33 元・理系少女として
「いや、実はな……」
「今は言いにくいなら、別に無理して話してくださらなくていいですよ」
五秒ほど考えてからロタがゆるゆる声を出すと、間髪を入れずに、電話口のリモリがさえぎってきた。
「えっ」
ロタは面食らうも、
(ああ、これがリモリさんだったなあ)
しみじみと思い出すのだった。
十代の頃から変わっていない。気遣いが細やかなのである。
でも。
いや、だからこそ、だ。
この人には話しておきたい気がした。見解も聞きたい。
ロタは、シュレナの名前や展示会の地名は伏せ、これまでのいきさつを話した。
春の駅前での突然の出会いから、展示会におけるトラブル、祭りへの誘いまで。
リモリは、相づちと質問を挟みつつ、冷静に聞いてくれた。
十分程度で話は終わった。リモリは、
「最初の対応からして微妙だよねえ」
「展示会、行かない方がよかったかね?」
「それ以前」
「以前?」
聞き返しながら、ロタはあぐらを組み直し、自室の床で身構える。
(こりゃ、思ってたより厳しいこと言われるのかな)
との予感もよぎる。スマホもしっかり握り直す。
「その女の子がイリカちゃんのことをロボットかと疑った時点で、ロタさんが間に入らなきゃ駄目」
「むう。確かに、イリカに任せてしまったなあ」
ロタはうなる。リモリの語気がやや強まり、
「イリカちゃんは人工知能なんだから、言わばタッチパネルみたいなものでしょ。その子にどんどん押されて、イリカちゃんもそれに答えて、後戻りできなくなったんだよ」
「その前に俺が適当なこと言って、追い払えばよかったわけか」
「そ。今忙しいんだ、とかさ」
「なるほどな」
言われてみればだ。
リモリがスーッと深めに息を吸う音がした。
「だけど、イリカちゃんの指摘も、それはそれで重いよね」
シュレナの将来に貢献し得る、と述べたことである。ロタも、
「だよな。我らがたどった道でもあり」
リモリも、イリカ製作を通じて人生がひらけたのだ。
「うん。私もいろいろ出会えたからね」
と、一旦は同意しつつも、リモリは諭すように、
「でも、中学生は子供過ぎますよ。何か教えるにしても手伝わせるにしても、ちょっと無理でしょ」
「まあな……」
「中途半端にその気にさせるのはかわいそうだよ」
「かもな」
ロタの胸に痛みが走る。
ロタは弱気になり、
「いっそ、祭りも断ろうかな」
「むしろ、お祭りを最後にしたら?」
と、リモリの声が優しくなる。ロタは、
「それも手か」
「イリカちゃんとその子と、長めに話させてあげるとかさ」
「ああ、いいな」
「で、距離を置くの。
早めに切り上げないと、その年頃って、思い込みが激しい子も多いから」
「思い込み?」
「ロタさんのこと、宇宙人とか、未来から来たとか思ってるかもよ」
リモリの言葉に、
「まさか」
とロタは笑った。




