60 後夜、叫び、未来
かつてあれほど心待ちにしていた文化祭も、今や苦行。
早く終わってほしかったが、こういう状況では時間が経たないものである。
時々、シュレナは持ち場を離れ、体育館などもぶらついて気を紛らわせた。
スマホに届いたメールによれば、その間に、シュレナの両親も見に来てくれていたらしいが、もはやどうでもいいことだった。
午後四時、文化祭が閉幕すると、無言でシュレナは展示物を部室へ引き上げた。
あとは、他の手伝いにも打ち上げにも参加せず、顧問やクラスメイトとも余り話さず、歩いて家路についた。
クタクタである。今日は、もう誰とも顔を合わせたくなかった。
帰宅し、自分の部屋の床に寝転んだが、今日の嫌な出来事が頭にあふれてきて、シュレナは飛び起きる。
「出かけるの?」
「買い物」
母親の問いを背に、再び家から出るシュレナ。
買い物、はうそ。とにかく外へ出たかった。
自転車に乗る。通学カバンは部屋へ置いてきたが、服装は紺ブレザーの制服のまま。下はズボン。
「ちっきしょー、何で私だけ!」
夕暮れの街で自転車を走らせつつ、シュレナは叫ぶ。
停車中の運転手や、歩道橋の通行人が、驚いて振り向いたのが見える。構うものかだ。
「うがああー!」
他にも、教師の悪口、自分への大げさな賛辞、言葉にならぬわめき声、などなどを、ペダルを踏みながら幾つも放った。
が、十五分と続かずに、のどの痛みと息切れで、ゲホゲホとせき込む。
(ダサ)
それからは黙々と自転車をこいだ。
やがて、眼鏡レンズに、車のライトや街灯が映り込み始める。日没だ。
いつしか、辺りは見知らぬ景色に。都市というより、どうやら工業地帯のようだ。
(あーあ。しばらくは家も学校もうざってえな)
前輪で夜風を切ると、汗ばんだ首元に心地よい。多少は発散にもなった。
とはいえ、心に張り付いた無念さは容易には晴れぬ。
(何で、みんな分かってくんないんだよ。私は理科が好きなだけ。たまの文化祭くらい、いいじゃんか)
ふと、「あの二人」のことが頭をよぎる。
(イリちゃんとロタさん、どうしてるかなあ)
未来から来た二人。
ロタとは電話でけんか別れをしたのに、今は妙に、あのカップルが懐かしい。
(身勝手だよなあ、私)
自己嫌悪に陥りながらも、
(今夜くらい、いいよね)
そこから先は、口に出してつぶやく。
「私、頑張ったよね」
涙声になっていたが。
(今の私のこと、ひょっとして、未来から見てくれてないかなあ)
そんなことも思う。
「見ていたら、来てよ。ねえ、私も未来へ連れて行って。そっちの時代では、女性の科学者も大活躍してるんでしょ。きっと、ロボットもたくさんいて……」
言えたのはここまでだった。
石か何かを車輪に引っかけた自転車は、バランスを大きく崩し、シュレナの体は投げ出され、宙を舞った。




