ商会の護衛任務、
思っているほど簡単じゃないから。」
「え?どう言う・・・?」
ガタッ
ツバキさんは、それだけ言って、
席を立ってしまう。
「あの。これ・・・」
「餞別。今生の別れに
なるかもしれないから。」
「ちょ・・・」
こっちをチラリとも身もせず、
行ってしまった。
何なんだよ。
そんな先が不安になるような
伏線なんていらないよ。
いや。ポジティブに考えてみよう。
上手く行ったあかつきには、
私にも貸しがあるんだから、
ちゃんと返しなさいよ。
これは前祝いだから!
フンッ。
これはアンタのためじゃないんだからね!
ツンデレか。
ツンデレ属性なのか?
ツバキ、ツンデレ。
どっちもツから始まっているから、
きっとそう言うキャラなんだきっと。
────
冒険者にとって持っていく物の厳選は、
命が掛かってくる。
そんなにたくさんの荷物は
そもそも持っていけない。
特に荷物係などを雇う余裕がない
駆け出し冒険者たちには、
頭の痛い問題だ。
まぁ。道具箱を持っている冒険者には、
関係ない話なんだろうけど。
最低限の着替え、万が一の回復薬。
薬草よりは水薬の方が
携帯しやすい。
あとは食糧だなぁ。
それでも背負いのバッグが必要だ。
そしてそんなに高価なものは
持っていけない。
ま。一番高価なのは武器だけども。
剣の修理は間に合わないだろうなぁ。
代わりの武器を借りる?
無理だろうなぁ。
そんな良いサービスなんて、
この世界では聞いたことがない。
冒険者ギルドの公認武器屋の、
あのジイサンに言ったら、
もしかしたら、
貸してくれるかもしれない。
でも、何だかこっちばかりが
恩を受けている感じがして、
頼みにくい。
他の人に言ったら、
「そんなん気にすることないよー」
って言われそう。
(今、脳内では、
ヘルミオネさんの声で
再生された。)
自分の価値観は、
死ぬ前の日本の価値観に
かなり縛られているのを
感じる。
海外とか行ったことないけど、
他の文化の中で暮らしたら、
こんな感じになるんだろうな。
そう言うときって、
人はどうするんだろ。
現地の文化にどっぷり浸かっちゃう?
それとも自分が育った文化を
持ち続ける?
良いと思うところだけ
取り入れちゃう?
オレは自分が育った文化を
捨てられてはないなぁ。
まぁ。この世界の文化の中でも
育ってきたんだけど。
でも、都合の良いところは、
取り入れている気がする。
合理的とかじゃなく、
受け入れないと生きていけない
って言うところもある。
モグモグッ
ゴクゴク
プハァッ
・・・と
自然に手が伸びて、
唐揚げを口に入れ、
ジョッキを傾けている。
あ。こう言うところだ。
────
準備するリストを無事(?)
作り上げ、優先順位が高い順に
用意を始める。
もちろん、
途中で足りないものに気づくと、
もう一度リストとにらめっこして、
優先順位を決め直す。
あー。
生前もこうやって仕事を整理しながら
キチンと進めてれば良かったのかもなぁ。
とりあえず出社したら
メールチェックしてー
みたいな感じ。
ダルいなー。仕事したくねーなー。
もっと効率良くできたかもなー。
でも、それってきっと
あの場に戻れないから、
いろんなことを
現実よりも単純に考えちゃってる
だけな気がする。
あー。ムリムリ。
生前のことを思い出すのはヤメにしよう。
胃の辺りが重くて酸っぱくなる。
さて、気を取り直して買い物だ。
水筒と調理器具。
調理器具はオマケだ。
一緒に売っていたら見ておこう。
借金があるのに、
買う金があるのか!って言われる前に
言っておこう。(誰に?)
死んだらそこまで。
お金はあの世に持っていけない。
特に地獄には。
地獄ジョークには、
「地獄の沙汰も金次第」
って言うのがあるけど、
棺を札束で埋めても
通貨と貨幣価値が違うって言うね。
生きてるうちに
やりたいことを
やったもん勝ちですよ。
と言うことで必要な物を探しに
商店街に行く。
冒険者ギルド公認の道具屋とか
ないのかなぁ。
冒険者にかなりのニーズが
あると思うんだけど・・・。
でも良く考えたら、
野営道具なんて消耗品だけど、
そんなに高い物はないから、
採算とれなそうだしなぁ。
冒険者ギルドがお墨付きをあげても、
旨味も少ないだろうから、
公認の仕組みがないのかも。
そう言うの露骨だからな。
この世界は。
────
商店街にある店をいくつか回る。
が、空振りばかり。
どう言う店に置いているかだけでも、
聞いて来るんだった。
全くわからない。
ちっちゃい街なら、
そう言う店は一軒とかしかないし、
すぐ分かるんだけどなぁ。
ガランガラン
入った店は、鍋とか釜とかを売る、
金物屋さんだった。
カウンターには、オバチャンが座ってる。
「オネーサン。
旅行用の鍋とか水筒とか
ありませんか?」
精一杯ダンディーな声で話しかける。
「あら。冒険者さんなの?
ちょっと待っててね。」
と、奥の棚から鈍い銀色の物を持ってくる。
「これが鍋セット。
一人用だと十分じゃないかな?
特殊な金属でできてて軽いよ。
ただ焦げやすいので注意が必要だね。」
ゴトッとカウンターに置く感じは、
ソコソコ重そうだ。
「水筒はコッチ。
これは金属じゃなくて
魔物由来のモノだね。
軽くて丈夫。」
買うことにした。
時間が掛かる。。。
用語説明:
・白梟
かつてアータルが所属していたチーム
・ギン
かつてアータルが所属していたパーティー




