57 女生徒一人じゃ抱え切れない
今回の沈黙は、長めであった。十五秒、いや、二十秒ほどか。
教頭もサミヤもしゃべらないので、やはり自分が話す番かなと悟り、シュレナは口を開く。
「その場のどさくさで部を作ってもらって、今まで特例でさんざんいい思いをしてきたくせに、いざ、今度はどさくさで雑にあしらわれたからといって、今さら抗議したって虫が良過ぎるということですかね」
淡々と述べることが出来て、我ながら驚いた。
考えてみれば、昨日今日と、大人と討論をしてばかりだ。嫌でも、口は達者になろうというもの。
シュレナの整然とした物言いに、教頭はもっと驚いたらしく、一瞬だが、無防備なあっけにとられた表情を浮かべた。
とはいえ、すぐ真顔に戻り、
「そこまでは言わんよ。また、これで納得してくれと言うつもりもない。
ただ、学校には学校の、我が校には我が校なりのしきたりや集団の論理があって、あなたにとっては、それが悪い形で出てしまったのだろう。
大勢、大きな流れは、もう変えられない。これが学校側の立場だ」
そのあとも、教頭の説明はしばらく続いたものの、もはや、昨日のサミヤの話をなぞるのみの内容であった。
しかし、受け入れるだけでは、この場に臨んだ意味がない。最低限の要求は通さねば。
「教頭先生、最後に確認なんですけど、文化祭の理学研究部の参加自体はいいんですよね?」
シュレナの問いに、教頭はまゆを動かし、
「というと?」
「視聴覚準備室を半分使っていいって話です。あれまで取り消しじゃないですよね?」
教頭は、かたわらのサミヤと横目を合わせてから、
「そりゃ、まあ……。でも、ロボットに準ずる機械類もダメだからね?」
(うるせえなあ)
言葉に出す時はマイルドに、
「分かってます。何か、別の物を考えます」
サミヤが口を開きかけたのと、シュレナの付け足しは同時であった。
「もちろん、先生方には事前にお見せします」
サミヤは、口を閉じてうなずく。同じことを思っていたようだ。
(心配しなくても、それも分かってる。私を見くびらないで)
またも、胸中にとどめておいたが。
かくして、文化祭のロボット展示はなくなった。
もし大ごとになると、理学研究部の文化祭参加はおろか、最悪、部室の返上などもあり得るため、両親にも友人にも、シュレナは結論のみ控えめに伝えた。
特に親からは色々と聞かれたが、適当にごまかした。イリカとロタの件は秘密なのだから、いずれにしても、一部分しか話せないのだし。
(とは言ってみたもののなあ……。実際、どんな企画がいいのかなー)
残り一か月余り。
先生方に当てつけるような展示をやるつもりはない。無難で、かつ、それなりに自己実現も望めるライン。
しかし、精神的ショックを引きずりながらでもあり、容易ではなかった。
文化祭当日は、あっという間に訪れた。




