36 浴衣、あだ名、脚
「おー、シュレナさんも浴衣だね!」
シルエット二つのうち、より長身の方が声をかけてきた。
シュレナは走って近づきながら、
「おそろいだね」
と、はずんだ息で返事をする。相手はイリカである。
「よくお似合いですよ」
シルエットの、もう一人が褒めてくれた。ロタだ。
「ウケる。褒められた!」
と、シュレナは噴き出す。意外さとうれしさで。ロタはキョトンとした顔で、
「えっ。何がウケるの?」
「服、褒めてくれたの初めてじゃん」
「そうだっけ?」
強くうなずいたシュレナは、
「ワンピースの時も、何も言ってくれなかったですよね」
「んー、そういえばそうかなあ」
ロタは顔の側面をポリポリかいて、
「今はセクハラとか、色々言われかねん世の中だからねえ。服装も、下手に褒められないんだよう」
シュレナは意地悪するように、
「えー、セクハラって。どこ見てたんスか?」
ロタは気まずそうに苦笑し、
「えっ。どこって。いや、そういう意味じゃ……」
「あっ。やっぱり、い、いいですいいです」
シュレナは質問を引っ込めた。ワンピースがめくれた件を突然思い出し、恥ずかしくなったからである。
「まあとにかく、褒めていただけて超うれしいです!」
と、シュレナは締めくくる。
(よーし。私の浴衣、ロタさん気に入ってくれたみたい。着て来て正解だったな。多分、未来から見てたんだろうし。
もし浴衣じゃなかったら、今日、お祭り、来てくれなかったかも)
そう、浴衣を着たのは、「未来人」ロタをおびき寄せるための、シュレナなりの作戦だったのである。隙あらば逃げようとする、ロタへの牽制だ。
シュレナの浴衣は白。
一面に、赤いイチゴの実のイラストがプリントされている。
帯は、黄色に、白抜きの水玉模様だ。
女子二人のトークに花が咲く。
「シュレナさん、イチゴの浴衣かわいい」
「ありがとう。呼び方、シュレでいいですよ」
「ナを略すの?」
「うん。そう呼ばれてます」
「分かりました、シュレ。その原則だと、私はイリだね」
「イリちゃんでいいかな?」
「もちろん。浴衣はよく着るの?」
「ううん。去年の夏に、祖母が買ってくれた。中学の入学祝いにね。けど、着付けが面倒で。家で一回試着したきりだったなあ。
イリちゃんの浴衣は特注品?」
尋ねてから、
(ストレートに聞き過ぎか?)
と、一瞬シュレナは後悔したが、あっさりイリカはうなずき、
「そう。知り合いが作ってくれて」
「素敵。青がきれい」
会話が平穏につながったことにホッとしながら、シュレナは、普通の賛辞でワンクッションを挟んだ後、
「その人、ロボットの専門家?」
少し核心へ踏み込む。
ロタの笑顔が曇ったようにも見えたが、口は出してこなかった。
「そうだよ。私の脚を、細くしてくれた人」
何と、イリカの方から更に踏み込んできた。




