25 呼び止められる前に
職員の質問に答えているシュレナ。
「ケガなかった?」
「大丈夫です。ただ、周りの展示物を散らかしちゃって。済みません。
今から並べ直そうかと」
「それは私たち職員の仕事だけどね」
「私もお手伝いします」
「ありがとう」
会話中の二人を横目に、ロタとイリカは「撤退」を開始。
アンドロイドであるイリカは、歩行する際、体が左右に揺れ、膝を曲げ伸ばしすると関節がカリッ、キキッときしむ。
モーター音も立て、足音も人間より大きい。更には、背も高い。
普通に街なか等を歩くと、目立ってしまうのだ。
今も、女性職員は、イリカの方をちらり、ちらりと振り向いてくる。やはり、何らか違和感は抱いているようだ。
しかし、シュレナとの会話や作業が優先。幸い、呼び止められることはなかった。
ロタも、職員の視線から守るように、イリカのそばに立ち、盾になった。
出入り口から廊下へ。
シュレナの様子も気になったものの、ロタには振り返る余裕もなかった。
とにかく、イリカをこの多目的室から出すことで精いっぱいだったのだ。
「このまま帰っちゃうのは、さすがにシュレナさんに悪いよな。
しばらく、外で待ってようか?」
廊下でロタは、隣を歩くイリカにささやく。
「そうだね。見えやすい所に立ってるのがいいかも」
小声で答えるイリカ。
だが、事態はそんなに甘くはないようであった。
廊下には、他の職員らしき人や、一般の利用客らしき人が何名もいるではないか。先ほどは無人だったのに。
閉館時刻が近いからかもしれない。皆、片付けや帰り支度を始めているのだろう。
エレベーターへ乗る。無言。数人、別の利用者も乗っていたからだ。目立たぬ方がよかろう。
うち一人が、イリカの体格の大きさに驚いた表情をし、じろじろと見てきた。
一階で降り、他の人たちが通路へ散った後、ロタは、
「イリカ。駄目だ、さっきの撤回。
やはり、今日は帰った方がいい。
速やかにこの場を離れよう。人目が多過ぎる」
「分かった」
イリカも、状況を同じように分析したらしく、短い言葉で賛同。
裏口から、建物の外へ。空気はひんやりしている。
真っ正面には、高層ビルの明かりが見えた。
歩いて駐車場へ戻る。
二人でワゴン車に乗り、エンジンをかけて出発。
しばらくして、車が高速道路へ入った頃、助手席のイリカが、首を右へ回して話しかけてきた。
「この後、どうするの?」
ハンドルを握ったロタは、
「シュレナさんのこと?」
「そう」
「んー。何らかの埋め合わせはしなきゃ、だよな」
「私が原因でもあるし……」
「一概には言えないけどな。連れて来た俺にも責任はあるし。
それに、しつこく誘ってきたのはシュレナさんだから。まあ、しつこく、は言い過ぎか。相手は中学生だ。
大人である俺が、責任取らないとな」




