85 リケジョはいずれ頭角を現す
ロタがシュレナを車で送った、あの文化祭の夜に、シュレナの自宅付近の場所は分かった。
そこで、ロタと相談し、作戦決行の一週間半ほど前に、クミマルは、朝、その辺りを散歩していたのだ。
この時に会えなかったら潔くあきらめる予定だったが、運良く会えた。
駅までの道を聞き、シュレナの顔を見ることが出来た。ゆえに、より一層リアルなメイクを作れたわけである。
「ズボンの制服の女の子って聞いてたからね。見分けが付いたわよ」とは、クミマル本人の弁。予期せぬ所でズボンが役立ったものだなとロタは思った。
「この中で、シュレナちゃんに会ってないのって私だけかー。私も会いたかったな」
リモリが残念がる。クミマルは、
「この作戦、一番の功労者はリモリちゃんなのにねえ」
発案も、「未来のシュレナは別の次元から来たので記憶は一致しない」という「設定」も、リモリ考案なのだ。
「誰か一人欠けても駄目でしたけどね」
と、クミマルを振り返るリモリ。
「俺とイリカは、本日を限りに未来へ帰ったことにするから、シュレナさんにはもう会えないけどね」
と、ロタ。実際、シュレナに教えたメールアドレス等の連絡先も、近日中に変更するつもりだ。
ロタは話を続け、
「しかし、いずれ、シュレナさんは理系分野で頭角を現すだろうから、同じ業界にいるリモリさんなら、接点は出来るわさ」
「それは言えるよね」
イリカも賛同する。
リモリも「そうか」とうなずき、思い出したようにハヤミを見て、
「ロボットコンペ、シュレナちゃん、応募してくれるといいですね」
「してきますよ。案内状、食い入るように見てたから」
ハヤミが即答する。
「主催は国と大企業?」
クミマルの質問に、
「と、大学関係も。開催は不定期なんですけどね。一般的な公募とは性質が違って、埋もれそうな才能を、学識経験者がコツコツと発掘する場で」
と、ハヤミは付け足した。
リモリが少し神妙な表情をして、
「ここまでうまく行っちゃうと、今さらだけど、シュレナちゃんをだまして、後味が悪い気もしてきたなー」
一同が静まる中、口を開いたのは最年長のロタであった。
「心配ないですよ。大人になったら、多分、シュレナさんは自分で気付くと思う。あの時は、大人たちが未来人の振りをして一芝居打ってくれたんだろうなと」
「あっ、言われてみればそうかも。頭いいからね」
リモリがほほえんだ。
ハヤミも首肯して、
「青春の頃に一度だけ奇跡が起きるのだとしたら」
「それが今日だったというわけね」
と、クミマル。
「きっとシュレナさんは、いつか俺たちを飛び越えていくと思う。軽々とね。そして、皆さんがイリカへ込めた技術や想いが、我々の次の世代まで受け継がれて行けばいいんですけどね」
ロタの本心、ひいては、この場にいる者たちの願いでもあったに違いない。




