61 安否情報未確認
夜。
行きつけのオープン・カフェテラス。
向き合って座るロタとイリカ。
ロタは、ポケットのスマホがブルブルと震えたので、取り出す。
「おっ、メールだ」
「誰から?」
イリカが問う。いつもの紺色ケープ姿。屋外のこの席なら目立たないため、ロボットであることを周囲に悟られにくい。
ロタは画面をのぞき、
「ん。シュレナさんだ」
(夏、電話で口論して以来だなあ)
スマホを操作しつつ、ふと思い出すロタ。
なお、あの件は同日の夜にイリカに話し、「それはロタの態度が冷たいよ」がイリカの感想であった。
助けスマホ壊
というわずか六文字のメールを読んだロタの背中に、ゾワリと寒け。
「どうしたの?」
イリカの質問が飛んでくる。ロタの顔色が青ざめたのを、瞬時に識別したのだろう。
スマホ画面をイリカに見せる。
「これ、よくないやつだよ、ロタ」
と、イリカの緑の左目、青い右目が見開かれる。
ロタも同感。途切れたこの短い文面、明らかに異常だ。
「とりあえずイリカ号へ戻るか」
「そうだね」
イリカはうなずいた。席を立つ二人。イリカ号とは、駐車場の愛車のことだ。銀と黒のワゴン、特別仕様車。
カフェの会計を手早く済ませる。
ワゴン車へ近付くと、イリカの発する赤外線に反応し、片側のドアがあき、助手席が外にせり出してくる。イリカが座ったら、座席は車内へ引っ込む。
ロタは、反対側のドアを自分であけ、運転席に座る。
まだエンジンはかけず、車内で相談。
「どうしたものかな。返信してみるか?」
左隣のイリカにロタが尋ねると、
「やめた方がいいよ。危険な目に遭ってるのかも。シュレちゃんのスマホから音が出たらまずいよ」
「なるほど」
「貸して」
「ああ」
言われるまま、スマホをイリカへ手渡す。
イリカは、左手を自らの後頭部へ回し、四角い小型キャップをパカッと開いた。
そこから体内ケーブルを引っ張り出し、ロタのスマホにつないだ。
イリカの意図を察し、
「逆探知か?」
と、ロタ。
「うん。試してみる」
イリカとしても初挑戦らしい。
三分後。
「位置情報は特定できたよ」
その言葉とは裏腹に、イリカのまゆ毛は下がり、困った顔。
表情の方を見たロタは、
「何か問題でも?」
イリカは首を縦に振り、
「今のメールの発信源は、地図上に、ほぼ突き止めたの。でも、それがどこなのか、私には地図自体を読めない」
「エラー?」
「というより、大元でロックが掛けられてるみたい」
「ロックか……」
返事の後、少々考え、
「他人のプライバシーを侵害しかねない機能だから、使用が制限されてるのかもな」
ロタは推測する。
(万事休すか……)
イリカからスマホを返されたロタは、だが、不意に気付く。
(待てよ。
ならば……!)
ロタは、再びスマホを操作し始める。




