79 死後の世界はあるのか、自我存続の条件
「つまり、自我というのは実体を伴わないってことか。脳とか肉体のあちこちから電気の刺激、神経信号が立ちのぼり、集まっている。レーザーの立体映像、蜃気楼のような感じか」
「面白い例えだね」
と、「未来の私」は答える。微笑しながら、シュレナの話の先を促す。
シュレナは続けていく。
「ただ、蜃気楼は短時間で消えちゃうけど、意識や自我は長い。寿命の分だけ持続するのだから。でも、本質はかなり近い」
少々、間をあけ、ふと浮かんだ疑問を付け加える。話は横道にそれるけれど。
「……ということは、死後の世界は存在しないのかなあ?」
「精神や自我の発生源が肉体だとすれば、自ずとそのようにも仮定できるね。胎児や赤ん坊の頃は脳が未発達で、意識もはっきりしない。やがて体も脳も完成され、自我が形成される。
その後、体や脳が機能を止めた時、若しくは姿を消失した時、意識は持続し得ないことになるし」
そう説明しつつ、「未来の私」は首をかしげ、
「まあ、仮に死後の世界があり得るとしたら、電気的な信号の発生源が、死とともに切り替わって、自然界の何かが後を引き継ぐこともあるかもしれないけどね」
シュレナは、
「例えば風とか、自然の光線とか音波とか?」
「とか、空気中を漂う小さな有機体とか。ここまで来ると、なかなかに飛躍した話だけどね」
と、「未来の私」は肩をすくめた。
そして、
「で、本題に戻るけどさ」
口調も明るくニヤリとする「未来の私」は、年齢こそ重ねているが、顔つきも瞳の輝きも自分にそっくりだ。大人になっても好奇心を失わぬ自分を、シュレナは誇らしい気分で見つめた。
「未来の私」は言葉を継いで、
「これで、シュレナさんもピンときたでしょ。人間に近いロボットを造るためには、指令と動力とを厳密には分けない方がいいって」
その点については、既に先ほど、シュレナも気付いている。
「うん、そうだね。意識と動作は、卵とニワトリの話なのかも。又は同時進行。境目を勝手に決め付けない方がいいんだね」
それを聞いた「未来の私」の笑顔が、友のような優しさから、教師のような真剣なものへと変わり、
「境目。まさに。さっきのロボットの脚の話も同じことだからね。例えば、歩く地面のでこぼこに合わせて、脚が自ら形状を変化させる。結果として、ロボットの全身の体勢も決まる。見える景色も変わる。そこで初めて、その電気信号を人工知能が情報としてキャッチして、何らかの判断を下してもいいんだからね」
シュレナも、考えついたことを述べてみる。
「その判断は、あらかじめ設計や予測が出来ないものかもしれないけど、実は最も自然に近い判断なんだね」
大きく首肯した「未来の私」は、
「少なくとも、その可能性はあるということだよね」
「人間も、もしかしたら、そうやって判断しているから……」
「ということだね」




