5 青春(助言、助走、勇み足)
「空圧サーボを知ってたし、好奇心も旺盛だし。
エネルギッシュな感じがしたからですよ」
初老の男は、そう言葉を継いだ。
シュレナにとっては、喜びと寂しさ半々のコメントだ。
それを口にする。
「けど、せっかく創部したのに、誰も入ってくれなくて。私、人望ないみたい」
「人望なんてね、」
と、初老の男はまたも即答し、
「下手すりゃ、育てるのに十年かかるよ。でも、中学は三年で終わっちまう。やりたいことがあるのなら、どんどん始めた方がいいと思いますよ」
(うれしいこと言ってくれた!)
シュレナはジーンと感激した。
だが、同時に一つの疑問も湧き、つい、そちらを優先してしゃべってしまう。
「ありがとうございます。でも、おじいさんは?
やっぱり、青春に悔いがあるんですか?」
「むう」
うなる老人へ、
「だからこそ、このロボットを造った。そうなんですか?」
と、シュレナはたたみかける。
初老の男はギョッとした顔をして、
「そこにつなげるわけ?
んー。この子をロボットと決め付けてるけど、まあ、そこは微妙な問題だからさ」
さすがに、この女性を人間だと言い張るのには無理があると悟ったらしく、老人は少し譲歩してくれた。
(チャンス!)
シュレナは勢いづき、
「私、普段から、ロボットの見学だって、してるんです。
空圧サーボを組み込んだ人間型ロボットも、科学館で見たことあるの」
「私がそれに似ていた、というわけね」
背の高い女性が、緑と青の瞳を向けて問いかける。
唇には、まだ微笑が残っている。
「はい。ただし、上半身だけの展示モデルで、言葉を話す機能もなかったけど」
「シュレナさん」
初めて、老人も少女の名前を呼んできた。
「はい」
シュレナは返事をし、老人に向き直る。
老人は、この数秒で考えがまとまったのか、落ち着いた声音で、
「あなたが科学好きなのはよく分かったし、今だって、ふざけて言ってるわけではないのも分かる。
名刺も見せてもらったし、あなたの誠実さも伝わりました。
なので、シュレナさんの将来のためにも、多少お役に立てればと思わなくもないんだが」
どうやら、途中までなら秘密を明かしてもいいかなと、老人も迷い始めているようだ。
(気が変わらないうちに!)
シュレナは、長身の女性へ歩み寄り、首から下をすっぽり覆っているケープを指差して、
「じゃあ、このマントの中がどうなってるのか、見せてください」
夢中で頼んでいた。
初老の男が困惑顔で何か言いかけた時、横に立つ女性は、
「あなたと同じですよ、シュレナさん。
このマントの下には、普通に服を着ています。更にその中には、もちろん下着も着けています。そして、体がある。
それは、あなたと全く同じことですよ」
シュレナの胸がキリリと痛み、ほほがカッと熱く火照った。