38 アンドロイド「生きた教材」イリカ嬢
イリカが先回りするように、
「思ったこと、遠慮なく言ってくれていいよ。シュレちゃんの理学研究や勉強に役立てば幸いだし、私たちも参考になるのだから」
「参考って、どういう意味?」
シュレナの問いに、
「私には、今後も改良の余地があるということ。シュレちゃんの意見を取り入れれば、機能を高められるかも」
と、イリカはほほえむ。
「いや、圧倒されるばかりで……」
シュレナの本音であった。
「質問でもいいですよ」
ロタが口を挟む。
「あ、はい」
シュレナはうつむいて、三秒ほど考えてから顔を上げ、
「せっかくなので、お言葉に甘えて。
じゃあ、イリちゃんは、走ることは出来ますか?」
イリカはかぶりを振る。キュイー、キュイーと首がきしむ音。
「走れない。早歩きが限度」
「それはどうして?」
「今見せた通り、足の上げ下ろしだけで三段階の動作が要るの。
まして歩くとなれば、次に足を下ろす場所の目視、重心移動、姿勢制御も必要。これらは一回一回、脳から命令を出すため、時間がかかるのです」
「海外では、走れる二足歩行ロボットもいるけど?」
「開発費の差。あと、そういうロボットは骨格だけのタイプが多いよね。私には皮膚が付いてるし、軽量化が難しい。人間に似せてるか否かの違いは大きいと思う」
感情がないからなのか、ドライにサクサクと答えてくれるイリカ。かたわらのロタも、口出しはしてこない。
(私もクールに行こう)
シュレナはそう決める。
「なるほど。
じゃあ、さっき言ってた、脚を細くしてくれた、って何?」
「そのままの意味だよ。私は、今の姿になるまでに、何回も試作が造られたの」
「試作では、つまり、もっと脚が……」
さすがに、シュレナもここは言いよどむ。
イリカが先を続ける。
「そう、太かった。体もすごく大きかったんだよ」
「動きにくかった?」
「私が中へ入ったのは、試作第三号からだけどね」
「中へ入った?」
聞き返すシュレナの顔を、イリカは穏やかにのぞき込み、
「うん。元々、私は単体の人工知能だったんだよ。実体のないプログラムだったの。
ロボットの体は後から造られて、途中までは別々の場所で研究開発されたの」
「そうだったのか!」
シュレナは叫んだ。予想外であったからだ。
(へーっ。先に人工知能から造ったのかー。確かに、そっちの方が合理的かも……)
シュレナが考え込んだため、しばしの沈黙。
それを利用するかのように、イリカはロタの方を向き、
「ねえ、ロタ。例のプレゼント、今、渡すのがよくない?」
「確かにな。話の流れ的には、ちょうどいいわな」
ロタはうなずいている。
「プレゼント?」
意外な単語に、シュレナが思考を中断して二人を見ると、
「うん。ロタと相談して決めたの」
「思いついたのは俺じゃなくてイリカだ」
イリカとロタが、順番に答えた。




