表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/86

69 フヒヒヒー

 イリカは、しゃがんでもなお、シュレナの胸の辺りほどの高さがあった。横幅もある。

 まるで、紺色の岩が眼前に置かれたかのような眺め。紺は、イリカの首から下をすっぽりと覆うケープの色である。


「いきなり飛び付いちゃっていいの?」

「うん、大丈夫だよ」

 シュレナの問いかけに、イリカは振り向かずに答える。後頭部の長い黒髪が、街灯に反射してつややかに光っている。ロタによると、アクリル製のかつららしいが。


 勢いを付けて、前方へジャンプするシュレナ。両腕をイリカの肩へと左右から絡め、胸から脚までをイリカの背に密着させる。

(おおっ、ぴったりじゃん!)

 イリカの上半身は、いい具合に前へ傾斜が出来ており、しがみつかなくても落ちることはなかった。

 イリカの太い腕も、ひじの曲がり目でシュレナの膝裏をソフトに挟む。しっかり固定された。


「乗れた?」

 振り向かないイリカが尋ねてくる。シュレナは、

「はい。超安定してんだけど」

「よかった。じゃあ、立ちます」

 と、イリカは前かがみのまま、ゆっくり立ち上がる。

 イリカの膝から、ギギーッと再びモーター音がする。今のシュレナには、真下から聞こえてきた。

 視界が上がっていき、そばに立っているロタと同じくらいで止まる。

「高っ!」

 つぶやくシュレナ。

 今の頭の位置は、自分の身長より高い。


「平気そう?」

 と、ロタが目を合わせてくる。

 おぶわれたシュレナがうなずくと、

「じゃあ、行こうか」

「行こう」

 ロタとイリカが声をかけ合う。


 イリカは、アスファルトをズシッ、ズシッと踏み締めて、ゆっくり歩行。振動がシュレナの腹へ伝わるが、不快ではない。

 また、ケープの布越しに、独特な温もりも感じた。もちろん、人の体温とは違う。家電製品の余熱に似ている。だが、ホッとさせられた。

「イリちゃん、あったかーい」

 と、シュレナ。あごを、イリカの左肩に載せている。

 イリカは、キュッと首を左へ向け、

「熱くならないように、こまめに排熱してるからね」

 緑色の左目と視線が合う。

「ロタさんをおぶったことは?」

「内緒」

 左目を細めてニヤリとするイリカ。

「ないだろ。何が内緒だ」

 横を歩くロタが、会話へ割って入る。シュレナの自転車を押しながら、苦笑いでこちらを見上げている。

「フヒヒヒー」

 イリカのおどけた笑い声。


 ロタは続けて、

「まだ私はないけれど、以前、別のある人が、実験でイリカにおぶわれたことがあるんだよ」

 なぜか、突然ひらめいて、

「もしかして、イリちゃんの浴衣を作った人?」

「へえっ、よく分かったな。そうだよ」

 ロタは感心したように笑った。


(なんか、みんなすごいなあ。イリちゃんを造った人たちも、イリちゃん自身も、イリちゃんときずなを深めてるロタさんも……)

 ただ、シュレナは圧倒されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