51 出る杭にも必要な処世術
幾ら何でも、これだけでは冷淡過ぎる気がしたので、ロタは、努めてソフトな声音を作って、こう付け足す。
「市民ギャラリーでのトラブルは、イリカがいなければ恐らく起きなかったわけですから、私も申し訳ないとは思うんですけどね」
もちろん、これ自体はロタの率直な思いだ。
スマホの向こうから、びっくりしたようなシュレナの声。
「そんなそんな!
そのことはいいんですよ、もう。誘ったのは私だし、あのあと色んな新しい展開もあったんですから。問題は、これからのこと」
ロタは一瞬、「これから?」と聞き返そうとしたが、さすがにそれは意地悪であろう。シュレナは、何らかの打開策を求めているのだ。
(思いつかんけどなあ)
会話をつなげるために、それっぽいことを述べてみる。
「親御さんには話した?」
「まだ。ややこしくなりそうだから、言おうか迷ってます」
(思春期だからなあ。隠したいのも分かるけど)
と、ロタははるか昔の少年時代を振り返りつつ、
「そうか。じゃあ、学校で、味方してくれそうな人は?」
「顧問の先生以外は……。部員も私だけだし」
(だろうなあ)
これは口には出さなかったが、でも容易に想像はつく。
きっと、シュレナは我が道を行く子なのだろう。教室でも、浮いているのだと思う。
周囲の生徒や教師が、その姿を煙たがっているのか、面白がっているのか、そこまでは分からぬ。ただ、一つ言えることは、そういう生き方をしていると、集団全体で一斉に何かをやる際に、置いてきぼりにされやすい。
今回、それを食らったのだろう。
(当人は突然意地悪をされた気分なんだろうが、普段からの積み重ねも大事だからなあ。
空気読んで、時には妥協して、ゴマすりもして)
ロタも昔、授業中にベラベラとうるさくしゃべり、教師とクラスメイトの不満や恨みを買っていて、やがて噴出し、学級会、保護者会で糾弾された経験が何度もある。
あれと同列に語るのはシュレナに失礼だが、「浮いてる生徒が、雑に扱われた」点では共通する。
(だからといって、まさか、今この話は出来ないしなあ)
本人が自力で気付くしかない。その後のロタのように。
しばらく、ロタとシュレナの通話は続いたが、建設的な解決策は浮かばなかった。
少々それに飽きたためか、つい、ロタは口にしてしまう。
「ねえ、シュレナさん。何もそこまで、学校の文化祭にこだわらなくても、いいんじゃないか?」
シュレナがハッと息をのむ音が、スマホ越しにはっきり聞こえた。
「どういう意味?」
電話の向こうの空気が、明らかに変わった。
ロタは、しまったと顔をしかめたが、やむを得ず先を続けることにする。別に、間違ったことは言っていないのだし。
「別に学校行事じゃなくてもさ。ほら、今はネットで動画を投稿する方法だって、あるんですから。親御さんともよく相談してさ」




