82 ある予感と、「未来の私」から提案
それを聞いた「未来の私」は、
「今はどう?」
「今は、夢中とはちょっと違うかな。もちろん、イリちゃんのことは好きだし、今も会って話したいけど」
ここまで答えた時、シュレナは、「未来の私」の表情が一瞬曇ったのを見逃さなかった。
(ああ、やっぱりなー)
先ほどから浮かんできていたある予感が、裏付けられてしまった。少々気落ちしながらも、シュレナは続ける。
「イリちゃんが造られた動機とか存在意義を、今、知ることが出来たからね。それと共に、私がすべきことも分かったから。中学校生活の思い出作りとか青春とかも、そろそろ卒業しなきゃ駄目なんだろうね」
「未来の私」は何か答えようとして口を開いたものの、結局、黙ったまま。
もうしばらく、聞き役に回るつもりらしい。
ならば。
(いいか。これも言っちゃおう)
シュレナは意を決して、相手の目を見つめ、
「未来の私さん、もう一つ聞いていい?」
「何?」
「もう会えないんでしょ、イリちゃんにも、ロタさんにも」
「えっ」
初めて、「未来の私」が無防備に驚きを示し、絶句した。
今日は「未来の私」に驚かされっ放しのシュレナであったが、ようやく、一矢を報いることが出来たようだ。
無論、うれしくも何ともない「勝利」ではあった。だが、「未来の私」の想定を大きく超えて、自分は今、成長したのであろう。
ハーッと深く息を吸って、シュレナは慎重に言葉を継いでいく。
「私に対する、イリちゃんの役目は今、終わったんだよね。イリちゃんは生命ではない、人間ではない。自我もない。機械であり、しかも、造られた目的は、ロタさんの彼女になること。イリちゃんは私の友達にはなれないし、せいぜい、造られた時のテーマや思想を私へ伝えることぐらいしか出来ない」
早口とならぬように、注意深くしゃべった。焦ると言葉が詰まり、涙声になりそうだったから。
心と体がずれた時、人は涙を流すのだ。
心と体というよりも、今は知性と心境、かもしれない。頭脳の充実度はかつてないほど高まっているのに、気持ちはこんなにも寂しい。
「未来の私」は一旦は目を伏せたが、すぐに顔を上げ、
「さっきから、いつ言おうかとタイミングを見計らってたのだけど、自分で気付いちゃったか」
申し訳なさそうな、弱々しい笑み。シュレナは、
「やっぱり、お別れかー」
「タイムワープも、そう何回も出来ないから」
「だろうね」
分かる気はした。続けて、
「私も歩き出さなきゃね。理科の大会とか科学のコンテスト、これから探してみるよ」
「そのことなんだけど」
と、「未来の私」は大きめの茶封筒を取り出し、
「これ、シュレナさんにあげる。国と企業が合同で主催する、自作ロボットコンペの案内状。ネットでは余り周知されていない、関係者向けの物だけどね。親御さんとよく御相談して、よければ応募してみて」




