58 ようこそ、ケミホ中学文化祭
高校や大学とは異なり、中学校の文化祭は、一般公開されない場合も多い。
シュレナの通うケミホ中学も、そうである。
十月第一週の金曜と土曜に開催され、金曜は校内のみのクラス発表、特別講演など。
二日目が、学年や有志、そして部活動の発表である。
こちらは、校外の者も招かれる。生徒の保護者、家族、かつての本校教師や卒業生、教育関係者などだ。
事前予約制であり、部外者は入れないので、雰囲気としては「全校規模の授業参観」とも言えるかもしれない。
開かれるのは、午前十一時から午後四時まで。
体育館と、一部校舎が文化祭の展示エリアで、飲食は禁止。飲食物も提供されない。
もっとも、展示や発表はさほど大規模ではなく、真面目に一通り見学したとしても、二時間も掛からない。長居をする者は少ない。
客の大半は生徒の保護者であるので、お目当ての我が子の発表や展示を見たら、すぐ帰ってしまう場合が普通だ。
例年、校内は、在校生七割、それ以外の客三割ぐらいのにぎわいを見せる。
紺色のブレザー制服姿の在校生男女の中に、私服の大人たちと、まれに子供の姿も混じる。
客は、正門で受付を済ませ、昇降口にてスリッパに履き替える。
多くの足が向くのは、中庭と体育館である。いずれも、タイムテーブルに従って合唱や吹奏楽、バンド演奏、演劇、コントなどが披露される。
一方、校舎では、幾つかの教室やロビーなどにて、主に展示発表がある。
三年生のボランティア活動の成果をまとめたコーナーは、教師からの評価が高い。
美術部の絵画や、図書委員会の希少本も、密かな人気だ。
理学研究部・シュレナの展示は、三階の視聴覚準備室である。
なかなか、三階まで来てくれる客は、そう多くはない。
だが、この部屋には、常に五、六人程度の見学者が集まっていた。メイン会場から離れているにしては、健闘であろう。
ただし、見学者たちの目当ては、部屋のもう半分を使っている生徒会執行部。
生徒手帳を模した着ぐるみが好評だったのだ。
手帳が巨大化し、手足が生えたキャラ。
テーマは、昨年同様、生徒手帳と校則の啓蒙。前回はアニメ、今回は着ぐるみというわけだ。
ケミホ中学の生徒なら、誰もが驚くであろうリアルさ。
表紙は段ボールで再現。巻頭の数ページも再現されており、実際にめくって中身を読むことも出来る。
しかも、校則に紛れて文化祭の小ネタが書かれているという凝りようだ。それに気付いた見学者から笑いが起こる。
体のそれ以外の部分にも、お面や手袋、レインコートなどが用いられ、中に入っている者は完全に隠れていた。
着ぐるみの周囲は、写真撮影などで盛り上がっている。
壁には、生徒会活動を紹介したパネルも。
そして、シュレナの理学研究部は、細長い視聴覚準備室の、更に奥にて展示を行っていた。