01-08.初心者講習に行ってみます。
いつもの朝。
オレはいつものように、
ギルドの二階にある鍵つきの部屋で目が覚め、
オッサンの襲撃に身構えた。
が、今日は初心者講習の日なので、来ないことを思い出した。
この何日間かの習慣が身体に染み付いてしまっている。
よく生き残ってるなぁ。肉体的にも精神的にも。
オレはまだヒゲモジャモジャのムキムキなヤツの
とてつもなく不快なワシャワシャ攻撃には屈していない。
ヒゲモジャの方はきっと子供と遊んでる感じなんだろうけどな。
へ、変な趣味に目覚めてないよね。オレ。
と、感慨に耽っていると遅刻するので、
急いで支度をし、部屋を出た。
ギルド前には結構な人だかりが出来ていた。
今のオレ位の年齢から、少し白髪のまじったオッサンまで。
様々な人が集まっていて、中央広場まで人が溢れそうな勢いだ。
「おら、てめぇら静かにしろ!」
バカでかい声が聞こえる。腹に響く声だ。
「これから初心者講習を始める。
自分のギルドカードを持ってコイツについていけ。」
長い槍のようなものを持った重装備の男が急に走り始めた。
竜と剣をかたどった刺繍が目につく旗をなびかせ、
大柄の男が西門に向かって走っていく。
冒険者初心者たちは遅れまいと走り出した。
それにしても速い。
気を抜くと置いていかれるほどだ。
短距離走を思わせるスピードで走っていく。
鎧とか着てるのに。何なんだあの速さは?
何人か脱落していく。
西門の外に着くくらいには30人ほどになっていた。
オレがちょうど門を出たところで、
後ろを走っていた何人かが門を塞ぐように武器を構えた。
明らかに雰囲気が違う。
オレのように息も切らしてない。
オレは息も絶え絶えで、寝転がりながらその様子を見ている。
これ以上何かするのは無理だ。
ムキモジャとの鬼ごっこからの疲れが抜けきっていないし、
元々走るのはそんなに得意じゃない。
そもそも得意ならもっと走るのにこだわって
色んな方法を試さなかっただろう。
だが、この何日間の苦行でだいぶ鍛えられたようで、
ギリギリ間に合ったと言う感じだ。
オレの前にここに着いた人たちはたくさんいて、
オレのあのヒゲモジャ地獄の苦行はなんだったんだろう
と言う気持ちにもなる。
何か物凄い厳しい特訓みたいなものをやれば、
あいつらに追い付けるんだろうか?
そんなことを仰向けで息を整えながら考える。
オレのあとのヤツらはどうなるんだろう。
首だけ門と、門を塞いだヤツらに向ける。
あぁ。柔らかい草がヒンヤリ気持ちいい。
門を塞いだヤツらは、あとから来たヤツらに何事か告げている。
告げられたヤツらの多くは、うつ向きながら街の中へと戻っていった。
ふるいにかけてるのかな?
旗を持った鎧の男を見ると、抜け目なく周囲に気を配っているように見えた。
「そこ、どいてくれますかねー?」
突然、明らかにケンカ腰の大声が響く。
顔だけそちらに向けると、見た目スゴくガラの悪い若い兄ちゃんが、通せんぼしているヤツらに言っている。
たぶん歩いてきたんだろう。
息も切らせてない。
それにしちゃ早いから、遅刻してギルドへ行かず、
途中で合流したって感じかな?
「邪魔なんだよ。早く道を開けろ。」
あれ?初心者講習の人じゃないのかな?
どっちにしろ上から目線過ぎてヤなヤツだなー。
「初心者講習参加者で間違いないか?」
通せんぼしていたヤツらの一人が落ち着いた感じで聞く。
こっちも今までと違って中々大きい声だ。
聞かせてるのかな?
