高校生の日常
いつもの通学路。いつもの公園。いつもの駅。その隣にひっそり存在する異世界の入り口。
怪しく恐ろしくもどこか暖かい世界。
"ピピッ…ピピピピッ"
けたたましく鳴る目覚まし時計が、オレを現実に引き戻す。
体に纏わり付く嫌な汗。
昨夜つけておいた年季の入った扇風機は、タイマーが切れたのだろうか、沈黙している。
おかげで室内は蒸し風呂状態だ。
七月初旬、夏真っ盛りである。
見慣れた天井にある、つけっぱなしで寝てしまった円形の蛍光灯をぼんやり眺めながら微睡んでいると、
心がずしんと重くなった。
昨晩机の上に参考書を広げながら、
これから先の進路について考えを巡らせてはみたものの、何も思い浮かばなかった。
今年受験を控えていて、勉強しなくてはいけないのに、全く参考書が頭に入ってこないのだ。残念なことに、やりたいことが見つからない。
焦れば焦るほど
勉強できなくなるのが
受験生の性である。ため息をついて重い体をおこし、リビングへの階段を下る。
朝食の香りが鼻をつき
胃が食べ物を拒否するのを感じる。
「また、今日も母さんの小言から1日が始まりそうな予感。」
親の小言に付き合うのもまた受験生である。
リビングとキッチンを
忙しそうに行き来する母をなんとなくで目で追いながら
重い気持ちでのそのそと席に着いた「あんた、昨日電気つけっぱなしで寝てたわよ。今日から期末試験だっていうのに、たるんでるんだから!」
母の高い声は
寝不足気味な頭によく効く。
きーんと言うハウリングに似た音が頭に反響した。
これが毎朝我が家で起こる
母のサンドバッグタイムだ。
「毎日毎日部屋に篭ってるから、勉強してるんだと思って覗いたら、参考書開いたまま爆睡してるなんて、お母さん涙が出そうだったわ。」
「ちゃんと勉強しないと、良い大学行けないし、良い大人になれないわよ!」
何十回も聞いたであろう台詞を今日も聞いている。もしやここは無限地獄の中なのかもしれない。
「わかってるよ、そんなこと、それにオレの人生なんだから、オレの好きにしたっていいじゃん。母さんには関係ないだろ…」
母は一口パンをほうばると
蔑んだ目でオレを見ながら言った。
「俺の人生って‥子供のあんたが言う台詞じゃないわよね。学生は勉強するのが仕事なのよ!」
堂々巡りの会話に嫌気が差したので、横目でテレビを見る。天気予報は今日も晴れで、最高気温は27度と夏日だ。