「あーそーだよ。これ見ろよ。
冒険者ギルドカード。
ほら、いい加減どけよ!」
銀色のカードを通せんぼしたヤツの目の前に突き付けて
ふんぞり返って言う。
あちゃー。あんなヤツも冒険者かー。
まぁ、実力が物言う世界だから、
人格とかは二の次だろうからなぁ。
と思った瞬間。柄の悪い兄ちゃんがぶっ飛んだ。
籠手を着けた手で殴られたのが分かったのは、
兄ちゃんが地面をゴロゴロ転がって止まった後だった。
「出直して来い。」
通せんぼのヤツが言う。
「んだコラー!!」
転がった兄ちゃんが勢いで起き上がるが、完璧足に来ている。
通せんぼしたヤツは、ガラの悪い兄ちゃんの前に左手を差し出した。
手には先程のギルドカードが握られている。
「おい。返せよ。それ。」
兄ちゃんが手を伸ばす前に、
通せんぼしたヤツはその銀の板を握り潰す。
兄ちゃんは唖然とした顔で固まっていた。
握り潰した銀板を兄ちゃんの前に投げる。
地面に落ちていくカードは一瞬で形を失った。
・・・ナニで出来てるんだよ。ファンタジー。
旗を持ってたヤツが話し出す。
「お前らは合格だ。
今追い返したヤツらはそもそも冒険できるような
体力や心構えがなってない。
そういうヤツらは自主練だ。
体力や心構えを鍛えて出直して来てもらう。
お前らも途中で諦めたらそこで帰っていい。
俺らは止めはしない。」
誰も動かない。
オレも寝転がっているだけじゃダメだと身体を起こした。
「んじゃ戻るぞ。」
旗持ちは、今度はゆっくりとギルドまで戻る。
オレたちは後ろをただ付いていった。
ギルドの庭に通される。
椅子が用意されていた。各々腰かける。
「では始める。冒険者に大切なこと。
それは生きて達成状況を報告することだ。」
座学が始まった。
内容は、冒険者ギルドの目的と仕組みについてだ。
みんな真面目に聞いている。
こんなの高校以来だな。
あのときと違うのは、生活が掛かっていることと、
筆記用具がないところだ。
そう。この世界には紙がない。
書物は動物の皮を干したモノを使ってるみたいだ。
和太鼓の叩くところの皮みたいなヤツだ。
重いし高いし使ってる人を、見たことがない。
手伝いに行かされてた教会で、
司祭が、高いお布施を払った信者にだけ、
儀式の時だけ取り出し見せていた。
だからみんなメモなど取らず、聞いているだけだ。
指を折りながら必死に暗唱しているヤツもいる。
そんなに大切なことなのか?
試験とかあるのかな?
朝から始まった講義は本当にクソ長かった。
講師の元冒険者は楽しそうに話していたが、
半分以上寝てたぞ。大丈夫なのか?
覚えているのは、危ないところには一人で行かない。
何か見付けたら報告する。
仕事の報告は忘れずに。くらいだ。
これだけのことを昔話も含めてあんなに長く話せる能力は
ある意味スゴい。
校長先生になれるな。
二、三人くらい貧血で倒れるくらいの
ものすごく有り難い話をしてくれそうだ。
午後は実践混みの授業と言うことで、
東門から出て少し歩いた平原に来ていた。
簡単な魔法を見せてもらったり、野営の基礎などを学んだ。
ホント学校みたいだな。
座学で必要な知識を得た。
大体は忘れてしまったが、
午後の実践では結構、身に付いた気がする。
まず、やってみて失敗するって素晴らしい。
失敗すると、ほぼ漏れなく拳骨が降ってくるが、
背負ってる物が自分だけなんでスゲー気が楽だ。
講師役の先輩冒険者のオッサンも細かいことは言わないし、
ネチネチ蒸し返したりもしない。
そういや、学生の時はこうだったかもなぁ。
社会に出ると余計なモノを散々持たされて
失敗させられるからなー。
それに比べると、拳骨一発だけ。
目からビームとか出そうになるくらい痛いけど。
かなり痛いけど。
・・・その道には目覚めてないよな?オレ。
実践講習では、やたらと出来る自慢をしているヤツがいて
鬱陶しかった。
取り巻きの奴等とワイワイやっていて、
何故か講師はソイツにだけは拳骨を落とさなかった。
何か訳ありなヤツなんだろう。
関わらない方が身のためだ。
顔だけ覚えてソイツの近くから離れた。
火のおこし方や野営の仕方、簡単な野草の採り方と言うか、
納品の仕方も教わる。
親父や兄貴たちに教わってた方法とは違うところもあった。
この辺りの知識はみんな我流なのかもしれないな。
とりあえず、この方法でやってみよう。
この辺りの環境には適したやり方かもしれないし。
まぁ定期的にやるからそのうち覚えるだろう。
納品したときに出来ばえを聞いて、直して行けばいい。
用語説明:
・重装備の男
ギルド旗を持って西門の外まで走った。
走る速さは速い。
・ガラの悪い兄ちゃん
やり直しを言い渡された。
戻ってくるかは本人次第。
・ギルドカード
不思議物質で できている
・出来る自慢をするヤツ
関り合いになりたくない(アータル談)




